メルマガ63号

今回は今年6月に講演いただいた岡田充さんの日米台同盟狙う「台湾政策法」~南西諸島の戦場化を加速と題した琉球新報の論稿の転載です。緊張緩和でなく、戦争への道を開こうする状況について緻密な取材に基づいて論じいただきました。今何が起きようとしているか、ぜひお読みください。

日米台同盟狙う「台湾政策法」~南西諸島の戦場化を加速

台湾をめぐる米国の対中挑発が止まらない。ペロシ米下院議長の台湾訪問に続き、今度は米上院外交委員会が9月14日、台湾を同盟国にして外交特権を与え、攻撃用兵器も供与する「2022年台湾政策法案」を可決した。法案から垣間見えるのは、米国を軸に「日米台軍事同盟化」を急ぎ、共通の戦争シナリオによって南西諸島を戦場化する思惑である。
台湾を事実上国家承認
 法案を提出したのはリンゼー・グラム上院議員(共和)ら2人。グラム氏らは22年4月に台湾を訪問し蔡英文総統とも会談し、法案内容をすり合わせた。法案が上下両院本会議を通過、大統領が署名して条文通りに履行すれば、米国の「一つの中国」政策は完全に骨抜きになる。
 主な内容をみよう。対台湾政策では台湾を事実上国家承認し外交特権を付与する。「台湾の民主政府を合法的代表として関与させ」、「中華民国の国旗」の掲揚など台湾の主権を象徴する行動を認めるよう、国務省に提言した。
さらに「台湾への外交待遇は他の外国政府と同等」として外交特権を与え、台湾代表機関である「台北経済文化代表処」の名称を「台湾代表処」に変更するよう求めた。この問題では、リトアニアが2021年、「台湾代表処」の名称を使ったことに中国側が反発、外交問題に発展した。名称変更すれば、日本を含め世界中に中国との対立が波及する。
攻撃用兵器の供与も
米台軍事協力の内容はもっと際どい。「台湾を主要な非NATO(北大西洋条約機構)同盟国に指定」と明記し日本、韓国と同等の地位を付与。さらに防衛的兵器の台湾供与を規定した「台湾関係法」を改訂し、「攻撃用兵器」の供与も可能にする。
武器売却だけでなく「譲渡」も容認し、今後約5年で65億ドル(約9300憶円)分の資金を供与し、軍産複合体の利益に目配りする。資金供与は、台湾が軍事費を前年度より増額することが条件だ。台湾は8月末、2023年度軍事予算を22年比13・9%増額するよう提案した。
台湾の軍事費増額は6年連続で、域内総生産(GDP)比は2.4%と、今年度の1・65%から大幅に上昇した。米要求に忠実に従ったのである。法案はまた、国防総省に台湾防衛ための「戦争計画の策定」を求め、台湾との(軍事)作業部会設置を求めた。これが実施されれば、米台軍事協力は、日米同盟並みになる。

日台戦争計画を共有化
ここまで読むと、岸田政権が年末に改訂する「国家安全保障戦略」など安保3文書が、現在GDP比1%の防衛費を5年程度で2%に倍増し、「敵基地攻撃能力」のため相手の射程圏外から攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル)保有という計画が頭に浮ぶ。
この法案を、台湾有事を念頭にした日米軍事一体化と重ね合わせてみると、米国を「要」にした、「日米台同盟化」を射程に置いているのが分かる。
バイデン政権は22年2月に発表した「インド太平洋戦略」で、台湾有事を想定し米軍と自衛隊の相互運用性向上を目指し、日本など同盟国との「統合抑止力」強化戦略を提起した。日米台同盟を機能させるには、戦争計画(共同作戦計画)、兵器支援計画、軍事訓練計画に至るまで、日米台を有機的に結合させなければならない。

緊張激化させ米一極支配維持
法案は米国の「一つの中国」政策を否定する内容だから、中国は猛反発する。人民日報系の「環球時報」は2021年9月、米政権が台湾代表機関の改名に踏み切った場合「駐米大使召還は最低限の対応」とし、中国が許容できない「レッドライン」を越えたと認定し、台湾への「経済封鎖と空軍機の台湾本島上空の飛行」を挙げた。
ペロシ訪台に対する「大軍事演習」を越える規模の軍事的対応となり、台湾海峡は「武力行使」寸前の危険な状況に陥る恐れがある。
南西諸島を戦場化しようとする米国の同盟強化戦略の意図は何か。バイデン氏は、台湾問題を米中対立の「核心」に据えたが、米一国ではもはや中国に対抗できないから、同盟強化が必要なのだ。

「安倍遺言」が実現へ
同時に、中国を挑発して中国から軍事的対応など過剰反応を引き出し、中国の威信を失わせる戦略的「行動パターン」に基づいている。それによって中国の台頭を抑え、米国の一極覇権を維持するのが目的だ。米国が望むのは、緊張緩和ではなく激化なのだ。
日米台同盟化を意識した動きが出始めている。アーミテージ元国務副長官は22年6月、有事の際、米軍が台湾に武器を供与する拠点を「日本に置く」と公言した。これを受け、浜田靖一防衛相も、南西諸島に武器庫と燃料タンクを増設すると表明した(『日経』9・7)。南西諸島「戦場化」に備えた動きだ。
西太平洋のパラオでは7月、日本の自衛艦と米英軍艦に交じり、台湾巡視船が合同演習に極秘裏に参加していることも表面化した。「台湾有事は日本有事」と、台湾有事への日本関与を煽った安倍晋三元首相の「遺言」が着々と実現しつつある。(了)

※琉球新報9月23日 文化面を転載しました。

岡田 充(共同通信社客員論説委員)

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