メルマガ116号

今回は「南西諸島軍事強化トピック」です。毎日更新している沖縄「戦前新聞」の情報を当会発揮人の新垣邦雄さんに解説していただいています。年初から軍事強化、軍拡の記事が毎日、洪水のようにあふれかえり、毎朝の記事を確認するのが憂鬱になります。しかし、この状況をしっかりとつかみ、何が起きているのか、この解説で頭の整理をし、今私たちが何をすべきかを考えていければと思います。ぜひご覧ください。
こちらをクリックしてご覧ください。

https://nomore-okinawasen.org/category/prewar/

南西諸島軍事強化トピック(3月27日~4月2日)

◇防衛費最大6.8兆円 114兆円予算成立 3割借金依存続く(琉球新報 2023.3.29)
◇陸自に国民保護専門官 避難計画 自治体に助言 来月 那覇にも配置(沖縄タイムス 2023.3.28)

 2023年度予算「防衛費最大6.8兆円」。見出しに莫大な金額が示され、あらためて日本の急激な軍事大国化に驚愕させられる。22年度6、4兆円から1兆4千億円も増え、割合にすると約4分の1をも上回る大軍拡予算だ。そしてその多くが「南西諸島防衛強化」としてミサイル開発、米トマホーク購入、ミサイル弾薬の量産、戦争に備える自衛隊施設の強靭化のため沖縄の島々に注がれる。台湾防衛のための対中戦争準備が堰を切り急速に進む現実に慄然とさせられる。

15旅団「次元の違う陸自に」
 那覇に拠点を置く陸自第15旅団長に松永浩二陸将補が着任した。15旅団は「軍事(安保)3文書」で師団への格上げが示され、大幅に人員が増える。沖縄では沖縄戦の前年3月に配置された第32軍になぞらえ「戦争部隊にほかならない」と警戒する声を聞く。前泊博盛沖縄国際大学教授はミサイル弾薬補給処の建設に反対する「沖縄市民の会」結成集会で「師団は単独で戦争ができる規模」と端的に指摘した。まさに沖縄戦時の第32軍の役割を担おうというものだろう。松永旅団長は「軍事(安保)3文書を念頭に、練度を高め「これまでとは次元の違った陸自になる」と隊員に訓示した。戦争をする異次元の自衛隊へ歩みを進める決意表明であろう。

 同旅団長は部隊統率方針として「即応性の向上、地域連携」を上げたという。有事即応の臨戦態勢を高めるということだろう。「地域連携」とはどういうことか。第15旅団などに「有事に住民避難に助言する」「国民保護専門官」を配置する、という記事が出た。「情報専門官」も置くという。国民保護法は自治体に役割を負わせ、自衛隊は責任を担わないことが従来指摘されている。その批判をかわす意図か、軍事(安保)3文書は自衛隊が関わる「国民保護」の文言が散りばめられた。あたかも自衛隊が住民を保護するかの如きである。

 しかし3文書を注意深く読むと例えば「国家防衛戦略」には「島嶼部への侵攻に対して」の書き出しで自衛隊の海上・航空輸送力、民間輸送力も活用して「部隊を迅速に機動展開する」との目標を掲げ、「南西地域の空港・港湾の活用」に踏み込みつつ、その「機動展開能力」を「住民保護に活用」と書かれている。いわば「軍事対処」と「国民保護」が混然一体のセットで記されている。「防衛力整備計画」も同様に二つをセットにした書きぶりで、「武力攻撃事態等を念頭に置いた国民保護訓練の強化、避難施設の確保」を強調している。

「軍民分離」に反する
 台湾有事対処の行き着く「武力攻撃事態」のさなか、敵国との戦闘のための輸送・機動展開力を「国民保護」に活用するとまことしやかに記されている。本当だろうか。

 軍事ジャーナリスト小西誠氏は沖縄での講演などで「安保3文書の国民保護は軍民分離の原則に反する」と批判する。「軍民分離の原則」とは戦時の住民犠牲を防ぐためのジュネーブ条約追加議定書の規定だ。戦時下で軍民を明確に分離しなければ、軍用船を疎開船として用いて米軍に撃沈され多くの学童、県民が犠牲となった沖縄戦時の「対馬丸」の悲劇のように、住民が戦闘に巻き込まれると指摘する。「対馬丸」は「往路は軍事輸送、復路は疎開輸送」であったという。軍事(安保)3文書は「国民保護」をうたいながら「軍民分離」に言及しない。もとより軍事輸送を最優先するなかで住民避難のいとまがあるはずもない。「住民避難は不可能」であり、保護を名目にした「平時の避難ー疎開が何年も続く棄民」に至るしかない、と切って捨てる。

先島「全島避難」、沖縄島「屋内避難」
 沖縄県が3月17日実施した「国民保護図上訓練」は与那国、石垣、宮古を「全住民避難」とする一方、沖縄島(本島)は「屋内避難」に留めた。ノーモア沖縄戦の会は先日、県への抗議申し入れで、「沖縄島にもミサイル部隊が配備され、米軍の嘉手納、普天間基地もある。屋内避難で済ます根拠を示せ」と迫った。公室長は「離島の避難困難性」を挙げたが「石垣、宮古の5万人を地元空港から避難させるより130万人住民を沖縄島からたった一つの那覇空港から避難させる方が困難性が高いはずだ」とさらに追及した。避難困難性の明確な説明はなく「離島自治体の意向を踏まえた」と不明確な説明に終わった。

 「台湾有事に米軍が関与すれば沖縄、嘉手納がまっ先に狙われる」と専門家は指摘している。沖縄島の住民が「屋内避難」で無事にいられるはずがない。実効性なき「国民保護計画」、15旅団の「国民保護専門官」に扇動されては、住民の犠牲を当然視する戦争準備に加担することにしかならない。

◇平和外交求め意見書可決 県議会 安保3文書懸念、全国初(琉球新報 2023.3.31)
◇平和外交 意見書を可決 県議会賛成多数 軍備増強「緊張高める」(沖縄タイムス 2023.3.31)
◇意見書要旨(琉球新報 2023.3.31)
◇県議会平和外交意見書可決 県民の懸念映し出す 保守系巻き込みに「意義」(琉球新報 2023.3.31)
◇自民は反対論展開 安保3文書評価、抑止力重視(琉球新報 2023.3.31)
◇社説 平和外交意見書 外交と対話で脅威克服を(琉球新報 2023.4.1)
◇知事23年度訪中検討 副知事 駐日大使と面会へ 福建省と交流促進(沖縄タイムス 2023.3.30)
◇知事、地域外交を本格化 担当室設置 問われる手腕 政府は成果に懐疑的(沖縄タイムス 2023.4.1)
◇公明党議員団 5月訪中調整 邦人拘束受け対話強化(琉球新報 2023.3.30)
◇論壇 原田みき子 先島にミサイル発射機 住民の命 守る気がない国(沖縄タイムス 2023.3.31)

「抑止強化が緊張高める」
 沖縄県議会は軍事(安保)3文書を批判し「対話外交」を首相、衆参両院議長に求める意見書を賛成多数で可決した。革新系与党だけでなく保守的な中立会派も賛成に回った。「安保3文書、反撃能力保有、防衛強化のための南西地域の空港・港湾の整備強化、旅団の師団への改編」、島々へのミサイル配備、弾薬庫建設は「軍備強化による抑止力強化がかえって緊張を高め不測事態の危険性が増す懸念を拭えない」、「反撃(敵基地攻撃)能力による攻撃はミサイルの報復は必至で沖縄が再び標的とされる」などと記する内容だ。琉球新報に掲載された「意見書要旨」をぜひ熟読してほしい。

 記事に「安保3文書の防衛力強化方針に都道府県議会が懸念を示した意見書は初めてと見られる」と記されている。恐らく市町村議会を含め全国初であろう。多数決可決とはいえ安保3文書を正面から批判、敵基地攻撃は報復を招くとし「軍事抑止でなく外交、対話の平和構築」を政府に提起したのは画期的だ。

 意見書は「日中両国の諸原則を順守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題解決を」とも記している。

 自民党は意見書に反対した。自民の反対論も新報は記事にしている。野党の自民会派は「3文書を評価する立場」から質疑や討論を展開。政府の防衛力強化方針を評価し、「防衛力強化が沖縄を再び戦場にするとの本末転倒の理屈」と意見書を批判した。

「平和の党」の看板が泣く
 与野党の対立は県民の分断状況を象徴している。「軍事力(防衛力)、抑止力強化」か「ミサイル基地反対」かの対立点が明確になったことは意義が大きいとも言える。
 沖縄の新聞には連日のように読者面の「論壇」に沖縄の軍事要塞化に反対する投稿、読者の「声」が掲載されている。意見書の記事と同じ日に載った論壇、原田みき子氏は「ミサイル戦争になのだから、一瞬のうちに廃墟と化し全滅もありうるだろう」と記した。「住民の命 守る気がない国」と政府を批判し、「自民党と連立を組む公明党の皆さんにも聞いてみたい。「平和の党」の看板が泣いている。うまく使われるだけでは自滅するしかないだろう」と自民党政権を支える公明党にも批判を向けた。

 筆者にも公明党や創価学会の友人が何人もいる。「日中国交正常化に道を開いた公明党、日中友好を先導し核兵器廃絶を訴えた池田大作さんが泣いているよ。自民党に取り込まれて中国と戦争する羽目になっていいの」と問いかけると、そうだよね、と頷く。彼らの本意ではないのだ。「平和の党」に引き戻す公明党、創価学会への働きかけも重要だ。

デニー知事訪中へ
 県議会の意見書と軌を一に、玉城デニー知事が23年度中に中国を訪問する計画が記事になった。後ろ向きな日米政府に任せているわけにはいかない。県独自の「自治体外交」を提唱し、23年度は「地域外交室」を設ける。沖縄は中国とも台湾とも歴史的に親しく交流が盛んだ。さっそく照屋義実副知事が東京で呉江浩駐日中国大使に面談。玉城知事が訪中する際の中国側要人との面談への協力を求めた。玉城知事には中国習近平氏、台湾にも赴いて蔡英文総統との会談もぜひ実現してほしい。

 沖縄でも県内外の有志による「沖縄・台湾対話プロジェクト」が台湾・沖縄の戦争回避の取り組みを進めている。その中で最近、台湾の4学者が「米中戦争にノー」と中台問題の平和解決を訴える声明が発表されたという貴重な情報があった。4学者はどちらかといえば従来、民進党に近い学者という。台湾や香港でニュースになったが国内では報じられていないようなので簡略に紹介したい。

台湾4学者「米中戦争にノー」
 台湾4学者の声明は、ロシアのウクライナ侵攻を批判しつつ、「ロシアの玄関口で米国とNATOが行なった挑発的な軍事挑発に疑問」と批判し「NATOの兵器がウクライナに注ぎ込まれる限り、この戦争は終わらない」と主張。「米国の軍国主義と経済制裁を止める」の1項目を特記して米国を名指しで批判。「米中戦争にノー」の項目では「必然的に台湾を犠牲にする高官の訪問を歓迎しない。明らかに挑発と解釈される可能性のある軍事協力も支持しない」と明記する。「台湾は自治を維持し、大国との距離を保つべきだ」、米中は「平和的手段で意見の相違を解決すべきだ」と双方の軍拡競争でなく、戦争に陥らない外交・対話による「台湾海峡両岸の安全の維持」を訴えている。

 「軍拡競争でなく軍縮対話を」、「アメリカか中国か」の二者択一ではない「大国との等距離外交」が4学者声明の本旨であろう。対話プロジェクトは台湾だけでなく中国人有識者との意見交換も予定している。沖縄は軍事対決の拠点でなくアジアの平和交流拠点とすべきことを多くの有識者が提起している。沖縄県の自治体外交がその橋渡しを担うことを期待したい。

◇尖閣 エスカレートしていない 中国船滞在最長 11管本部長「肌感覚」(沖縄タイムス 2023.3.31)
◇尖閣情勢「激化感じない」 11管本部長 離任会見で見解(琉球新報 2023.4.1)

「尖閣」激化していない
 中国脅威論を煽り続ける日米政府。第11管区海上保安本部の一條正浩本部長は退任会見で尖閣周辺の情勢について「現場の肌感覚としてエスカレートしていると感じる現象はなかった」と述べた。方面管区の最高責任者が尖閣情勢は「激化していない」という異例の勇気のある発言だ。中国海警局船舶の尖閣諸島周辺での滞在が増えているとしつつ、「相手の動きは天候や日本漁船の動きに左右される要素が非常に強い」とした。中国側を煽る日本側の動きを示唆するものであろう。

 有事の際に海上保安庁が防衛大臣の指揮下に入る「統制要領」について「それぞれの組織の長所を最大限に生かした最適な役割分担を願う」と述べたことも重要だ。海上警察的な役割を担う海上保安庁が防衛省の指揮下で一体的運用となることを危惧する発言であろう。

 朝日新聞によると一條氏は「引き分けをキープすることが重要。武器で負けているとの指摘もあるが、職員の能力でカバーできる。総合的に考えると現状で対応できる」と武器装備の強化にも反対する意見だ。日米中のはざまに置かれる尖閣、沖縄の軍備強化はかえって軍事緊張と戦争に陥るリスクを高める、という「現場の肌感覚」であろう。前のめりの首相、防衛相に噛みしめてほしい現場の声だ。

3月27日(月)https://nomore-okinawasen.org/6713/

有事回避へ若者ら議論 名護 基地、自衛隊配備巡り(琉球新報 2023.3.27)
社説 二つの戦争と住民犠牲 「文民保護を徹底させよ」(沖縄タイムス 2023.3.27)
自衛隊南西シフトを問う 安保「最前線」の現場から 識者の見方① 松田康博 米台と抑止力維持を 長期化で中国息切れに(琉球新報 2023.3.27)

3月28日(火)https://nomore-okinawasen.org/6744/

陸自に国民保護専門官 避難計画 自治体に助言 来月 那覇にも配置(沖縄タイムス 2023.3.28)
論壇 松川猛 戦時体制づくり目的にした避難訓欄 「反戦の声」上げ続けよう(琉球新報 2023.3.28)

3月29日(水)https://nomore-okinawasen.org/6761/

大弦小弦(沖縄タイムス 2023.3.29)
金平茂紀のワジワジー通信2023 ■3 自衛隊員の銃に重なる「日毒」 南西諸島の軍拡を危惧(沖縄タイムス 2023.3.29)
防衛費最大6.8兆円 114兆円予算成立 3割借金依存続く(琉球新報 2023.3.29)

3月30日(木)https://nomore-okinawasen.org/6798/

知事23年度訪中検討 副知事 駐日大使と面会へ 福建省と交流促進(沖縄タイムス 2023.3.30)
公明党議員団 5月訪中調整 邦人拘束受け対話強化(琉球新報 2023.3.30)
台湾総統、往復で米経由 中米訪問 下院議長と階段も(琉球新報 2023.3.30)
中国「必ず反撃する」 米台接触に対抗措置警告(琉球新報 2023.3.30)

3月31日(金)https://nomore-okinawasen.org/6826/

平和外交求め意見書可決 県議会 安保3文書懸念、全国初(琉球新報 2023.3.31)
平和外交 意見書を可決 県議会賛成多数 軍備増強「緊張高める」(沖縄タイムス 2023.3.31)
意見書要旨(琉球新報 2023.3.31)
県議会平和外交意見書可決 県民の懸念映し出す 保守系巻き込みに「意義」(琉球新報 2023.3.31)
自民は反対論展開 安保3文書評価、抑止力重視(琉球新報 2023.3.31)
副知事、中国大使と面会 交流促進や訪中意向伝達(沖縄タイムス 2023.3.31)
中国「新冷戦に反対」 李首相、米国けん制(琉球新報 2023.3.31)
尖閣 エスカレートしていない 中国船滞在最長 11管本部長「肌感覚」(沖縄タイムス 2023.3.31)
論壇 岸本定政 軍拡に前のめりな岸田政権 平和外交に徹するべきだ(琉球新報 2023.3.31)
「次元に違う陸自になる」松永氏、15旅団長着任(琉球新報 2023.3.31)
陸自の旅団長に松永陸将補着任 地域と連携重視(沖縄タイムス 2023.3.31)
自衛隊職業体験中止を 新婦人の会 県教育庁に要請へ(琉球新報 2023.3.31)
論壇 原田みき子 先島にミサイル発射機 住民の命 守る気がない国(沖縄タイムス 2023.3.31)

4月1日(土)https://nomore-okinawasen.org/6866/

知事、地域外交を本格化 担当室設置 問われる手腕 政府は成果に懐疑的(沖縄タイムス 2023.4.1)
尖閣情勢「激化感じない」 11管本部長 離任会見で見解(琉球新報 2023.4.1)
「南西強化進める」 陸自トップ就任会見(沖縄タイムス 2023.4.1)
自衛隊の運用抜本強化図る 統幕長(琉球新報 2023.4.1)
那覇防衛事務所縮小し出張所に きょうから(琉球新報 2023.4.1)
社説 平和外交意見書 外交と対話で脅威克服を(琉球新報 2023.4.1)
日中間に直通回線 防衛当局 合意16年、稼働へ(琉球新報 2023.4.1)
「自衛官の人権尊重」決議 石垣市議会 全会一致、野党7人退席(琉球新報 2023.4.1)
記者のメモ 国民保護へ尽きぬ悩み(沖縄タイムス 2023.4.1)

4月2日(日)https://nomore-okinawasen.org/6896/
業務隊新編 隊旗を授与 陸自宮古島駐屯地(琉球新報 2023.4.2)
陸自宮古駐屯地「業務隊」を新設 宿舎の維持管理担う(沖縄タイムス 2023.4.2)

新垣邦雄(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 発起人)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

以下の注意事項をご確認の上、良識あるコメントにご協力ください

  • コメントをいただいてから掲載まで、お時間をいただくことがございます。
  • 各コメントに対して当会より個別の返信はおこないません。回答を必要とする当会へのお問合せは、お問合せフォームにてお受けいたします。
  • 当会の目的や参加者の交流促進に寄与しないと当会が判断したコメントは、掲載を見送らせていただく場合がございます。
  • 投稿コメントの公開を希望しない場合は、コメントの記入欄にその旨ご記載ください。また、お名前のみ公開を希望しない場合、お名前欄にペンネームをご記入ください。

*