メルマガ118号(2023年4月14日)

今回は豊下楢彦さんの第105号から続きの寄稿で第4回の最終回です。豊下さんは「事実上日本だけが“突出”して「台湾有事」論を煽りたてている」と指摘し、前のめりになって軍事強化をすすめることは「旧ソ連のように、軍拡によって経済が破産し国家が破綻する道に陥るであろう」と警鐘を鳴らしています。この「破滅への道」を防ぐための「東アジアSDGsセンター」の提案は具体的で、わたしたちがめざしていくべき方向性だと思います。ぜひお読みください
(第1回)https://nomore-okinawasen.org/5838/
(第2回)https://nomore-okinawasen.org/6029/
(第3回)https://nomore-okinawasen.org/6225/

< 荒唐無稽な「敵基地攻撃」論 >

「戦争回避のコアリション(提携)」
こうした不確実で不安定な情勢のなかで、唯一確実で明確なことがある。それは、ASEANを始め周辺諸国が打ち出しているところの、「米中対決、米中戦争に巻き込まれたくない」という絶対的な立ち位置である。例えばシンガポールのシェンロン首相は、「いかに戦争は馬鹿げたことか」「始めることは簡単としても結末は悲劇的である」と指摘し、あくまで戦争を回避すべきと訴える。(『日経新聞』2022年5月26日)こうしたASEAN諸国の動向は、国際的にも「新たな非同盟主義」の潮流として位置づけることができよう。バイデン政権は民主主義対専制主義という価値観対立を前面に掲げているが、欧米諸国によるかつての植民地支配や侵略戦争、さらには米国自体が国内で価値観の分断に直面していることを踏まえるならばおよそ説得力をもたず、インドやトルコも含め新興諸国の間で「全方位的な外交」という流れが形成されているのである。
さらに、改めて考えてみれば、仮に日本が中国に「敵基地攻撃」をかけ戦争となった場合、南西諸島の145万人を越える住民ばかりではなく、中国進出の1万2千社の企業、12万人の在留邦人、2万人の台湾在留邦人の運命はどうなるのであろうか。この現状を踏まえるならば、とり得る選択肢は戦争回避以外にあり得ない。
そうであれば日本は、ASEANや周辺諸国との間で「戦争回避のコアリション」とも言うべき提携関係を構築し、米中両国に戦争の回避を強く働きかけるべきである。仮に日本が正面から「戦争回避」を求める方針を打ち出すならば、東アジアに新たな秩序を生み出す契機として大きな反響を呼び起こすことは間違いない。日本自身が煽りたて、あるいは米国によって煽りたてられて「不要なケンカ」にはまり込むという馬鹿げた事態に国家と国民を直面させないためには、戦争回避の方針を選択する以外の道はないはずである。
とはいえ、「美國主導下」にある日本政府がこうした方向に動くのは現実的には期待できないであろう。とすれば、戦場の危機に直面する沖縄が内外に戦争回避を訴えるとともに、東アジアの中軸に位置する地方自治体として、何よりも信頼醸成にむけた「独自外交」に踏み出すべきであろう。その契機として重要な足がかりになるのがSDGs(持続可能な開発目標)である。

「東アジアSDGsセンター」の設置を
今やSDGsについては様々な問題を孕みながらも官民をあげた取り組みが進められているが、米軍による環境破壊に直面する沖縄県はSDGsを県政の最重要課題に据えている。とすれば、視野を東アジア全域に広げ、沖縄に「東アジアSDGsセンター」を設置する、というような方向性を打ち出せるのではなかろうか。ここに、周辺諸国の自治体やNGO、研究者、市民、さらには国連関係者などが結集し、東アジアという大きな枠組においていかにSDGsを推し進めていくかを議論し、その輪を拡大していくことを通して信頼醸成の土台を築いていく、こうした展望を描くことができるのではなかろうか。
ここにおいて着目すべきは、先に述べた国連の「軍縮アジェンダ」が、SDGsを追求するには「軍縮という目標を実現していくことが不可欠である」と強調していることである。たしかに、世界中で天文学的な巨費が軍事に投じられている現状では、SDGsの17の目標を達成することなど夢物語であろう。だからこそ、欧州の投資家のなかには、売上高の5%以上を軍需関連が占める企業には投資をしない、といった取り組みもなされてきた。
 しかし、ストックホルム国際平和研究所によれば、2021年度の世界の軍事費総額は2兆1130億ドル(1ドル145円換算で約306兆円)と、初めて2兆ドルを突破したという。今回のウクライナ戦争を受けて、22年度の軍事費がどこまで膨れあがるか、想像を越えるものがある。さらには、軍事への投資こそが侵略を抑え「持続可能な社会」を保障するものだ、といった論調が強まるかも知れない。こうなれば、SDGsは文字通り“死に体”となろう。
 今やまさに、決定的な分岐点である。右のような論調が勝つか、あるいは、軍拡と戦争がいかに愚かで人類と地球の破滅をもたらすことになるという主張が勝つか、鍵は国際世論の動向にかかっている。そうであれば、SDGsの実現と「軍縮アジェンダ」を結合させる方向で新たな国際秩序を再構築していくといった大胆な構想も提起されるべきであろう。かくして、以上のような文脈において、沖縄に設置される「東アジアSDGsセンター」は、東アジア全域の軍縮の拠点となることが展望されるのである。
もちろん、こうしたセンターを設置し運営をしていくためには当然のことながら財政上の問題が生じるであろうが、沖縄県の財政に依存する問題ではなく、本土を含め国の内外にクラウド・ファンディングを呼びかけるならば、沖縄を「SDGsと軍縮の拠点にしていく」という訴えは反響を呼び、大きなうねりとなることが期待されるであろう。

旧ソ連が歩んだ道
際限ない軍拡競争を止めるためには、国際社会においていずれかの主体が軍拡の動きを軍縮に向けて逆回転させる方向に踏みださねばならない。本来であれば、防衛費GDP1%、専守防衛、兵器輸出の規制といった枠組みをとにかくも維持してきた日本が主導せねばならないはずである。しかし全く逆の軍備拡張に邁進している現状を見るならば、再び戦場となる犠牲を負わされようとしている沖縄が東アジアの信頼醸成に向けて「独自外交」を展開し、軍縮への流れをつくりだすことが期待される。
本土の国会では野党の多くも、敵基地攻撃能力の保持や歴史的な防衛費の増額に支持を表明している。しかし、この路線の行き着く先にいかなる展望が開かれるのか、何一つ語られることはない。例えば、防衛省は音速の5倍以上のスピードで変則軌道を飛ぶミサイル「極超音速誘導弾」を今後10年ばかりをかけて開発配備する検討に入った、と報じられている。こうした「反撃手段」を確保することによって中国などへの抑止力を向上させる、という構想である。しかし、数兆円も要するというこうした構想の根本的な誤りは、今後の10年間において相手側が現状のままに止まっているであろう、と想定していることである。まず間違いなく断言できることは、日本が「極超音速ミサイル」を開発した段階においては、相手側は「極極」超音速ミサイルを実戦配備しているであろう、ということである。つまり、新たな兵器の開発をどこまで進めても抑止にはなりえず逆に危機が増幅され、結局のところ軍需産業だけが肥え太るのである。まさに愚行の極致である。
国連「軍縮アジェンダ」の表紙を飾るのはヒロシマを象徴する「平和の折り鶴」である。この原点にたつならば、日本こそ馬鹿げた軍拡競争から率先しで離脱すべきである。さもなければ、すでに先進国でも最悪の財政危機にある現状を見るとき、旧ソ連のように、軍拡によって経済が破産し国家が破綻する道に陥るであろう。

豊下楢彦(元関西学院大)

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