第28号は毎月の沖縄タイムス「思潮 2022」で自民党政権下で急速に進む軍事大国化、国民動員体制を厳しく批判し健筆をふるっている沖縄国際大学の渡名喜守太氏です。5月31日に掲載された論考に、迫りくる「台湾有事」の動きについて加筆修正をお願いしメルマガにご寄稿いただきました。
軍隊と災害救助ー国民保護法で進む戦時体制 戦前の国家総動員と現代の国民総動員
「復帰」50年にあたって沖縄県は日本政府に建議書を提出したが、そこには自衛隊については触れられなかった。さらに驚くべきことは、「復帰50年に際し自衛隊に対して県民・市民の生命を守る任務遂行に対する」那覇市議会の感謝決議に共産党議員全員が賛成したことである。災害救助・防災は軍が民間人や行政を指揮・統制下に置くための足掛かりをつくる常套手段である。
戦前の明治憲法下においては国務と統帥の区別が厳然とあり、お互いに干渉できなかった。軍が行政権・司法権を掌握し行政・司法・民間人に対して権限を行使できるのは戦時や内乱・災害時に戒厳令が施行された場合である。国家緊急権である戒厳令施行の前提となる戒厳宣告は天皇大権に属していた。しかし、第一次世界大戦後の総力戦、国家総動員の時代には、平時から戦時即応体制づくり、行政の軍事化が目指され高度国防国家建設が推進された。
日中戦争が勃発した1937年に成立した防空法により、防空演習などの防災訓練を通じて軍が官民を指揮統制下においた。翌1938年には国家総動員法が制定された。同法は戦争遂行のために人や物資を動員、統制するための基準法であり、個別具体的なことは法律や勅令で決める仕組みになっており、政府に対する授権法、全権委任法である。これにより天皇の戒厳大権によらず、国家総動員法に基づいて政府が官民を軍の指揮、統制下に置くことが可能になった。
〇軍による官民統制
国家総動員法には総動員業務という規定があり、国民が警備に当たることが明文化されていた。1944年に「総動員警備要綱」が閣議決定されたが、沖縄戦においても総動員警備要綱に基づき官民が防空演習や警備を通じて動員され軍の指揮統制下に入った。
総動員警備は元々は1930年に閣議決定された「総動員基本計画要綱」に始まり、1936年には総動員警備実施のために中央と地方に総動員警備協議会が設置された。地方総動員警備協議会には軍関係者や地方長官、警察部長、検事、関係官庁の職員などが参加した。
沖縄戦において第三二軍は「報道宣伝防諜等ニ関スル県民指導要綱」(以下、県民指導要綱)を作成した。県民指導要綱は「軍官民共生共死の一体化」をうたったものとして知られるが、そこには会員団体として地元の新聞や放送局、県当局が名を連ねており、第三二軍によって県当局への任務規定が明記されている。これは現在の国民保護法を先取りした内容である。このように軍は戒厳令を施行しなくても、総動員体制、民間防衛を通じて民事に介入し、行政、司法、住民を統制下においた。
〇現在の動員の仕組み
国民保護法は有事の際に「国民の保護」について規定した法律である。有事の際には都道府県と市町村は各々作成した国民保護計画に則って住民の保護を実施する。有事の際の住民保護は自衛隊ではなく行政の責務である。国民保護法には有事の際に国民を保護するために国や地方公共団体の責務および国民保護計画を審議する国民保護協議会、放送局などマスメディアや電気、ガス、輸送業者などの指定公共機関、指定地方公共機関についても規定している。
国民保護協議会は都道府県国民保護協議会と市町村国民保護協議会に分かれ、都道府県国民保護協議会委員は副知事、県職員、陸上・海上・航空自衛隊関係者、警察関係者、消防関係者、都道府県教育長などから任命され、市町村国民保護協議会委員も助役、自衛隊関係者、消防関係者、市町村の教育長などから任命される。このように国民保護法の仕組みを通じて自衛隊の民事介入、行政の戦時体制化が実現する。
よく言われるように国民保護法とは民間防衛法なのであり、軍による官民の統制、動員の仕組みも国家総動員法における総動員警備協議会と沖縄戦での第三二軍が出した県民指導要綱の内容を合わせた内容になっている。また、自民党が公表した改憲草案に緊急事態条項が盛り込まれているが、これは、有事の際に内閣に全権委任する内容である。要するに国家総動員法の仕組みを取り入れたものである。改憲が実現し、自民党案の緊急事態条項が憲法に盛り込まれるということは、憲法に国家総動員法が盛り込まれるということである。
このように戦中期の国民動員、国家や軍による戦時統制の仕組みは出来上がりつつある。外堀は埋められた状態にある。国民保護法と自民党の改憲草案作成にかかわったのは礒崎陽輔氏である。彼が戦中期の国民動員、国家、軍による統制の仕組みを模範にしているのがよくわかる。
自衛隊による災害救助は、国民の自衛隊アレルギーを払拭し、国民に浸透させる手段として利用されてきた。自衛隊はPKOなどの人道支援から海外派遣を実現してきた。元防衛事務次官の守屋武昌氏は著書の中で前記の内容を告白しており、自衛隊が災害救助をする姿を積極的に国民に見せてきたと記している(『「普天間」交渉秘録』)。また、石原慎太郎都知事の時代に、東京都が主催し、政府が支援する形で陸海空自衛隊約7000人余りと、警察、消防、海上保安庁、東京都職員、民間の関係機関の約25000人が参加する大規模な防災訓練が実施された。当時、自衛隊の装甲車が銀座を走行する光景は注目を集めた。
1997年に改訂された日米ガイドラインにも日米で平素から行う協力として災害救助が挙げられている。この災害救助や人道支援の意義についてポール・ジアラは「(災害救助などの活動は)グローバルな範囲での日米協力を視野に入れたものである。(中略)PKOや人道的・災害救助といった分野が政治的に受け容れやすいこともあり(中略)同盟の一致結束を促す上でまたとないよい機会となる」と述べている(ポール・ジアラ「新しい日米同盟を維持するための処方箋」)」。東日本大震災では日米による「トモダチ作戦」という作戦が実行されたことは記憶に新しい。
このように、災害救助は軍隊が民事に介入する常套手段である。沖縄社会も変化し、学校に自衛官が職業案内で呼ばれるようになり、自衛官をして「いい時代になった」とまで言わしめるようになった(「防人の肖像」本紙2021年3月28日)。共産党那覇市議の行為は軽率としか言いようがない。戦前のように「兵隊さんよありがとう」と歌われる日も近いのだろうか。
〇台湾有事の欺瞞
先月来日したバイデン大統領は岸田首相との共同記者会見で台湾有事に関与することと拡大抑止について言明した。両方とも沖縄が戦場となることに直結する。現実に日本近海で軍事行動をとっているのはロシアと北朝鮮である。にもかかわらず日本海や北海道での防衛強化には言及せず沖縄方面での防衛強化を図るのは納得いかない。
アメリカはウクライナには派兵しないにもかかわらず、台湾有事には積極的にかかわろうとしている。これは、ロシアとウクライナの戦争を利用して沖縄の軍事強化に誘導しようとしているように思える。再び沖縄を捨石にするつもりだろう。台湾有事とはつくられた有事である。日本海や北海道で軍事的緊張を回避し平和外交でいくのであれば沖縄でも平和外交でいくべきである。つくられた台湾有事を本物にしないためにも、再び沖縄が捨石とされ戦場にされないためにも沖縄人が日米両政府にだまされてはいけない。
(渡名喜守太 沖縄国際大学非常勤講師)
「二度と沖縄を戦場にさせない」
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