米国の「平和を求める元軍人の会(ベテランズ・フォー・ピース)」は、24日から27日までネバダ大学ラスベガス校で年次総会を開催する。同団体の琉球沖縄国際支部(VFP-ROCK)は代表団を派遣し、総会で名護市辺野古の新基地建設や那覇軍港の浦添沖移設の計画撤回を米国防総省に求める決議案を提出するとともに、ドキュメンタリー映画「あなたが私のパパですか?」を上映する予定だ。映画を製作した太田あきのさんに米国で上映する意義などについて、寄稿してもらった。〈沖縄タイムス文化面の寄稿紹介前文〉
自主製作ドキュメンタリー 「あなたが私のパパですか?」米国上映実現に寄せて 尊厳傷つく無意識の偏見 父知らぬ子の現実届ける
「ハーフですか?」…その問いの裏にあるものに私は長年、苦しめられてきた。
「あきのちゃんって、ハーフなの?」。周囲からそう尋ねられるたびに、物心ついた幼い私はたびたび心を揺さぶられてきた。
私は、父を知らずに育った“ハーフ”だ。沖縄本島中部出身の母と、在沖米兵だった父の間に生まれたが、母は生涯、父のことを語らないまま2013年に病でこの世を去った。私は37年間、父の名前も顔も知らずに生きてきた。
「父のいないハーフ」という事実は、私にとって長くコンプレックスだった。
周囲の目を気にし、自分や自分の母に「未婚で米兵の子を産んだかわいそうな女性」といった偏見まみれのレッテルを貼られることが怖くて、自分の出自を伏せてきた。
小さい頃から父の日の学校行事や家族について語る授業は、私にとって居心地の悪い時間だった。特に突然の質問…「ハーフなの?」に、私は何度も体が固まってしまった。
相手に悪気がないとわかっていても、それはまるで、見知らぬ人が私の最も痛い部分を無邪気にめくるような行為だった。
その感覚は、「マイクロアグレッション」という言葉でようやく最近、説明がつくようになった。無意識の偏見や差別的な言動で、悪意がないからこそ受け手は傷つき、やり場のないモヤモヤを抱えた。
私はDNA検査を通じて父を見つけ、2023年秋、私の誕生日に沖縄で初めて父と「再会」を果たした。奇跡的な経験だったが、それが全てのアメラジアン(アメリカ軍属とアジア人女性の間に産まれた子どもを指す言葉)に当てはまるとは思っていない。親や家族と向き合うことは、時に深い痛みも伴うことは、他の多くのアメラジアンの体験談からも知っていたからだ。
上映会などを通して出会ったアメラジアンの先輩方や、JFC(ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレン)、コンゴ残留児と呼ばれる人々の話などに触れ、「母親/女性だけが責められる社会」の構造が、今も日本で続いているのではないかと思う。
私たちが無意識に抱える「普通の家族像」や「出自への偏見」が、私のような父を知らずに育った「ハーフ」の尊厳を傷つけ、子どもながらに自己肯定感を奪っているかもしれないと、どこまで社会に生きるマジョリティーは想像できるだろう。だからこそ、すべての子どもの命に価値があると信じ、平等で差別のない社会を目指したい。そのためにも、同じアメラジアンであっても黒人と白人のアメラジアンによってその差別体験に大きな差があることも指摘されるべきである。
今月下旬、ついに私の自主製作ドキュメンタリーを持って、アメリカのネバダ大学で行われる「平和を求める元軍人の会」の総会で上映させてもらうこととなった。しかも、父と同じように元米兵やそのご家族の前で私の生い立ちについて話す機会を頂けた。米軍基地を背景に生まれ、父を知らずに育った子どもたちは、沖縄だけでなく、世界中に存在している。
私の作品が、当事者でもある元軍人の方々に届き、彼ら自身がその現実と向き合い、考えるきっかけになることを願っている。今は亡き母も私と夫がこの混迷の時代にアメリカに行き、沖縄という小さな島で起きている理不尽なことに声を上げることを、天国から見守ってくれていると信じている。
(漫画家・イラストレーター)
おおた・あきの 1985年うるま市生まれ。父を知らずに育った体験や家族の逸話を題材に漫画を制作。2022年、DNA検査をきっかけに元米兵の父を見つけた経験をセルフドキュメンタリーにする。現在はドキュメンタリーの上映会や講演会などを通じ、作品に込めた思いを届ける活動もしている。
太田さん渡航費 カンパ呼びかけ
60万円目標
VFP-ROCKは60万円を目標に、太田さんらの渡航費のカンパを呼びかけている。ゆうちょ銀行で記号17080、番号15128281。名義は平和を求める元軍人の会・琉球沖縄国際支部。他の金融機関からは店名七〇八(ナナゼロハチ)、普通1512828。カンパに関する問い合わせは真喜志、電話090(3796)5404。
※今回のメルマガは太田さんのご承諾を得て、転載したものです。