メルマガ48号

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今回のメルマガは軍事ジャーナリストで、当会のオブザーバー小西誠さんの原稿です。小西さんは現在の南西諸島軍事強化にいち早く警鐘を鳴らし、多方面であらゆる角度から鋭い批判を加えています。今後定期的に小西さんより投稿いただきます。ご期待ください。その第一回目のテーマは「ウクライナ戦争下のアメリカの対中・対ロ戦略」です。新冷戦下の世界戦略として計画され米国の対ロ戦略(ウクライナ戦争)と対中戦略(「台湾有事」)がどのようなものか、詳しく本稿で述べています。ぜひご覧ください。

ウクライナ戦争下のアメリカの対中・対ロ戦略

●米国の2022年「国家防衛戦略(NDS)」

ウクライナ戦争開戦のおよそ1カ月後の2022年3月30日、米国国防総省の2022年「国家防衛戦略(NDS)」が、バイデン政権初の安全保障戦略として策定、発表された。この国防戦略は、全文は公開されていないが驚いたことに、米国(欧州)が対ロ戦争下にありながら、ロシアではなく中国を「最重要の戦略的競争相手」と位置づけ、「中国最優先」を明記していることだ。
具体的には、「ロシアは深刻な脅威」だが、「インド太平洋地域における中国を優先し、次いで欧州におけるロシアをあげた」と報じられている(3月30日付朝日新聞)。
米国の「国家防衛戦略(NDS)」は、全文は非公開だが、QDR(4年ごとの国防戦略の見直し)に替わるものとして、要約のみが公表されている。

今回発表された米国の「国家防衛戦略(NDS)」は、トランプ政権下の「国家安全保障戦略(NSS)」( 2017年12月)、そして、国防総省の「国家防衛戦略(NDS)」(2018年1月)を踏襲したものである。つまり、トランプ政権からバイデン政権に移行しても、米国の世界戦略――新冷戦戦略は、全く変更されていないということだ。
2018年米国防総省の「国家防衛戦略」の発表後、2019年6月に公表された「インド太平洋戦略報告」(シンガポールで発表)もまた、この対中重視の戦略を鮮明かつ具体的に提示している。ここでは、特に「米中衝突に備え、日米同盟をはじめ同盟国・友好国との重層的ネットワークを構築する、中国と対抗する上で台湾の軍事力強化とその役割を重視」するとし、次の3点をあげている。
① いかなる戦闘にも対応できる米国と同盟国による「統合軍」の編成
② 中国と対抗する上で台湾の軍事力強化とその役割を重視(初めて台湾に言及)
③ 新しい作戦構想として陸軍の多領域任務部隊(MDTF)と海軍・海兵隊の「遠征前方基地作戦(EABO)」の任務

 こうして、米国のアジア太平洋戦略は、「AUKUS」「Quad」など、オーストラリア、イギリス、日本(インド)を含む対中包囲網づくり、つまり、アジア版NATO態勢づくりへと急ピッチで進行しているが、その隠されたもう一つの重要な態勢が、上に見てきた台湾の軍事態勢への組み込みだ。
このような一連の動きの中に、2022年1月7日においての日米安全保障協議委員会(2+2)の「台湾有事」の「日米共同作戦計画」の策定があるのだが、これは後述する。
ここでは、とりわけ米国の「新冷戦」下で進行する、「太平洋抑止イニシアティブ(PDI)」と「欧州抑止イニシアティブ(EDI)」について見てみよう。

●「太平洋抑止イニシアティブ(PDI)」と「欧州抑止イニシアティブ(EDI)」

米国の「太平洋抑止イニシアティブ(PDI)」とは、2021年会計年度から始まったアジア太平洋への特別軍事予算の発議である。これは国防予算と別枠で発議されており、2021年会計年度に22億ドル(約2351億円)、22年会計年度に71億ドル(7587億円)、今後6年間で約274億ドル(約3兆円)が計上されている。つまり、米軍の「アジア太平洋重視」戦略下で、その具体的な増強態勢づくりのための、大幅な軍事費増強が確保されたということだ。
この特別軍事予算で予定されているのは、主要には第1列島線への残存性の高い精密打撃網(ミサイルなど)の構築であり、米海兵隊・陸軍へのトマホーク、スタンドオフ・ミサイルの配備であり、そして、中距離ミサイル等を軸にミサイル戦力の強化配備(6年間に33億ドル)であり、さらに、グアム基地の強化(抗湛性を含む44億ドル)等であり、「遠征前方基地作戦(EABO)」による部隊の新編成・増強である。
ところで、このPDIが参考にしたのが、「欧州抑止イニシアティブ(EDI)」である。これもまた、2014年から「対ロ戦略のための特別軍事予算」として、開始から6年で約224億ドル(約2兆4000億円)が計上されている。これらEDIの最大の目的は、近代的軍隊であるロシア軍との戦闘を視野に入れ、重装備部隊の欧州への展開、重装備部隊のための事前集積を重視していることだ。もちろん、このEDIもまた、基本予算とは別立ての海外作戦経費からの資金である。

こうしてみると、米国の2017年「国家安全保障戦略(NSS)」、2018年「国家安全保障戦略(NSS)」以後の、新冷戦態勢による欧州戦略(対ロ戦略)と対中戦略が一貫した共通戦略として策定されていることが分かる。
いみじくも、米国政府の最大のシンクタンク、ランド研究所の提言「ロシアを拡張する――有利な条件での競争」(Extending Russia Competing from Advantageous Ground 2019年)は、ウクライナ戦争の始まるはるか前に以下のように述べている。
「米国は両国(東ウクライナとシリア)でロシアの敵対勢力に限定的な支援を行っており、さらに支援を行う可能性があるため、ロシアのコストを押し上げることになる。このような代理戦争は、決して新しいものではない」
「米国のウクライナに対する安全保障支援が増加すれば、それに比例してロシアの分離主義者への支援やウクライナ国内のロシア軍も増加し、紛争はより高いレベルで維持される可能性が高い。元米国陸軍欧州軍司令官 Ben Hodges 中将は、まさにこの理由からウクライナへのジャベリン対戦車ミサイルの供与に反対している 。あるいは、ロシアは逆にエスカレートし、より多くの軍隊を投入し、ウクライナに深く入り込むかもしれない。ロシアは米国の行動を事前に察知し、米国の追加援助が到着する前にエスカレートする可能性さえある。このようなエスカレーションはロシアを拡大させるかもしれない」
「米国がウクライナのNATO加盟をより積極的に主張すれば、ウクライナの士気と、それを阻止しようとするロシアの決意力が高まり、その結果、ロシアの関与と犠牲がさらに拡大する可能性がある」

つまり、米国の対ロ戦略(ウクライナ戦争)と対中戦略(「台湾有事」)は、新冷戦下の世界戦略として計画され、策定されているということだ。ウクライナ戦争の開戦以来、米国のウクライナへの援助は、約3カ月で総額530億ドル(約6.7兆円)であり、その半分ほどが軍事援助だ。つまり、米国は、アフガン・イラクと異なり、ただの一兵の犠牲もなくロシア弱体化→欧州覇権の確保を成し遂げようとしているのだ。これを今、アジア太平洋でも実現しようとしているといっても過言ではない。
もちろん、このウクライナ戦争は、米国のNATO拡大戦略が背景にあるとはいえ、ロシアが国際法に違反するウクライナ侵攻を行っているという事実は明らかである。このロシアの大ロシア主義ともいえる帝国主義政策には厳しい批判が必要である。そして、この戦争の中、ロシア、ウクライナ双方の民衆、兵士らに膨大な犠牲が生じており、一刻も早い停戦が求められている。
しかし、米国の知識人、ノーム・チョムスキーが言うように、「米国はウクライナ人の最後の一人まで戦わせようとしている」という、この戦争の本質についても、私たちは深く認識しておくべきである。https://www.youtube.com/watch?v=yw5DvUgJlZA

小西誠(軍事ジャーナリスト・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)

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