今回のメルマガは、羽場久美子さんからの寄稿です。羽場さんは勝者敗者関係なく、命の犠牲をまず終わらせるためにロシア・ウクライナ戦争の停戦を訴えられています。そして今回のサミットでの最重要テーマが核の脅威の排除であり、具体的にはウクライナ戦争での劣化ウラン弾や戦術核使用を許さないということに言及されています。また今後の世界の趨勢を見ていくと日本の取る立場は最大の貿易国である隣国中国を敵視し、ミサイル配備という刃をむけるのではなく、いかに中国、インド、ASEANと平和共存、繁栄の道を選ぶことであるとの主張はわたしたちノーモア沖縄戦が強く求めてきたことであり、当会もさらにアピールしていきたいと思います。ぜひお読みいただき、拡散ください。
広島サミットに望むこと
新たな平和秩序の構築を
広島で、5月19日から21日、先進国首脳会議(G7サミット)が開かれる。
ロシア・ウクライナ戦争で、核兵器使用の恐れすら高まる中、広島サミットで日本が何を発信するかは極めて重要だ。
ウクライナ戦争は、ロシアがウクライナに侵攻して始まったが、今や北大西洋条約機構(NATO)諸国が供与した兵器が趨勢を左右し、代理戦争の様相を呈している。広島に集まる欧米首脳には、何よりロシアとウクライナの即時停戦に向けた宣言を求めたい。
私は、父が広島で原爆の被害を受けた被爆2世だ。第2次世界大戦では、日米停戦の遅れにより、沖縄戦や、広島・長崎への原爆投下という最大級の悲劇が生じた。
停戦はどちらかの敗北や勝利ではない。文字通り戦争の停止であり、交渉はそこから始まる。まずは命の犠牲を終わらせなければならない。
特に重要なのが核の脅威の排除だ。
英国は3月、ウクライナに対し、戦車を貫き爆破し、放射能を拡散する劣化ウラン弾の供与を決めた。米軍や英軍は、劣化ウラン弾を湾岸戦争やイラクで使用し、未だに人々や土壌の被爆が問題となっている。
そうした兵器が、ウクライナで使われようとしている。被爆地広島のサミットでは決して許してはならない問題だ。ロシアが対抗して戦術核を使用すれば、核戦争が起こる危険性すらありうるのだ。
広島サミットをきっかけに、転換しつつある国際情勢を客観的に見極めることも提案したい。国連総会は、2月の緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退を求める決議を採択した。賛成が141カ国に上った一方、中国やインドなど32カ国が棄権した。棄権したのは、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国、21世紀後半に世界の主導権を握るであろう国々で、世界人口の半数を超え、ロシアに対し、国連決議とは異なる意見を持っている。
今、大きな変化が起こっている。22世紀にはアジア・アフリカ諸国が世界の人口で大多数を占め、欧米は少数派となる。欧米の時代は終わりに向かいつつある。
そもそも19世紀の初めごろまで世界経済の主要国は中国とインドだった。欧米の時代はたった200年に過ぎない。
あと10年もすれば経済規模で中国がアメリカを追い抜き、30年すればインドがアメリカを抜く可能性がある。米欧の急激な軍事化は、中国、インド、BRICSの成長への脅威と対抗心の表れといえる。
米金融大手ゴールドマンサックスによる国内総生産(GDP)予測はさらに驚きだ。2075年、中国とインドが1位と2位を占め、アメリカは3位となる。そしてインドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルがトップ8に入り、日本は12位まで落ちるという。日本がどうするかを考えるとき、貿易の最大相手国中国を敵と定めてミサイル配備するのではなく、中国・インド・東南アジア諸国連合(ASEAN)と結び、平和と安定、繁栄の道を選ぶべきであろう。
G7広島サミットを今後の平和な世界秩序を構築する機会にしてほしい。日本はG7で唯一、アジアに位置する。欧米中心のG7と、来るべき先進国樽アジア、アフリカ諸国を含むG20の懸け橋となるべきであろう。
羽場久美子(青山学院大学名誉教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長)