メルマガ241号

自衛隊制服組のトップである統幕長は、国民保護が自衛隊にとって優先度が高い任務である、と先月の記者会見で述べました。この発言や。災害時での自衛隊の救助活動など、多くの国民は自分たちの生命を自衛隊が守ってくれるというようなイメージを持っていますが、果たして、有事の際にも国民保護が優先されるのでしょうか。この問題について、4月14日の講演会の講演者である小西誠さんは、情報公開を求め、防衛省に問い合わせました。ここでわかったこと、私たちがどのようにこの問題に向き合い、運動をひろげていくべきなのかについて具体的にお書きいただきました。ぜひお読みください。 4月14日の講演会、ならびにミサイル写真展の詳細は以下の通りです。チラシはこちらからご覧いただけます。こちらをクリックしてください 
⇒ https://nomore-okinawasen.org/21056/

自衛隊は有事に国際人道法の「軍民分離の原則」を守れるのか?

24年3月17日付「琉球新報」は、自衛隊制服組トップの吉田統幕長が記者会見で、南西諸島防衛に言及し、「先の大戦で沖縄の住民を守り切ることができなかったという反省に立ち、南西地域の国民保護は極めて優先順位が高い任務と考えている」と報じている。
吉田さん、よくぞ言ってくれたと言いたいが、だが待てよ。なぜ旧日本軍は沖縄住民を守れなかったのか、その根本的原因が何かを本当に認識し、発言しているのかを問うべきだ(例えば、往路は軍事輸送、復路は疎開輸送を担った対馬丸事件)。
 私は今年初め、これに関わる問題について、防衛省に情報公開を求めた。国際人道法(ジュネーヴ諸条約)の住民保護「軍事目標主義」(同48条)、「軍民分離の原則」(同58条)についてである。
 これに関して防衛省に二つの文書が存在する。「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」(05年)、統合幕僚監部「統合運用教範」(17年)だ。
 ところが有事下の「軍民分離の原則」の重要な指標である「特殊標章」規定が、これらには全く記されていない。このため私は、防衛省は特殊標章についてどのように定めているのかを尋ねた。
 これについて「防衛省の(ママ) おける特殊標章の交付の検討について 本件は、指定行政機関の長たる防衛大臣が武力攻撃事態等において、特殊標章等の交付等を行うケースについて検討したところ」、検討結果として「防衛省における職員等の特殊標章等については、上記を踏まえると(上記の理由は「墨塗」)、交付されないものとして、防衛省の特殊標章等の交付要綱は作成されなかった」と回答した。
 また別の文書では、軍民分離の原則を曲解して否定。「国民保護のために使用される自衛隊輸送力が同条に規定される『軍事目標』に当たるかについては、実際に武力紛争が生じた場合において、その時点で判断する必要があるものであり、一概にお答えすることは困難」。
 さて、周知のように全国自治体の国民保護計画を始め、海上保安庁・消防庁なども国際人道法の原則である特殊標章を明確に定めている。特殊標章は、誰もが知る赤十字標章と同様、戦時下の重要な市民保護の原則「軍民分離」を明確にし、戦争被害から市民を守る唯一の定めである。例えば沖縄県国民保護計画は、特殊標章について以下のようにいう。
「赤十字標章等及び国際的な特殊標章等は、それぞれ国民の保護のために重要な役割を担う医療行為及び国民保護措置を行う者及びその団体、その団体が使用する場所又は車両、船舶、航空機等を識別するために使用することができ、それらは、ジュネーヴ諸条約及び第1追加議定書の規定に従って保護される。

○ 特殊標章 第1追加議定書第66条3に規定される国際的な特殊標章(オレンジ色地に青の正三角形)」
 この特殊標章は、「場所又は車両、船舶、航空機等を識別するため」に、大きく目立つように掲げることとする(沖縄県等の全ての国民保護計画に図示)。
 
 結論的に言うと、防衛省・自衛隊は、海上保安庁などと異なり、特殊標章を完全に無視することが明らかになった。しかし、なぜ防衛省は無視するのか。ここには戦時の住民保護は、自衛隊の任務ではない、自衛隊の輸送力にその余裕はない、自衛隊の主任務は武力攻撃対処である、という厳然たる意思が働いているのではないか(自衛隊法第3条は「国を守る」ことのみを定め、国民を守る定めはなし)。
 先の報道でも吉田氏は、自衛隊の主任務である武力攻撃の排除に支障が出ない範囲で国民保護に携わるという従来の位置付けを変更しない、また自衛隊の装備を避難に利用するのかについても「運用に関わることなので答えは控える」と述べている。
 重要な問題は、安保関連3文書の策定に基づく昨年8月の閣議決定「特定重要拠点空港・港湾」の指定により、沖縄を始め約40の空港・港湾が軍民共用の名の下に軍事化されつつあることだ。先島等の唯一の避難手段である空港港湾の軍事化は、住民から全ての避難手段を奪うのに等しい。これは紛れもなく、国際人道法が定める軍民分離の原則に反し、民間施設を軍事目標として提供することになるのだ。
 また同第58条は、「文民たる住民、個々の文民及び民用物を軍事目標の近傍から移動させるよう努めること。人口の集中している地域又はその付近に軍事目標を設けることを避けること。文民たる住民、個々の文民及び民用物を軍事行動から生ずる危険から保護するため、その他の必要な予防措置をとること」を定め、軍民分離の徹底を謳っている。
 国際人道法制定の根拠となったのは、第2次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争などでの住民被害の爆発的増大であるが、現在進行中のウクライナ戦争、パレスチナ戦争においても、この軍民分離の原則が無視された時、いかに悲惨な住民の犠牲が生じるかが明らかになった。
防衛省が南西諸島での空港等の軍民共有化を強行し、特殊標章を無視することは「諸条約及びこの議定書に対する重大な違反行為は、これらの文書の適用を妨げることなく、戦争犯罪と認める」(同条約第85条)。つまり、戦争犯罪になり得るのである。
 私たちは、島々の家、車、船、地域の至る所に特殊標章を掲げ、これを無防備地区(同条約第59条)、非武装地帯(同第60条)として広げていく運動が必要な時ではないだろうか。そしてこれと合わせて、政府に南西諸島の軍事化を停止し平和外交の徹底を求める運動が必要である。

小西誠(軍事評論家)

※本稿は小西さんの了解を得て2024年4月09日(火) 琉球新報の文化欄掲載の記事を転載しています。

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