メルマガ77号

今回は当会オブザーバーの小西誠さんの9回目の寄稿です。小西さんが指摘する「自衛隊では初めての陸海空にわたる統合演習場、巨大演習・訓練場として造られようとしている」馬毛島の現状について詳しく解説していただいています。また種子島をはじめ薩南諸島の島々が一大兵站・補給拠点として設定されていることを防衛省の情報公開資料から明らかにしています。ぜひお読みください。


(以下は前回に引き続き再掲です)
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⑨南西シフトの機動展開・演習訓練拠点としての馬毛島(種子島)

●明らかになった南西シフト下の要塞島・馬毛島

 2011年の日米安全保障協議委員会(2+2)の決定以後、用地買収問題の未解決で10年にわたって進行が遅れていた馬毛島の基地建設は、その用地買収にメドを付けて2020年以後、一挙に進展しつつある。
それにしても、当初45億円と言われていた用地買収費が、なんと160億円に跳ね上がるという、前代未聞の状況である。防衛費と言えば、どんな巨額のカネも出すという自公民政権のトンデモぶりが、ここにも露呈している(当初400億円と言われていた買収額は、当時の官房長官であった菅義偉の「決断」で160億円に)。
こうして、2020年8月7日、防衛副大臣は種子島を訪れ、正式に西之表市長に対し、馬毛島への自衛隊配置計画等について通知した。ここで明らかになったのは、馬毛島――種子島の基地化計画が、自衛隊の南西シフト下の「巨大要塞島」として姿を現したことだ。
従来、防衛省は、馬毛島の使用について、「災害派遣等の集積・訓練基地」であるとか、米軍のFCLP(空母艦載機離着陸訓練)基地であるとか、徹底して誤魔化してきたが、今やそれをかなぐり捨て、あからさまに南西シフト下の基地として打ち出してきた。これは、発表された基地計画の全貌を見れば一目瞭然だ。 

「馬毛島における施設整備」(防衛副大臣の通知)は、冒頭から「わが国を取り巻く安全保障環境」は「厳しさと不確実性を増す安全保障環境」であり「わが国島嶼部に対する攻撃への対処等のため、南西地域に自衛隊の活動場所が必要」と公言する。
これは、従来の馬毛島説明資料では、全く明記されなかったことだ。ここにきて、中国・朝鮮・ロシアの脅威を一段と強調する。これは、自衛隊の本音、馬毛島基地化の本当の理由を明言しただけでなく、中国脅威論――南西シフト態勢を強調することによって、住民への煽情的合意を作り出そうという明らかな意図がある。
そして、この基地計画の全貌は、南西シフト下の巨大基地・要塞化計画だ。計画では、馬毛島には滑走路を2本造るとしている。1本目は2450メートル、2本目は1830メートル。滑走路2本を保有する航空基地は、自衛隊では初めてだ。

●統合演習場・機動展開拠点としての馬毛島

この自衛隊史上、最大の滑走路を有する航空基地を、自衛隊はどのように使うのか? 説明資料には、「馬毛島に自衛隊施設を整備する必要性」という3項目の説明と、12項目の様々な「施設利用」が明記されている。
まず、「施設を整備する必要性」については、「南西地域の島嶼部において、
Ⅰ、陸海空自衛隊が訓練・活動を行い得る施設。
Ⅱ、整備補給等後方支援における活動を行い得る施設。
Ⅲ、米空母艦載機の着陸訓練FCLPの施設が必要」

と、南西シフト下の「演習・訓練・機動展開」基地として馬毛島を位置付けるとともに「整備補給等後方支援」、つまり、兵站拠点として位置付けたことが明確にされている。
この「施設利用」の12項目について、具体的に見てみよう。まず「Ⅰ、陸海空自衛隊が訓練・活動を行い得る施設」である。以下のように提示されている。

① 連続離着陸訓練(F35、F15、F2等)
② 模擬艦艇発着艦訓練(F35)                  
③ 不整地着陸訓練(C130)                      
④ 機動展開訓練(F35、F15、F2、KC767、C2等)
⑤ エアクッション艇操縦訓練
⑥ 離着水訓練及び救難訓練(US2)
⑦ 水陸両用訓練(AAV、エアクッション艇等)
⑧ ヘリコブター等からの展開訓練(CH47、V22)              
⑨ 空挺降投下訓練
⑩ PAC3機動展開訓練 
⑪ 災害対処訓練(UH60)
⑫ 救命生存訓練

一見して明らかだが、自衛隊は馬毛島を全ての部隊の訓練施設として使用するつもりである。南西シフト下の機動展開訓練はもとより、陸海空全部隊の戦闘機・輸送機・水陸両用車・空挺などの訓練・演習だ。つまり、馬毛島は、自衛隊では初めての陸海空にわたる統合演習場、巨大演習・訓練場として造られようとしているのだ。
続いて説明資料は、「Ⅱ、整備補給等後方支援における活動を行い得る施設」を造るとし、「わが国島嶼部に対する攻撃への対処のための活動場所として、また、災害等発生の際、一時的な集積・展開地として活用」と。
この「災害派遣」は、住民を誤魔化すための説明だ。重点は「わが国島嶼部に対する攻撃への対処のための活動場所として」の「整備補給等後方支援における活動を行い得る施設」、つまり、南西シフトの後方整備拠点=「兵站拠点」=「事前集積拠点」としてあるということだ。
 これについては、筆者は防衛省の情報公開文書でたびたび明らかにしてきたが、馬毛島・種子島――奄美大島などの薩南諸島が、文字通り、南西シフト態勢下の、一大補給・兵站拠点として設定されたということだ。
 言うまでもないが、軍隊の戦時下の兵站物資は、膨大なものだ。武器・弾薬・車両・整備器材などはもとより、燃料・糧食・医療器財などなど、湾岸戦争下での米軍のイラクへの兵站物資は100万点に及んだといわれている。この巨大な物資、しかも、予定される機動展開部隊は、先島―琉球列島への常駐・先遣部隊だけでなく、「3個機動旅団・4個機動師団・1個機甲師団」分の兵站である。いかに膨大なものか、想像出来ないぐらいだ。
防衛省は、先の資料で、馬毛島には飛行場、格納庫、庁舎、燃料タンク、火薬庫、種子島に宿舎、港湾施設を整備するとしている。見て分かるとおり、単なる訓練施設であれば、「火薬庫」は必要ない。かえって危険になる。だが、馬毛島に火薬庫を造るというのは、この施設が兵站拠点としてあるからだ。    
 そして、説明資料は「馬毛島にFCLPを置く必要性」として「米空母のプレゼンスはわが国にとって極めて重要な抑止力・対処力、アジア太平洋地域における米空母の活動を確保する必要性」を言い、そのFCLPは年間30程度であると明記している。
ところが、FCLPは、米軍だけではない。自衛隊のF35などをはじめとするFCLPもまた、年間130日ほどを実施すると言明している。年間130日といえば、ほぼ3日に一度以上、米軍のFCLPを加えると、2日に一度、1年の半分弱が凄まじい騒音下におかれるのである。
 
●空母も寄港できる巨大港湾設備

 従来、防衛省が説明してきた馬毛島基地化計画は、いわば「航空要塞」の計画であった。ところが、ここにきて計画は、これにプラスして「海上要塞化計画」(不沈空母)にまで広がっている。まさに、一旦、造られた基地は、徹底して増殖・拡大していくという見本のような状況だ。
述べてきたように、2020年8月、防衛副大臣の馬毛島来島時の通知資料「自衛隊の馬毛島基地における港湾施設の整備について」には、簡単な「係留施設」が図示されているだけであった。ところが、翌2021年8月6日、防衛省がネットで公開した「港湾施設の整備について」(正式文書名は、「海上ボーリング調査」の資料。わずか2頁)では、「自衛隊馬毛島基地では港湾施設の整備を予定」している、として、「馬毛島への人員、燃料、資機材等の海上輸送、艦艇の停泊及び補給等を目的とした係留施設等を設置」するとし、島の東側に「長さ500~700メートルの架設桟橋」(3本)を造るほか、「沖合1キロの防波堤・消波堤防」などを造るとしている。
つまり、2020年8月では、「仮設桟橋」、「係留施設」の図(楕円)が示されているだけであったが、ここに至って、その具体的施設や建築物を出してきたというわけだ。
これらの描かれている桟橋などの大きさを見ると、当初説明されていた、馬毛島と種子島を行き来する自衛隊員らの「通勤用船舶」というものではなく、自衛隊の大型艦船はもとより、空母部隊の寄港・停泊も可能な港湾に拡大されるという代物だ。実際に、馬毛島は、米軍の艦載機や、自衛隊の「いずも」に搭載する艦載機F35Bの運用についても、この馬毛島を「作戦拠点」として使用することを目論んでいるのだ。実際、米軍艦載機の岩国基地と、F35Bが配備される予定の空自・新田原基地と馬毛島は、至近の距離である。

●南西シフト下の演習拠点となった種子島

 自衛隊史上初めてという、1つの島の航空基地化・要塞化という状態は、見てきたように馬毛島が、演習・訓練・兵站・機動展開の拠点として運用されるだけではない。この基地の運用は、もっと大きな計画のもとに行われているのである。その証左が、筆者に提出された情報公開文書である。
統合幕僚監部発行の「自衛隊施設所要の一例」(2012年統幕計画班)と明記されている文書は、わずか1頁であるが、馬毛島軍事化の本当の意図を知られたくないのか、黒塗りばかりだ。しかし、開示された図からは、馬毛島の南西シフト態勢下の作戦・運用方針が、見出しだけでも確かめられる。 
まず、「施設所要」は、「統合運用上の馬毛島の価値」として、「南西諸島防衛の後方拠点(中継基地)」であることが明示される。この後方拠点の「運用概要」「所要施設」の実態は黒塗りされているが、「南西シフト態勢下の「事前集積拠点」=兵站拠点、および「機動展開拠点」(中継基地)であることが読み取れる。
九州・本土から石垣島・宮古島などへは、およそ千キロの距離がある。この距離は、自衛隊が「島嶼戦争」の作戦を行う場合、大きな障害になる。自衛隊では、このために1982年のフォークランド戦争(イギリスとアルゼンチンの戦争)の教訓を研究しているほどである。この距離のハンディは、特に陸自の作戦において重要な意味を持つ。つまり、部隊の増員や兵站支援の問題だ。
したがって、「南西シフトの後方拠点」(中継基地)としての馬毛島が、重要な位置を占めるということだ。 
また、馬毛島は、「統合運用上の馬毛島の価値」として――「島嶼部侵攻対処を想定した訓練施設」であると明記される。この具体的な作戦運用概要は、「(対)着上陸訓練」「輸送艦による輸送、訓練等」「戦闘機展開、輸送機による輸送訓練等」と記載されている。
すでに、この演習・訓練施設としての具体的内容は、種子島の行政などに通知されているが(前述)、問題は、これらの演習・訓練が、「島嶼部侵攻対処を想定した訓練施設」である、としていることだ。これは、馬毛島での演習・訓練が、通常のものと異なり、島嶼部侵攻対処を中心とした特殊な、秘密裡のものであるということだろう。
このように、馬毛島要塞化は、奄美大島の軍事化とともに、南西シフト態勢の重要な機動展開・演習・兵站拠点(事前集積)づくりであることを明確に認識すべきである。
(注、馬毛島軍事基地について、メディアの全てはこの基地化は、米軍のFCLPと報道してきた。だが、この基地化が南西シフトの一環であることは、2011年、防衛省から西之表市に出された説明書「御説明資料」(市サイトに掲載)、また防衛省サイトにある文書「国を守る」において明らかだ。この決定内容は、非公開ではなく2011年の日米安全保障協議委員会(2+2)による決定である。全文は外務省サイトに公開)。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

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