メルマガ71号

今回のメルマガは当会オブザーバーの小西誠さんの寄稿です。小西さんには11月12日のノーモア沖縄戦の基調講演をお願いしております。今回のテーマは陸自が南西シフト下の「島嶼奪回」作戦に運用すると、盛んに宣伝している「水陸機動団」です。ミサイル戦の時代にいかに陳腐で無用の舞台であるかを数々の論拠をもとに、明快に解説しています。ぜひお読みください。

⑧無用の長物と化した水陸機動団

●水陸機動団とは――その部隊編成
 水陸機動団というと、自衛隊がよく紹介するのは、ゴムボートに乗った隊員が、海上から陸へ上陸する絵図だ。だが、この部隊は、水陸機動団の中でも特殊な「火力誘導中隊」であり、夜陰に乗じて島々へ潜入し、艦砲射撃、空爆などの陸・海・空自衛隊の火力誘導を任務とする部隊である。
水陸機動団の前身は、2002年、長崎県相浦で発足した西部方面普通科連隊であり、2018年3月、部隊は正式に約2400人態勢でスタートした。現在の部隊規模は、2個連隊であるが、2023年までに第3水陸機動連隊も編成される予定だ(長崎県大村市・竹松駐屯地)。また、水陸機動団を航空輸送する「輸送航空隊」(オスプレイ17機)も編成されているが、予定する佐賀空港の用地問題が解決できず、千葉県の木更津市に暫定的に配備されている。

オスプレイ部隊は、現在、第1ヘリコプター団の傘下に、輸送航空隊の隊本部、整備隊、オスプレイ運用の107、108飛行隊などで編成されており、隊員は約430人。
 さて、水陸機動団の部隊編成の内訳は、団本部と3個水陸機動連隊(1個連隊は約620人)、戦闘上陸大隊(水陸両用車基幹の部隊2個中隊約180人)、特科大隊(約180人)、偵察中隊・通信、施設中隊、後方支援部隊、その他で総人員約2100人で構成される。この水陸機動連隊、戦闘上陸大隊による「敵前上陸」で運用されるのが、水陸両用車(AAV7)であり、陸自全体では、現在58両を調達している。
 水陸機動団の配備先は、団本部が置かれている長崎県相浦駐屯地ほか、大分県の湯布院、玖珠駐屯地など九州北部・中部に、多岐にわたって配置されている。
 水陸機動団の主力部隊が、戦闘上陸大隊の装備する水陸両用装軌車両(AAV7)であり、陸自の実戦部隊ではこれを唯一装備し、水陸機動団(主に水陸機動連隊の隊員)を輸送艦から揚陸地点へ上陸させるとともに、上陸前後における部隊の火力支援を主作戦とする。
戦闘上陸大隊は、2個戦闘上陸中隊を基幹とし、隊本部および本部管理中隊、第1戦闘上陸中隊、第2戦闘上陸中隊で編成される。

●水陸機動団の作戦運用
さて、水陸機動団の主作戦、いわゆる「島嶼奪回作戦」とは、どんな作戦なのか。
筆者は、この作戦を分析するために防衛省に情報公開請求をしたのだが、提出された陸自教範『水陸両用作戦』(2016年・統合幕僚監部)は、42頁の半分が黒塗りという、とんでもない内容のシロモノだった。
ところが、だ。2019年1月、米統合参謀本部は、水陸両用作戦に関するドクトリンをインターネットで公表したが(『Amphibious Operations(水陸両用作戦)』)、その全文284頁に及ぶ内容は、全く黒塗りなしだ。米軍は、教範を全面公開し、この作戦に関する意見を国民に求めているのに、自衛隊の教範はほとんど黒塗りという状態、これが自衛隊の隠蔽体質を表している。  
問題は、この米海兵隊のドクトリンをよく見ると、陸自教範は、これをそっくり真似しているという驚くべきものだ。しかも、284頁が、わずか42頁に。

陸自教範は、第1章総説で「水陸両用作戦の種類」を記載し、それを水陸両用強襲、水陸両用襲撃、水陸両用陽動、水陸両用後退と記載しているが、これは米軍の記述の完全なコピーである。
自衛隊の教範は、黒塗りで判読が難しい状態であるから、公開されている米軍の『水陸両用作戦』に基づいて、少しその具体的内容を検討してみよう。
米軍教範は、まず「水陸両用作戦とは割り当てられた任務を達成するべく、上陸部隊を海岸部に嚮導(きょうどう)することを第1の目的とし、艦船あるいは航空機に搭載された水陸両用作戦部隊(Amphibious Force:AF)によって海上から投射する軍事作戦」であるとする(嚮導とは、先頭に立って部隊を導くこと)。
この水陸両用作戦は、複数の軍事作戦領域にまたがって遂行され、次の5つの嚮導に分別されると記述している。すなわち、「水陸両用強襲」(Amphibious Assault)、「水陸両用襲撃」(Amphibious Raid)、「水陸両用陽動」(Amphibious Demonstration)、「水陸両用撤退」(Amphibious Withdrawal)、そして「水陸両用支援」(Amphibious Support)である。そして、その詳細はー、
・水陸両用強襲とは、敵性あるいは潜在的敵性圏内の海岸部に、上陸部隊を展開することである。
・水陸両用襲撃とは、あらかじめ撤退までを含めて計画された迅速な襲撃もしくは目標の一時的占拠を含む水陸両用作戦の種類の1つである。
・水陸両用陽動とは、敵が我の行動に惑わされ、敵自身が不利となるような行動方針を選択することを期待し、部隊が欺瞞行動をとって見せることである。
・水陸両用撤退とは、敵性もしくは潜在的敵性圏内の海岸部から、船舶もしくは航空機によって海上に部隊を引き揚げることである。
・水陸両用支援とは、紛争防止あるいは危機沈静化に寄与する種類の水陸両用作戦である。
このような「水陸両用作戦はその性質上、統合運用を前提としており、また状況によって広範囲の航空、地上、海上、宇宙そして特殊作戦部隊の参加を要する」とし、「作戦を成功に導くためには、水陸両用作戦部隊は、局地的な海上・航空優勢を確保するとともに、海岸部において敵に対し確実な優勢を確保すべき」と提示している。

●陳腐化した水陸機動団の強襲上陸
 自衛隊の水陸両用作戦に関する教範は、すでに述べた『水陸両用作戦』(2016年制定)のほか、統合幕僚監部の編纂する『統合運用教範』(2017年)などが作成されている。
『統合運用教範』は、統合幕僚監部が監修する、自衛隊の作戦運用に関する最高教範である。この教範が定める「水陸両用作戦」についても簡潔に紹介してみよう(同書第3章第3節第5款「着上陸作戦」)。
まず、水陸両用作戦の意義について教範は、「着上陸作戦(水陸両用作戦)は、敵の支配下にある我が領土に対し、事前の火力制圧等により、沿岸部の敵を無力化し、着上陸に必要な安全を確保した上で陸上部隊を着上陸させ、じ後(ママ)の陸上作戦を実施するための基盤となる海岸堡の確保や島嶼の奪回等のために行う作戦である。なお、着上陸作戦の一部として、陸上自衛隊及び海上自衛隊の部隊で編成される水陸両用統合任務部隊により実施される作戦を水陸両用作戦という」
この記述はありきたりであるが、ここで大事なのは「水陸両用統合任務部隊」という新しい編成部隊が謳われたことだ。

実際に水陸両用作戦とは、どういうものか。ここ10年、自衛隊内の研究誌は、旧日本軍による「島嶼戦争」――ガダルカナル、サイパン、沖縄戦などの戦いの研究を盛んに行っている。筆者もまた、自衛隊の南西シフトの策定前から、これらサイパン、テニアン、グアム、フィリピン、沖縄などでの、かつての「島嶼戦争」の実態を現地に即して見てきた(拙著『サイパン&テニアン戦跡完全ガイド』など参照)。
これらの島々には、今なお、当時の「島嶼戦争」の傷痕――トーチカ、掩体壕、司令部用や水際戦闘のための、網の目のようなトンネル群などが、島々の水際近くに多数残されている。これらのサイパン、沖縄などの「島嶼戦争」において、米軍(海兵隊が主力)が勝利したのは、その圧倒的な制海・制空権の獲得下においてであった。旧日本軍は、この戦闘以前に、すでに戦闘機、空母のほとんどを失い、陸上兵力だけの戦闘に頼るほかなかったのだ。

このアジア太平洋での、かつて「島嶼戦争」における「強襲上陸作戦」を、戦後においても世界中で任務としてきたのが米海兵隊である。
だが、この米海兵隊の「強襲上陸」を中心とする水陸両用作戦が、もはや、陳腐化し、不可能な作戦として、根本的に歴史的転換を迫られてきたことは明らかだ(朝鮮戦争下の1950年「仁川上陸作戦」が、米海兵隊の最後の強襲上陸戦だ!)。
この大転換が、米海軍・海兵隊の「フォース・デザイン2030」(2020年3月、米海兵隊司令官デイヴィット・バーガー構想)であり、「海兵隊作戦コンセプト」(2016年)などの策定であった。
米海兵隊の、強襲上陸を軸とする水陸両用作戦の問題は、A2/AD環境下での制海・制空権の「絶対的確保」が困難になったこともあるが、現代のミサイル戦争下においての強襲上陸は、上陸部隊が格好の標的となることによる。つまり、強襲上陸作戦は、島嶼からわずかに離れた艦艇から水陸両用車などの上陸部隊が発進するが、これらの上陸部隊は、ミサイル戦の発達した現在、格好のターゲットになってしまったのだ。
もちろん、これら水陸両用車の発進基地である、多数の艦艇群なども、ミサイル戦の格好の標的である。仮に味方軍事力が、制海・制空権を確保していたとしても、占領された島々からの短・中射程ミサイルだけでなく、潜水艦、水上・空中の長距離から発射されるミサイル、さらには、中国本土から発射される無数のミサイルの標的になることは疑いない。

自衛隊が予定する、強襲上陸戦では、輸送艦から発進する水陸両用車は、およそ10キロ沖が想定されるようだが、この距離は、ミサイルだけでなく、陸上の各種砲撃隊の射程圏であり、完全な標的だ。もっとも、水陸両用車が、島々の近海で発進するのは、この車両が荒波に弱いという弱点があるからだ(実際、米海兵隊では水没事故も起こっている)。
したがって、米海兵隊の水陸両用作戦では、水陸両用部隊(水陸両用車ではなくオスプレイ)の発進は、400海里前後の距離から、ということも検討されているが、この距離でもミサイル戦の時代においては、安全な作戦とは言えない。
こうしてみると、陸自が2018年から発足させた水陸機動団が、もはや陳腐な存在、無用の部隊と化したことは明らかだ。強襲上陸を主として行うその作戦運用も、水陸両用車を運用する戦闘自体も、同様である。
陸自は、この水陸機動団を南西シフト下の「島嶼奪回」作戦に運用すると、盛んに宣伝してきたが、「先生」として一から教わってきた米海兵隊による大転換で、まさしく発足直後というのに危機に陥ってしまっているのだ(水陸両用車も、米海兵隊が1970年代初めに開発してきた古い代物を大量に買わされた!)。
では、陸自の水陸機動団は、米海兵隊のような大転換ができるのか。それも不可能と言うべきである。

自衛隊の南西シフトでは、琉球列島――第1列島線の島嶼には、すでに警備部隊(普通科)や地対艦・地対空ミサイル部隊が「事前配備」されており(されようとしている)、水陸機動団のような「軽装備」部隊の必要性はないのだ(緊急増援の機動連隊には、105ミリ榴弾砲を装備した重装備の機動戦闘車が配備)。
米軍のA2/AD下での「遠征前方基地作戦」(EABO)では、水陸両用部隊(海兵隊)と、地対艦・地対空ミサイルなどを装備する部隊が、機動的に、一時的に「前方配備」され、一体的に運用されるが、陸自の水陸機動団には、そのような装備や編成はないし、必要ともされていない(日本の場合、島々への事前配備部隊で事足りる)。

自衛隊の、特に海自の幹部たちは、水陸機動団の発足は、戦略上の必要性ではなく、陸自のロビー工作の結果ではないかと疑っている、といわれているが、米海兵隊に憧れた、陸自幹部らの子どもじみたお遊び(日本型海兵隊がほしい、水陸両用車が欲しい)が、この編成になったということだろう。
もっとも、その海自もまた、陸自と同様の、「空母の保有熱」(大日本海軍への憧れ)が昂進しているというわけだ(本来、琉球列島を基地とし、西太平洋で作戦する場合、空母は必要ない、どころか「空母は動く棺桶」とも言われる)。

小西誠(軍事ジャーナリスト、ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)

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