メルマガ83号

今回は当会オブザーバーの小西誠さんの10回目の寄稿です。77号に引き続き、馬毛島、種子島のの現状について詳しく解説していただいています。特に今回注目すべき内容は、瀬戸内分屯地の弾薬庫の規模です。文中の「瀬戸B地区に造られつつある火薬庫は、情報公開文書によれば、「貯蔵庫A×5棟 各約1000㎡」と記載されていることです。小西さんはこのことについて「奄美大島の地対艦・空ミサイル部隊だけで必要とするものではなく、宮古島などの先島諸島に、有事に緊急に補給するミサイル弾薬であるということ」と指摘しています。奄美全島の軍事要塞化が急速にすすむ状況を詳らかにした今回の寄稿もぜひお読みください。また拡散お願いします。

(以下再掲です。ご確認ください)
 来る12月18日、
また沖縄が戦場になるって本当ですか?ー「戦争準備を知る、声を上げる。止める」と題したシンポジウムを開催します。「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の保有を認め、防衛費を増加させ、さらなる軍事緊張を高めるものでしかない安保関連三文書に対して警鐘をならし、発言されている弁護士の海渡雄一さんに「大軍拡と敵基地攻撃能力で戦争が止められるか」と題した基調講演で、詳しく解説していただきます。この講演をうけ、現場で日米共同統合演習を取材された琉球新報の明真南斗さん、映画、著作や論稿で南西諸島軍事要塞化に対していち早く厳しい批判を加えてきた当会発起人の三上智恵さんから報告をいただきます。詳しくはこちらをクリックしてご覧ください。
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⑩機動展開・兵站拠点としての馬毛島・奄美大島

●情報公開文書「奄美大島等の薩南諸島の防衛上の意義について」


前回に続き、馬毛島、そして奄美大島の南西シフト態勢下の意味について、少し追記しよう。
情報公開文書「奄美大島等の薩南諸島の防衛上の意義について」では、馬毛島と同様、奄美大島などの薩南諸島は、以下のように位置付けられている(この文書は、発行年度、発行部署の記載がないが、2012年夏頃に作成された防衛省文書)。
「南西地域における事態生起時、後方支援物資の南西地域への輸送所要は莫大になることが予想」され、「薩南諸島は、自衛隊運用上の重大な後方支援拠点」であるが、「南西地域において海自輸送艦(おおすみ型)の入港が可能な港湾は、那覇港、名瀬港、平良港、石垣港等に限定」され、「奄美大島の名瀬港は、海自輸送上重要な中継拠点」である。
「南西地域における事態生起時、本土における陸自部隊の緊急展開は主としてヘリで実施」されるが、「薩南諸島は、陸自ヘリ運用上、重要な中継拠点」と。
さらに、「南西地域における空自通信の確保は、同地域における航空作戦の基盤」であり、「(奄美大島)は、南西地域と九州を結ぶ重要な通信中継点」としている。
ここで言う「通信中継点」とは、おそらく空自の戦闘機などとの対空通信であろう。実際、奄美大島では、すでに設置されている通信基地の他にも、もう1つの通信基地が建設中である(湯湾岳山頂)。
この内容を分析すると、薩南諸島の馬毛島(種子島)・奄美大島は、南西シフト態勢の重要な中継拠点、後方拠点であり、兵站拠点として位置付けられているということだ。

ところで、奄美大島での自衛隊配備――地対艦・地対空ミサイル部隊の配備決定が、宮古島などと異なり、遅れて決定されてきたことが明らかだが(例えば、情報公開文書2012年統合幕僚監部「日米の『動的防衛協力』について」)、この問題は、ここに述べてきた「馬毛島・奄美大島の軍事的位置」に関連しているように思われる。
つまり、奄美大島への自衛隊配備―対艦・対空ミサイル部隊配備の目的は、主として、この中継拠点、兵站拠点――後方支援拠点を防御するための部隊であり、主として「通峡阻止作戦」の部隊ではない、ということだ(最近、中国海軍艦隊が大隅海峡を通過したという報道があるが、この海峡は九州の陸海空部隊の完全な制海・制空権の範囲。したがって、有事に大隅海峡を通過する中国軍は想定できない)。

●奄美大島・瀬戸内分屯地の巨大ミサイル弾薬庫

 
 さて、周知のように奄美大島には、2つの基地が建設されている。同島北部の奄美市大熊地区には、地対空ミサイル部隊と警備部隊の基地(奄美駐屯地)が、また、同島南部の瀬戸内町には、地対艦ミサイル部隊と警備部隊の基地が造られている(奄美駐屯地瀬戸内分屯地)。
問題は、瀬戸内分屯地の施設内容である。これは別の項でも述べてきたが、施設面積は、2カ所で48万279㎡であるが、この中には地対艦ミサイル部隊が常駐するA地区と、「貯蔵庫地区」とされるB地区があり、このB地区の面積は、30万6561㎡となっている(筆者への情報公開文書)。

さて、B地区の「貯蔵庫地区」とは、一体何か? これについて、自衛隊の御用新聞『朝雲新聞』(2019年4月11日付)には、以下の記事が掲載された。
「瀬戸内分屯地は標高500メートル級の山々が連なる山間部の高台にあった。瀬戸内町の市街地から国道58号線を北東に向かい、幾つものトンネルを抜け、曲がりくねった道を20分ほど進むと、緑色に塗られた施設が見えてきた。ここが分屯地だ。
 『三日月』のような細長い形の分屯地の総面積は約48万㎡(ヤフオクドーム6・9個分)で、広さは奄美駐屯地に匹敵する。ここの敷地の約3分の2が弾薬や武器を保管する火薬庫となっています。完成は来年度以降になりますが、現在導入された装備品の弾薬はすでに配備が完了しています』と菅広報室長」
 
この記事によると、瀬戸内分屯地B地区に造られつつあるのは「火薬庫」(約31㏊で宮古島駐屯地の1・5倍)で、「貯蔵庫地区」という表示は、宮古島などと同様、住民らを欺くための常套手段であるということだ。そしてこの完成は、なんと2024年であり、奄美部隊配備の6年後だ(情報公開文書)。
この瀬戸内分屯地のB地区に造られつつある火薬庫は、情報公開文書によれば、「貯蔵庫A×5棟 各約1000㎡」と記載されており、他の文書でも5棟(本)のトンネル(約250メートル)が確認されている。この5本のトンネルが、まさしくミサイル弾薬庫である。
これは、宮古島に造られつつある、「地上覆土式ミサイル弾薬庫」ではなく、もっぱら全国のミサイル部隊で造られている「地中式ミサイル弾薬庫」、すなわち、山をくり抜いて造られるミサイル弾薬庫である。
 ここで重要なのは、約250メートルの長さがある地中式ミサイル弾薬庫の5本(個)という規模がなぜ必要なのか、ということだ。この規模は、宮古島のミサイル弾薬庫や、予定されている石垣島のミサイル弾薬庫の数十倍の規模である。つまり、この大規模ミサイル弾薬庫の意味するところは、奄美・瀬戸内分屯地のミサイル弾薬庫が、奄美大島の地対艦・空ミサイル部隊だけで必要とするものではなく、宮古島などの先島諸島に、有事に緊急に補給するミサイル弾薬であるということだ。
実際に、情報公開文書のB地区の「火薬庫」近くの図には、「場外離発着場」=ヘリパッドが記載されているが、このヘリパッドは、緊急時にミサイル弾薬をヘリで空輸するためのものであろう。そうでないとするなら、こんな弾薬庫の近くにヘリパッドを設置する軍事的意味はない。

奄美の瀬戸内町が接する大島海峡は、「奄美の瀬戸内海」として知られる、天然の良港である。この瀬戸内町では、2018年から自衛隊の誘致運動が始まっている。おそらく、名瀬港の軍事化の進展とともに、自衛隊はこの海峡に「海自基地」を造ることを始めるだろう。瀬戸内分屯地のミサイル弾薬庫は、この地を訪ねてみれば分かるが、奄美大島の南の山中にあり、ヘリ以外で運搬するには、時間が掛かり、山の直下の瀬戸内に運び、海上輸送を行えば、大量輸送が可能となるからだ。
こうして、奄美大島全島の要塞化も、急ピッチで進行しているのである。

●種子島―薩南諸島の演習場化 


 種子島――奄美大島が、すでに10年前ぐらいから、巨大な演習場になっていることを「本土」の人々は全く知らない。もちろん、メディアはこの公開された演習に、多数の「従軍記者」が便宜を受けて参加、取材しているから、十分に承知している。
これらの演習は、演習場で行われているのではない。種子島、奄美大島の市街地、人々の暮らす浜辺、公園などで白昼から堂々と行われているのだ。奄美大島の景勝地・江仁屋離島(えにやばなれじま)は、その1つだが、奄美の自衛隊基地建設の説明書(非公開で情報公開文書)には、公然とこの島が「統合演習場」に指定されていることが明記されている。もちろん、奄美大島の住民は、全くこのことを誰も知らされていない。
この市街地での演習・訓練を、自衛隊では「生地訓練」と称している。この名称は、陸自教範『対ゲリラ・コマンドゥ作戦』で初めて規定された名称だ。おそらく、自衛隊特有の「偽装名」だろう。「市街地訓練」とすると、刺激が強すぎるからである。
2021年6月18日から7月にかけて、この奄美大島で、日米陸軍共同演習としては恒例の「オリエントシールド21」が始まった。「オリエントシールド」というのは、陸自と米陸軍が2000年代半ばから、毎年行っている有名な実動演習である。
陸上幕僚監部の発表によると、訓練実施部隊は、陸自から中部方面隊、第1特科団、中央特殊武器防護隊などの約1400人、米軍から在日米陸軍司令部、第40歩兵師団司令部、第17砲兵旅団、第28歩兵連隊第1大隊、第38防空砲兵旅団第1防空砲兵連隊第1大隊などの約1600人、合わせて約3000人が参加するという規模である。これは、国内において、陸自と米陸軍が実施する実働訓練として最大規模の訓練だ。
今回の訓練の特色は、米陸軍のパトリオット部隊が奄美大島に初展開し、陸自・中距離地対空誘導弾(中SAM)と共同対空戦闘訓練を実施したことである。また、北海道・矢臼別演習場では、米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)と陸自の多連装ロケットシステムの実弾射撃を行った。
このHIMARSは、米本土から直接展開したもので、日本国内での実射は初めてという(HIMARSは、ワシントン州の米陸軍第17砲兵旅団所属で、輸送機で運べるよう軽量化、発射台となるATACMS戦術ミサイルを搭載。射程は、約300キロ。地上から艦艇を狙う対艦攻撃に使用)。
2019年の「オリエントシールド19」では、陸自西部方面隊の12式地対艦ミサイル部隊と、米陸軍のマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)の共同訓練――地上から艦艇を攻撃する演習を行ってきたのである(熊本県の大矢野原演習場)。この演習を西部方面隊機関紙「鎮西(ちんぜい)」は、米陸軍の「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)のテストである、と紹介している。すなわち、米陸軍の新戦略である、第1列島線上に配備される地対艦ミサイルの作戦だ。

さて、これら「オリエントシールド」を始めとして、奄美―種子島などの薩南諸島と言われる一帯の演習場化、軍事化は、すでに西部方面隊の毎年の「鎮西演習」を中心とし、恒常的なものとして行われている。
 例えば、「鎮西演習」では、種子島の海岸地帯(南種子町の前之浜海浜公園)で陸自の94式水際地雷敷設装置の訓練、また同演習では、種子島の海岸・水際に「戦車壕」を築き、縦横無尽に市街地を利用する演習が行われている(2018年、2021年)。
さらに、2016年の「鎮西28」演習、正式には「平成28年度鎮西演習」では、「島嶼侵攻対処」の最大の演習が、種子島―沖縄などの周辺海空域を含む全域で行われた。ここには、隊員約1万8千人、車両約4千両、航空機約70機という、かつてない部隊が動員配置され、対着上陸戦闘、水陸両用戦闘などの「島嶼戦争演習」が演練された。
これらの部隊は、西部方面隊を中心に北海道・本州からも動員され、連続して陸海空の統合演習へ、そして米軍との共同演習へと広がっていった。
こうして現在、種子島――奄美大島一帯は、全自衛隊および米軍をも動員した一大演習場となっているのであるが、この凄まじい実態は、メディアでは全く報じられない。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

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