今回のメルマガは与那覇恵子さんからの寄稿です。沖縄県のワシントン事務所問題の本質はどこにあったのか、今後どう考えていくべきなのかについて論及されています。ぜひお読みください。
ワシントン事務所問題 ~本質をつかんだ思考と論議が必要だった~
「日本人の強みでもあり弱点でもある国民性とも言える特徴は、小さな細かい点にこだわるところだと思う。その良さは、細やかな接客サービス、小型で多機能な電気製品や便利グッズ、彩り美しく繊細な味の料理や菓子などに表われ評価は高い。一方で、その強みは、詳細にこだわるあまり物事を構造的に捉えることができない、本質を見失ってしまうなどの弱点ともなる。ワシントン事務所問題で私が感じたのは、その日本人の詳細にこだわることからくる弱点である。
ワシントン事務所の問題の本質は「事務所は閉鎖されるべきか否か」にあった。何故なら、手続き上の瑕疵を理由に自公県議(野党)が一貫して求めたのは、瑕疵是正ではなく事務所の閉鎖であったからだ。ならば、県議会で野党がすべきは、事務所が「沖縄の基地問題の解決を図る」との設立目的に沿って運営されていない証拠を挙げ、事務所の設立意義や存在意義を問うべきであったし、そのような本質的論議がなされるべきであった。その論議がないことに県民からの疑問の声は多かった。しかしながら、県議会で数ヶ月も続いた論議は設立手続き上の詳細を県に追求する質疑ばかりで、10年前のことでもあり、関係者の記憶を辿り問題を検証する委員会設置など県は対応に追われた。野党は事務所の業績や意義は認めると述べたが、存在意義を認めながら存在を拒否する姿勢は矛盾していた。細部にこだわり大局的思考を見失い、本質から外れた論議の結果により、ワシントン事務所は閉鎖されたと考える。今、沖縄で起こる事象はすべて沖縄の要塞化、戦争準備と関連すると言って過言ではなく、事務所閉鎖要求もその一部であり重要だったが、残念ながら、手続き上の瑕疵の細部に眼を奪われた人々は、本質から逸脱した論議に異議を唱えることなく閉鎖をやむなしとした。
構造的、大局的、本質を見失わない思考や論議をする上で見るべきは、事務所閉鎖により誰が損をして誰が利を得るのかという点だ。問題とされた手続き上の諸処により誰かが多大な損失を被った事例も被ることも無さそうだが、事務所閉鎖によって県民が被る損失は多大だ。それはワシントン事務所が10年間で築いてきた業績を見ればわかるが、一言で言えば、米国に「沖縄の声」を届けることができなくなる、非常に難しくなるということだ。それにより利を得るのは誰か?を問うた時、問題の背景や本質が見えてくるはずだ。政治家として結果に誠実に向き合い新たな事務所設立を表明した玉城デニー知事、小さきものの追求で失った大きなものを取り戻す今後の努力を応援したい。
与那覇恵子(名桜大学非常勤講師)
※本稿は与那覇さんのご承諾を得て、琉球新報論壇(2025年4月12日)を転載したものです。