4月14日の講演会で「日米が台湾に軍事介入すれば侵略行為に」というテーマでお話しいただく田岡さんに今回寄稿していただきました。政府は戦争を前提にしたシェルター建設計画、避難計画を打ち出していますが、その内容はあまりにもずさんで現実味を全くもたないものです。外交による戦争回避の努力をすることなく、攻められる前に攻める(敵基地攻撃)、飛んでくるミサイルを撃ち落とすためのミサイル要塞化しか日本の安全を守る道がないということを政府は喧伝し続けています。これは、日米同盟一辺倒、辺野古が唯一という思考停止の政治と同じで、何の解決にもならない愚策の極みといえます。田岡さんは本稿で、反撃は不可能であること、シェルターに避難することの非現実さを指摘し、どのような道をすすむべきかを具体的に提起していただきました。ぜひお読みいただき、4月14日(日曜日)に会場にお越しください。
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シェルター避難 実効性に疑問 現状維持こそ最良の安全保障
政府は3月29日、ミサイルなどの攻撃に備え沖縄県先島諸島の5市町村(石垣市・宮古島市・与那国町・竹富町・多良間村)にシェルターを設けると発表したが、その報道を読み「住民が避難する時間があるのか」と思わざるを得なかった。中国や北朝鮮から発射される弾道ミサイルは7分程度で目標に到達するが、レーダー等が発射を感知して方向、速度などを計算、落下地点に警鐘を出すには若干の時間を要するから、屋外にいる人が間に合ってシェルターに飛び込むにはかなりの熟練が必要だろう。日頃なるべくシェルターで暮らすなど地表に出る時間を極力減らせば死傷者が減る効果はあるだろうが、不快な生活を強いられる。
攻撃目標は沖縄だけでないから、政府は地下鉄の駅や地下駐車場など全国で3336カ所(2023年4月現在)を安全性の高い施設に指定しているというが、都市のビルなどから多数の人々が一斉に地下に入ろうとすれば2022年にソウルで159人が圧死したような惨事も起きかねない。
私はストックホルムの国際平和研究所の研究員をしていたころ、巨大な避難用の地下駐車場などの施設に感服したが、スウェーデンの軍事問題専門家は「低速の爆撃機の時代には避難できたが、弾道ミサイルには効果がない」と苦言していた。沖縄のシェルターも訓練をしていれば無いよりましという程度だろう。
■反撃は不可能
米中戦争に日本が参戦する準備として米海軍が1970年代に採用した旧式の巡航ミサイル「トマホーク」をまず200発、1200億円で購入し、その後新型200発を買い、計400発で3,520億円の見通しだ。相手のミサイル攻撃に反撃すると言うが、速度が時速約800kmで遅いから、相手がミサイルを発射後、移動式発射機を隠すと反撃できない。中国は日本に届く中射程の弾道ミサイルを2千発は持っていると見られる。米中がミサイル合戦をしている中に「トマホーク」を持って加わるのは、砲兵連隊の砲撃戦に拳銃を持って出るような形になる。
■日米が一体化
政府は「公共インフラ(基盤)整備」と称して防衛力強化のため民間空港5か所、港湾11か所を自衛隊等が使えるようにする計画だが、これは軍事用に大きな意味を持つ。米軍は中国との戦争になれば本土から多数の艦艇、航空機を日本、韓国、台湾などに送り込む必要がある。それらを収容する臨時基地が不可欠だからだ。東アジアに常駐の米軍の戦闘機・攻撃機は180機程度。日本、韓国、台湾空軍が参戦しても計900機程度だ。中国軍は戦闘機・攻撃機計約1700機で数的には中国が優勢だ。米軍が数的ギャップを埋めるため本国から来る艦艇、航空機を今の米軍基地に詰め込んでは弾道ミサイルなどで一網打尽になりかねないから、日本の民間空港の滑走路を伸ばしたり、港を深く広げさせる必要は米国では公然と語られている。米軍基地として使われる16の空港、港湾の周囲の住人にとっては交通が不自由になるだけではなく、逸れたミサイルや爆弾が落下してくる危険にさらされる。沖縄で改造が計画されているのは那覇空港と石垣港の2か所だけで、政府も反対活動にたじろいでいるのかもしれない。
さらに重大なのは米軍と自衛隊の司令部の連携を強化する「指揮統制の枠組みの見直し」だ。これまで在日米軍司令部は米軍に対する権限だけを持っていたが、今後は自衛隊の合同司令部との調整に当たるため、常設合同チームを創設する案も出ていると報じられる。敵のミサイル発射などの米軍情報を得て自衛隊が即時に反撃する相互運用性を高めるとする。
■不干渉を制約
だが台湾で内戦が起きても、日本自体や日本の艦船が攻撃されていなければ自衛隊が米中戦争に参戦するのは条約、憲法、国連憲章違反になる。日本は1972年9月、田中角栄首相と周恩来総理が調印した「日中共同声明」で「中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認し、中華人民共和国政府は台湾が中華人民共和国の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府はこの中華人民共和国の立場を十分理解し尊重する」と声明し、内政不干渉を誓約している。また、1978年の日中平和条約で共同声明を再確認し、日本国会は圧倒多数で批准に賛成、鄧小平副総裁が批准書交換に来日、昭和天皇と歓談した。
米国も1972年2月のニクソン大統領と毛沢東主席の会見後同様に共同声明を出し、今日に至るまで「一つの中国、台湾は中国領土」を繰り返している。
昨年2月、「中国が気球で米国を偵察している」と騒ぎになったが、6月に米国防省は「全く情報収集ではなかった」と発表。バイデン大統領と習近平総書記は11月、サンフランシスコで会談し、中国沿岸での米軍機等の衝突など不測の事故防止を話し合い、その後双方の危険飛行はほぼなくなった。
今年1月の台湾総統選挙で台湾独立派と見られる頼清徳氏が当選するとバイデン大統領は直ちに記者会見をし「米国は台湾独立を支持しない」と言明、中国との関係改善を望む姿勢を示した。現状維持で戦争が回避されれば最良の安全保障となるだろう。
田岡俊次(軍事ジャーナリスト)
※本稿は田岡さんの了解を得て2024年4月09日(火) 沖縄タイムスの文化欄掲載論稿を転載しています。