今回のメルマガは、現在の南西諸島軍事強化、「中国への攻撃、戦争態勢」ともいうべきミサイル要塞化の背景について、ノーモア沖縄戦えひめの会の高井弘之さんから寄せていただきました。「軍事帝国主義国としての日本」として米国の戦争政策のもと、東アジア世界で愚行を繰り返そうとする岸田政権に対する鋭い指摘をし、戦争をさせないために何をすべきかを明示していただきました本稿をぜひお読みください。
日米政府が言う「国際秩序」とは何か
―帝国主義諸国による中国・朝鮮への戦争態勢
そして、岸田の「軍事帝国主義国としての日本」宣言―
着々と進められる中国・朝鮮への攻撃態勢
いま東アジアでは、戦争への危機がかつてなく高まっている。いや、高められている。
日本では、「中国への攻撃・戦争態勢」が急ピッチで構築され、沖縄・奄美を中心に中国軍への攻撃用ミサイル基地が次々と造られている。そして、西日本を中心に全国各地で、巨大なミサイル弾薬庫の建設が進められ、民間空港・港湾の軍事拠点化も企てられている。中国に対するこの軍事包囲網には日米を中心にNATO諸国・フィリピン・韓国・オーストラリア等も加わっており、これら諸国は、中国の近くで合同軍事演習を繰り返している。
朝鮮半島では、米国・韓国による朝鮮民主主義人民共和国への軍事圧力が、やはり、かつてなく高まり、核攻撃の威嚇も行われている。米国は、この一年近くの間に、ミサイルを搭載した原潜や空母、爆撃機などを頻繁に派遣し、朝鮮のすぐそばで展開させている。そして、朝鮮を攻撃対象とする米韓の軍事演習・軍事態勢には日本も加わっている。
日米欧帝国主義諸国による、かつて自らが侵略・植民地化した中国・朝鮮へのこのような軍事包囲網の構築は、どのような世界史的状況の中で行われているのだろうか。
「戦後の国際秩序」とは何か
岸田首相は4月の訪米時、米議会で演説し、次のように語った。
米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくりました。・・・米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています。
ここにいう「国際秩序」とはどのような秩序だろうか。実は、本・教科書などで第二次世界大戦終了までの世界を描くとき当たり前のように使われていた、欧米日諸国に対する帝国主義とか列強という呼び名は、大戦終了後の世界を描くときにはまず使われない。
では、それまでの帝国主義国は、突然、帝国主義国ではなくなり、世界の支配―被支配構造は消滅したのだろうか。そうではない。戦後から60年代にかけ、植民地支配されていた国々の独立が続くが、その多くは、形式的独立で、経済的・政治的・軍事的に欧米列強に支配される状況が続いた。ただ、帝国主義列強は「先進国」と呼ばれるようになり、元・被植民地などは「後進国・発展途上国」と呼ばれ、その間の支配―収奪関係がもたらす格差問題などは「南北問題」と呼ばれたのである。岸田が言う、米国が形づくった「戦後の国際秩序」とは、このような、「西側・帝国主義国による世界支配秩序」のことである。
帝国主義「国際秩序」の行方
では、その「国際秩序」が「新たな挑戦に直面している」状況とは何を指しているのだろうか。岸田は次のように言っている。
経済力のバランスは変化しています。グローバルサウス(新興・途上国)は、課題と機会の双方に対処する上で一層重要な役割を果たし、より大きな発言力を求めています。/現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向は、・・国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦をもたらしています。/北朝鮮による核・ミサイル計画は、直接的な脅威です。・・北朝鮮による挑発は、地域を越えたインパクトをもたらしています。
つまり、米日らが、自らが優位の国際秩序に「挑戦」していると見なしている国は、かつて、日欧米に侵略・植民地化された中国・朝鮮や「グローバルサウス」の国々である。
世界史の大転換期としての現在
ところで、岸田は、上のような現在の状況を「歴史の転換点」とし、「私たちは今、人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいます」とも語っている。
たしかに、いま世界は、「近代500年の歴史―世界の支配構造」の大転換期にある。この「500年間」は、西欧によるその外部への侵略―支配によって徐々に作られて来た「世界の支配・被支配構造」の中にあった。
特に1800年代半ばから1900年代にかけて、世界各地を侵略し、植民地支配を行った英仏独伊露米日などの国々は、帝国主義列強と呼ばれた。その中心は、世界の覇者としての大英帝国であった。これら帝国主義諸国による世界支配の構造は、その覇者をイギリスからアメリカに交代させながら、第二次世界大戦後も基本的に変わらなかった。
「被侵略・被植民地国」の台頭
しかし、現在、この構造がその根本から大きく転換している。第二次世界大戦後も世界経済を支配して来た帝国主義諸国―「先進国」は、その経済的地位を大きく落とし、中国・インドなどの元「後進国」に追い抜かれつつある。インドネシア・ブラジル・メキシコなども含む経済的台頭を遂げたこれらの国々は、「国際社会」の中での政治的・外交的影響力も増している。
そして、帝国主義国を放逐し、新たに建国した後も反帝国主義・反植民地主義の立場を維持して来た朝鮮・中国・キューバなどの諸国のほかに、「西側・帝国主義国による世界支配秩序」に異議を唱えるグローバルサウスの国々が、この間、とても増えて来ている。米国を筆頭とする西側・帝国主義国を後ろ盾に行われている、イスラエルによるガザへの攻撃・虐殺を止めるために精力的に動いているのもグローバルサウスの多くの国々である。
世界を自らの利益と欲望に合わせて「秩序化」して来た帝国主義諸国の前には、いま、その諸国に侵略・植民地化された国々が大きな存在感をもって立っているのである。そして、これらの国々は、米欧日諸国と違って、他国への軍事侵略・軍事支配を行わない形で経済発展を実現させて来ていることを確認しておきたい。
「軍事帝国主義国としての日本」宣言
以上のような歴史的大転換期の現在、つまり、岸田の言う「米国が築いてきた国際秩序が新たな挑戦に直面している」いま、日本が何をしようとしているかを、彼は次のように語り、宣言する。
「自由と民主主義」という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできています。/日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています/日本は長い年月をかけて変わってきました。/日本は国家安全保障戦略を改定しました。/日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです。
戦後、日本は、米国の軍事力で維持されて来た「国際秩序」のなかで世界から経済収奪し、その経済力をもって、その「秩序」維持のために「貢献」して来た。そして、欧米日のためのその「秩序」が中国を筆頭とするグローバルサウスの国々からの「挑戦」を受けている(と考えている)いま、日本は、軍事力も出して、米国と共に、その「秩序」維持の「任務に従事」するというのである。つまり、岸田の演説は、「日本は強大な軍事力行使を伴う正真正銘の帝国主義国に変わった」という「軍事帝国主義国としての日本」宣言だったのである。
米日欧による「対中軍事包囲網」の目的
現在、着々と進められている日米らの中国・朝鮮に対する軍事包囲網の構築は、以上のような人類史の大転換期において、自らの没落を防ぎ、自らが優位に立つ「東アジア―国際秩序」を維持して世界を支配し続けようとする帝国主義列強の目的・欲望のために為されているものである。
「日本―東アジア150年」の反省的総括
近代日本国家は、150年前の東アジアでの台頭期以来、周辺諸国への軍事侵略―占領を次々と展開し、膨大な数の人びとを殺戮―支配し、アジアの大国となっていった。
この長い期間、日本は、アジアの人々・国々に対する支配者―加害者として、独自に、あるいは欧米列強と共に、東アジアを軍事的・経済的に侵略し、戦争を起こし、平和を奪ってきた。欧米と共に、東アジアの国ぐに・人びとに対してそのようにしたのは、東アジアで日本だけである。
東アジアでの戦争を止める!
地図を見れば一目瞭然であるように、中国に対する軍事封鎖態勢の構築と戦争は、琉球弧と日本列島を使わなければ為し得ない。つまり、日本国家が協力・参加しなかったら、できない。米国政府・軍部は、はるか遠くからの遠征軍だけで中国に勝利できるという展望を持っていない。朝鮮に対する米国の攻撃―戦争も、70数年前の「朝鮮戦争」がそうであったように、日本を大規模な後方―出撃拠点にしない限り、為し得ない。
したがって、日本が、米国によるこの二つの「戦争態勢」から抜ければ、アメリカは中国とも朝鮮とも戦争ができない―戦争をしない。
私たちは、政府の戦争態勢構築を挫折させ、「中国・朝鮮包囲網」から抜けさせなければならない。そうして、今度こそ、東アジアでの戦争を阻止する側にならなければならない。
※拙著『日米の「対中国戦争態勢」とは何か―東アジアでの戦争を止めるために―』(A5判 148p/900円)も、ご一読していただけると幸いです(Eメール/takaihiroyuki123@gmail.com )。
高井弘之(ノーモア沖縄戦 えひめの会)