今回のメルマガは西岡信之さんからの寄稿です。宮古、八重山、与那国など離島の住民の島々からの避難計画、沖縄本島住民の避難計画の概要が示されていますが、その内実は実にお粗末なものであることがわかってきました。また現実に避難そのものが厳しい要配慮の人達、さまざま事情や生活基盤をもつ人達の生活にまったく想像力を欠いた「他人事」の計画に怒りを禁じ得ません。こうした人の顔が見えない計画は戦争を前提とした準備であり、反対の声を上げることが大切です。現実に戦争がはじまれば、沖縄だけでなく、全国の自衛隊、米軍基地が攻撃対象となります。西岡さんは沖縄だけの問題ではなく、我が事として考え、行動することを本稿で訴えています。要点を絞り、今私たちがつかんでおかなくてはいけないポイントを押さえた本稿をぜひお読みください。
住民避難ではなく、軍事目標(駐屯地・弾薬庫)を撤去せよ! 「軍民分離」原則の徹底を!
政府は3月27日、「台湾有事」を想定した宮古・八重山の5市町村の島々から住民11万人と観光客約1万人を避難させる計画の概要を公表した。チャーターした船や飛行機で約12万人を6日間で移動。5市町村の避難住民を小学校区などコミュニティーごとに九州と山口の計8県32市町に振り分ける。家族単位でホテルや旅館に1カ月間、一人1泊3食7000円の予算で泊まることになるという。避難の際は、持ち物は、一人10キロ以内のカバン1つだけ。これが計画の中身だ。
机上の空論でしかない。「台湾有事」が起こりそうだから来週の月曜日から避難してくださいと言われて、「はい、わかりました」となるだろうか。宮古・八重山は、農業・漁業者も多い。とりわけ島の人口よりも多い牛や豚を飼っている畜産業者など、1カ月間も放置できない。野菜や果実農園も同様。病院や介護施設入所者、障がい者や妊産婦など要配慮者の移動、犬や猫のペットはどうするか。不安は尽きない。しかも避難先の九州各地は、すでに「台湾有事」に向けて弾薬庫拡張、水陸機動団やミサイル配備など軍事要塞化が進められており、危険性は変わらない。
ウクライナやガザの戦争を見れば、避難が1カ月で終わるのか、宮古・八重山の住民の不安な気持ちを考えると大変な事態が進行していることに気づく。
在東京のメディアもこの避難計画については取り上げ、全国紙やテレビのニュースでも初めて報じられた。しかし、その後の情報番組などを見ても社会的に取り上げられている様子もなく、多くの国民、市民の反応が見えてこない。「台湾有事」なんて起こらない。日本が戦場になるとは考えられない。大した問題ではないと思い込まされているのではないか。しかし、実際に戦争を前提にした避難計画が政府から出されているのに危機ではないと思っている人たちが、なんと多いことか。昨年9月25日には、八重山では内閣府・沖縄県・石垣市・竹富町の4者で、避難の手順を確認する実地確認まで行われているのにだ。
4月7日、ノーモア沖縄戦の会は、嘉手納町の沖縄防衛局にこの避難計画をはじめ12式改良型長射程ミサイルの運用など5点について申し入れと交渉を行った。交渉前の集会で具志堅隆松共同代表は、「今回の政府の計画は避難ではなく戦争疎開だ。戻って来れるかもわからない。下手したら宮古・八重山の人を追い出して、基地の島として使おうとしているのではないか。私たちは生まれ育ったこの場所で生きていく権利がある。国が出て行けと言っても従うわけにはいかない」と強い口調で訴えた。
交渉では、伊藤晋哉沖縄防衛局長が直接対応したが、どの項目にもまともに応えはしなかった。「我が国の平和と安全を損なう恐れがあるのでお答えできない」「具体的な運用についてはお話しできない」「住民避難に関することは、内閣官房の危機管理担当に尋ねていただきたい」などだ。
しかし、この交渉の中で、非常に重要なことがわかった。12式改良型の長射程ミサイルの発射場所は、駐屯地から出て、適当な場所から発射するということを局長自らが何度も説明した。つまり基地の中から攻撃するのではなく、基地から出て移動しながら発射を繰り返すのだ。島中が戦闘状態になる。島々に安全な場所などなくなるということだ。「軍民分離」の原則など毛頭考えていないことが明らかになった。
いま、「台湾有事」に向けての兵站補給基地として弾薬庫建設をはじめとした基地機能強化が、全国で急速に進んでいる。全国すべての自衛隊基地は「台湾有事」になれば攻撃目標になる。他人事ではない。「台湾有事」を阻止するために行動することが求められている。 (2025年4月13日-関西万博開幕の日に)
西岡 信之 (沖縄国際大学 平和学担当元非常勤講師)
※本稿は西岡さんご本人のご承諾を得て、「むすぶ」最新号に掲載されている論考を転載しました。