今回のメルマガは軍事評論家の小西誠さんからの投稿です。本稿では、日本政府が防衛力強化のために現在の空港、港湾を、自衛隊の戦闘機、艦船が使用できるよう整備し、戦時には軍事優先で使用しようとしていることについて、具体的な計画を示しながら明らかにしています。小西さんは、石垣島・宮古島などのミサイル基地化が最終段階を迎える中、この空港、港湾施設の整備は自衛隊の戦時体制づくりの第二段階であると指摘します。民間輸送力を活用して円滑に各部隊へ物資が移動できるよう、戦時には兵站施設として空港、港湾施設を使用しようとしていることに警鐘をならしています。すでに自衛隊法103条(「防衛出動時における物資の収用等」)によって、指定公共機関とされている空港・港湾やフェリーなどの船舶・交通機関(および労働者)は、戦時には有無を言わさず徴発・徴用されることが定められており、民間の人もモノも凄まじい勢いで軍事化の地ならしがすすめられていることを直視していく必要があります。そして本稿最後で紹介された、陸自の元幹部が人間の住んでいる島を「不沈空母」と見なし、戦時には全島避難ができないことを明言していることは看過できないことです。本稿をぜひお読みいただき、拡散してください。
<軍事化迫る空と海 11・23県民集会>上
空港・港湾を戦時動員/実戦態勢づくり本格開始
10月6日付八重山毎日新聞によると、政府各省庁の課長ら19人が同5日、竹富町役場と石垣市役所を訪れ、波照間空港を「特定重要拠点空港」に指定する計画などを示し、防衛態勢の強化のために滑走路を延長するよう求めたという。新石垣空港はもとより、滑走路が800メートルしかない波照間空港までも「軍民共用」を口実として軍事化されることは、多くの住民にとって衝撃的であったに違いない。
「公共インフラ」
この空港軍事化の決定は、2023年8月25日の閣議「総合的な防衛体制の強化に資する取組について(公共インフラ整備)」による。閣議決定では、防衛力強化の目的で拡充する公共インフラ候補として、特定重要拠点空港・港湾を選定し、24年度予算に必要経費を計上するとしている。
報道によると、10道県の33空港・港湾が指定(14空港・19港湾)の対象候補で、そのうち16空港・港湾が、琉球列島、九州、四国にある。
具体的に指定空港は、与那国、新石垣、宮古、那覇、鹿児島、宮崎、高知などが候補リストに入っており、いずれも「台湾有事」の際、自衛隊部隊が展開、補給拠点として使用するとしている。そして、与那国、新石垣、宮古空港は滑走路2千メートルを延長し、その他は、駐機場、誘導路(那覇空港)、格納庫を新設して自衛隊機が使用すると検討されている。
また、与那国島には、護衛艦などが接岸可能な新港を造り、石垣港、宮古島平良港、那覇港、熊本港、博多港、高松港、敦賀港、室蘭港、苫小牧港などについては、岸壁を改修し護衛艦の接岸に備えるという。
これらの民間空港・港湾の軍事化の目的について、閣議決定は「安全保障環境を踏まえ…必要な空港・港湾等を整備し、自衛隊・海上保安庁の艦船・航空機が平時から円滑に利用できるようにすることが必要」としたうえで、有事には「航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開」と明記する。
つまり、自衛隊が琉球列島の民間空港・港湾を、平時から訓練・演習などで活用するだけでなく、戦時には制海・制空権を確保するために、これらの施設を管理下に置くということだ。
そしてもう一つの目的は、戦時における陸上自衛隊の全師団・旅団の南西諸島への緊急動員―機動展開の一環として、さらには、兵站(へいたん)(補給)拠点として空港・港湾を確保するということだ。
付言すると、特定重要拠点空港・港湾については「平時から活用」としているが、指定公共機関とされている空港・港湾やフェリーなどの船舶・交通機関(および労働者)は、戦時には有無を言わさず徴発・徴用される(武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律、自衛隊法第103条「防衛出動時における物資の収用等」)。
民間輸送力活用
さて、言うまでもなく、閣議決定された「特定重要拠点空港・港湾」は、22年国家防衛戦略(NDS)、防衛力整備計画で策定された有事態勢づくりに基づくものだ。
国家防衛戦略では、閣議決定とほぼ同文の「島嶼(とうしょ)部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保」「輸送力・航空輸送力の強化」が謳(うた)われ、また「民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施」するとしている。
これまで自衛隊の南西シフトは、石垣島・宮古島などのミサイル基地化が中心であり、この配備計画が最終段階を迎えつつある今(長射程ミサイルなどの新配備も続く)、自衛隊の戦時態勢づくりは、第2段階を迎えつつある。ここでは、南西諸島への機動展開、弾薬など兵站拠点確保、さらには東シナ海の制海・制空権確保のために、琉球列島の主要な民間空港・港湾の軍事化、軍民共有化が急ピッチで進められている(デュアルユース[軍民両用]という名目)。
つまり、「台湾有事」を喧伝(けんでん)しながら、沖縄から日本全土への戦時態勢づくりが、文字通り「実戦」を想定しながら本格的に開始されたということだ。
「平時からの軍民両用化」は、琉球列島の軍事化の始まりに過ぎないことを認識すべきである。これを許容したとするなら、さらに琉球列島の本格的な、凄(すさ)まじい軍事化が行われるということだ。
全島避難は困難
これについて元陸自の西部方面総監・用田和仁は、以下のようにいう(「日本の国防」第70号)。
「南西諸島の島でもそうですが、中国本土から大体1000キロから1200キロ、南シナ海では2000キロ離れた所に、いかに空港が必要か、それは海洋戦力、いわゆる海上優勢を取るためには、航空優勢が絶対要るわけです。そのためには滑走路が必要なのです。いわゆる海上優勢のための航空優勢、航空優勢を取るためには、近くて重要な第1列島線の要所に空港を確保するということは、西太平洋に出て行く上で非常に大切な、いわゆる死活的重要な問題…では南西諸島はどうなっているのかというと、1500メートル以上の滑走路がある島が14あります。そしてもっと短い滑走路を入れると20あります」
つまり、用田は、波照間空港、新石垣などの空港ばかりか、南西諸島の20の民間空港の全てを軍事化することを公言する。用田はさらに言う。
「我々はこれだけの不沈空母をもっているのだし、この20の滑走路のある島に94%の人が住んでいるのです。ですから、何かあったときに155万人の人を全部島から、いわゆる全島避難させたりすることはなかなか難しいかもしれませんが、6%の島、いわゆる残りの島から全島避難させるということはあり得るのだ」
このように、元自衛隊幹部も有事の際の全島避難は困難だと認めているのだ。
小西誠(軍事評論家)
※本稿は小西さんの了解を得て2023年11月09日(木) 琉球新報の文化欄掲載の記事を転載しています