メルマガ186号

今回のメルマガは豊下楢彦さんからの投稿です。
先日在沖米軍当局が普天間基地を今後も使い続けるという意志を明らかにしたことについて、辺野古に新たな基地をつくるという構図は破綻したと豊下さんは鋭く指摘します。普天間基地の最大のリスクは攻撃されるということであり、もし攻撃されるようなことがあれば、現在のガザの悲劇的な状況になりかねず、勇ましく「沖縄有事」を語るようなものには「ガザを見よ」と反論すべきだと訴えます。
そして普天間基地の直面する最大の脅威である低空飛行や爆音を解決するには日本の国内法を守らされることが「唯一の解決策」だと提起し、「法とルールの支配」を前面に出し「辺野古が唯一の解決策」だとする岸田政権の欺瞞を暴露しなくてはならないと強調します。「軍事の名によって人権が蹂躙されるガザの悲劇を前にして、なぜ国内法を米軍に適用できないのか、なぜ米国本土で許されないことが沖縄では許されるのか」、本稿を通して、私たちがあらためて日本政府にこのことを突き付けなければならないと強く感じました。ぜひお読みください。

当面する普天間問題の「唯一の解決策」とは

辺野古に新たな基地をつくり、そこに普天間基地を移設するという構図は完全に崩壊しました。なぜなら在沖米軍当局が、今後も普天間基地を使い続けるという意志を明確にしたからです。とすれば、辺野古の工事など全く何の意味もありません。代執行など論外です。巨費を投じて工事を続けることは、文字通り「ドブに金を捨てる」ようなもので即刻中止すべきです。

それでは、普天間が抱える「危険性の除去」という課題については、いかに対処すべきでしょうか。 普天間が直面する最大の脅威は、攻撃されるという危険性です。普天間が攻撃されれば沖縄の全域が戦場と化します。人口が密集する逃げ場のない狭い地域が戦場となればいかなる事態が引き起こされるか、ガザの悲劇的な現状が雄弁に物語っています。政府が唱える全島避難や島内避難などは絵空事です。勇ましく「沖縄有事」を煽る者に対しては、「ガザの現状を見よ」と反論すべきです。かの沖縄戦を想起させるガザの地獄絵を見るとき、安易な有事論を絶対に許してはなりません。「ガザを見ずに有事を煽るな」です。

 今や、あらゆる手段を駆使して戦争回避に努めねばなりません。この点で皮肉な話ですが、「東シナ海を平和の海に」というスローガンを掲げて中国の習近平主席を「国賓」として日本に招こうとした安倍元首相の対中外交は、一つの参考になるかも知れません。

普天間が直面する差し迫った脅威は、米軍機による昼夜を問わない低空飛行や耐えがたい爆音によって住民の生活基盤が破壊され続けていることであり、先鋭化する米軍の活動によって脅威は全域に広がっています。この事態に対する根本的な解決策は基地の撤去ですが、当面する「唯一の解決策」は、米軍に航空法をはじめとした日本の国内法を守らせることです。仮に国内法による“縛り”をかけることができるならば、直面する危険性は相当程度緩和されるはずです。

 本土の政権は日米地位協定を楯にこの要求を拒否してきました。つまり、米軍の活動に支障を来たしてはならない、という軍事の論理です。しかし、軍事を理由に人権が蹂躙されることがあってはなりません。ガザの大惨事は、この問題を正面から問いかけることになりました。イスラエルはガザの人びとを人間として扱っていません。ネタニヤフ政権の幹部は「ガザを無人島にしてやる」と公言しています。どれだけの犠牲が出ようが軍事最優先です。

 
 米軍の占領期はもちろん、本土復帰以降も米軍が我が物顔で好き放題に沖縄の人々の人権を蹂躙してきたことと、ある意味通じるところがあります。人間としての尊厳が完全に無視されているのです。岸田政権が「法とルールの支配」を強調するのであれば、直ちに国内法というルールを米軍に適用すべきです。これこそが、当面する普天間問題の「唯一の解決策」です。「辺野古が唯一の解決策」といった陳腐なスローガンの欺瞞性を暴露せねばなりません。

軍事の名によって人権が蹂躙されるガザの悲劇を前にして、なぜ国内法を米軍に適用できないのか、なぜ米国本土で許されないことが沖縄では許されるのか、本土の政権は今こそ明確に答えねばなりませんし、私たちは今こそ、この要求を前面に掲げることが何よりも重要と考えます。

豊下楢彦(元関西学院大教授)

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