メルマガ382号

今回のメルマガは宮城恵美子さんからの投稿です。沖縄県の石垣市議会は24日、子どもたちが「君が代」を歌えるかを確認するアンケートの実施を、市長や市教育長に求める決議案を賛成多数で可決しました。今回の可決は政治の教育への介入、国歌の斉唱強制につながる危険性をはらみます。また日本国憲法下での個人の思想・信条の自由を著しく侵すものといえます。本稿でこの可決から見えてくる課題を宮城さんに提起していただきました。ぜひお読みください。

「調査装い特定の価値観へ  石垣議会「君が代」決議

石垣市議会において児童生徒を対象に「君が代」に関するアンケート実施を求める決議が可決された。「君が代」を巡る扱いが、戦前の皇国史観と結び付いてきた歴史を踏まえると、看過できない。「君が代」はもともと和歌の一文らしいが、近代、天皇を「君」と位置付ける象徴的な国歌として制度化された。戦前、教育現場では、天皇への忠誠を強制する儀式の中で歌われた。皇国史観は歴史や国語の教科書を通じて「天皇は現人神」という観念を浸透させ、国民を戦争へと動員する思想的基盤となったのである。
戦後、日本国憲法下で、こうした価値観は否定され、教育基本法においても思想・良心の自由が保障された。したがって「君が代」を学校でどう扱うかは、単なる儀礼の問題ではなく、国家主義的教育の克服課題である。子どもへのアンケートの問題点は、石垣市議会決議が、児童生徒を対象に「君が代」に対する意識を調査することを求めているが、教育現場における権力関係を考慮すれば、その影響は深刻である。匿名性が担保されたとしても、「君が代」に関する賛否を問う行為自体が、子どもに「どちらが正しいか」を考えさせ、暗黙の同調圧力を生み出しかねない。また、この決議が「皇国史観を促す動き」として問題視されるのは、過去の歴史を軽視し、教育を再び国家的統合の道具とする意図が透けて見えるからである。現代日本社会においては、個人の多様な価値観を尊重する教育が求められている。しかし「君が代」や国旗を絶対視し、それを通じて国家への忠誠心を育成しようとする動きは、異なる意見や文化を排除する方向に傾きやすい。
特に沖縄・石垣という地域的文脈を考えれば、一層深刻である。沖縄は日本国家の軍事的論理に翻弄され、沖縄戦で甚大な犠牲を強いられた歴史を持つ。戦後も米軍基地の過重負担を背負い続けてきた。その沖縄の一自治体議会が、子どもに「君が代」への忠誠を問うような調査を推進することは、地域の歴史的経験を無視するものである。教育の自由と多様性を守るためにも、「君が代」に関するアンケートを求める決議は、調査を装いつつ、教育現場に特定の価値観を持ち込む装置として機能する危険性があるので止めていただきたい。子どもたちに必要なのは、国家への無条件の忠誠ではなく、歴史を自らの目で問い直し、多様な価値観を尊重する主体的な学びである。                                                 宮城恵美子(独立言論フォーラム理事)
※本稿は沖縄タイムス論壇(2025.10.11)に掲載されたものを宮城さんのご了解を得て、転載したものです。

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