今回のメルマガは軍事ジャーナリストで当会オブザーバーの小西誠さんの寄稿です。昨年から12回にわたって、現在の南西諸島軍事強化について、その歴史的過程、現状など多方面から論じていただきました。今回はそのシリーズの最終回となります。
「全ての反戦平和勢力、平和を望む全ての民衆が、日本と中国の軍拡競争の即時停止――軍縮交渉に直ちに入るべきことを、アジア―世界世論に訴え、日本と中国の政府に要求することだ」、この小西さんの主張を、日中平和友好条約から45年の今年、あらためて私達一人ひとりが実践していく必要があると思います。ぜひぜひお読みください。
(企画のお知らせ)
日本政府の南西諸島軍事強化、島々を戦場する急速な軍拡に各地で反対の声が上がっています。今後近日開催される取組を紹介します。ぜひご参加ください。
【「大軍拡と大増税は何のためか」 ~ 琉球弧と日本列島を戦場にしないために ~ 】
日時:2023 年 1月 22日(日) 13:30~ 16:00 (15時から質疑応答)
開催方法:リモート≪ZOOM≫
講師 :高井弘之さん(ノーモア沖縄戦・えひめの会 運営委員)
参加申込メールアドレス:ksueda@nifty.com(末田一秀)
参加費:無料
主催: 辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会
【自衛隊弾薬庫反対 沖縄市民集会】(チラシより)
岸田自公政権は昨年末、国会で十分な議論もせず、安保関連3文書を閣議決定しました。この3文書は、平和憲法をないがしろに、軍事大国への大転機となる許しがたい内容となっています。南西諸島を最前線基地として、自衛隊の増強、ミサイル配備、とりわけ沖縄市の北にある陸上自衛隊の訓練場を弾薬置き場となる補給拠点とすることも明らかにされました。わたしたちは沖縄をふたたび戦場にしかねないこの計画を認めるわけにはいきません、皆で反対の声を示していきましょう。多くの市民の参加を呼びかけます。
日時:2023年1月25日(水)午後5時30分~
場所:胡屋十字路
主催:自衛隊弾薬庫反対実行委員会
【孫崎享講演 平和的解決をめざして-「ウクライナ問題」から「台湾問題」へ-
カテリーナ・グジー バンドゥーラ演奏と歌】
昨年12月16日の安保関連三文書の閣議決定以降、沖縄戦の再来が杞憂ではない状況が日に日に強まっています。この事態を平和的に解決するにはどうしたら良いのか、そのためのヒントを得る講演会が開催されます。
●と き 2023年2月10日(金) 開場17:30 開演18:00 終演21:00
●ところ 琉球新報ホール 3F
●入場料 (資料代他を含む)
前売り-2,000円・当日売り-2,500円、学生-500円
●お申し込みはFAXでお願いします。FAX番号 098-867-3294
●主催 沖縄の「基地と行政」を考える大学人の会
●共催 沖縄タイムス社、琉球新報社
●後援 沖縄人権協会・公益社団法人自由人権協会
(以下再掲です。ご確認ください)
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⑬日本のインド太平洋戦略と「台湾有事」
●安倍政権によるインド太平洋戦略の提唱
安倍政権(当時)が、2016年に提唱した「インド太平洋戦略」(のちに「構想」に修正)は、2018年、米軍もトランプ政権下で「太平洋軍」を、わざわざ「インド太平洋軍」に呼称替えし、歩調を合わせてきたことで知られている。つまり、日本主導の「インド太平洋戦略」というわけだ。
だが、この安倍政権の「インド太平洋戦略」は、関係者の間では、アメリカの軍事研究論文からの「盗作」であったことが知られている。つまり、彼の国の研究論文に目を付けた安倍政権のブレーンが、ちゃっかり借用したということだ。
そもそも、この「インド太平洋戦略」の発表は、2012年である。これは「セキュリティーダイヤモンド構想」と言われており、当時の安倍首相が、国際NPO団体で英語論文として発表したものである。
「セキュリティーダイヤモンド構想」は、日本、オーストラリア、インド、アメリカ・ハワイの連携を強化することで、中国の東シナ海、南シナ海への進出を牽制する構想であり、まさに、対中国包囲網形成に関する構想であった。いわば、アメリカのアフガン・イラク戦争後の「力の低下」という中、アメリカの戦略に合わせ、それを補完するとともに、日本がグローバルな「軍事外交」へ乗り出すという戦略を採り始めるという提言である。
この戦略提唱後、安倍政権は、着々とこのインド太平洋戦略の実体化を推し進めていった。早くも2007年には、「日豪安保共同宣言」が出され、これは定期的な日豪外務・防衛閣僚協議(2+2)に発展し、現在では、「日豪円滑化協定」(2022年1月6日署名)が成立している。オーストラリアが日本と「軍事淮同盟」体制に入ったということである。
このオーストラリアに続き、日本は、インド、イギリス、カナダ、フランスなどとの間でも定期的な「2+2」会合を行い、各国とのACSAを順次行っている。日米ACSAに加え、日豪ACSA(2013年締結)、日英ACSA(2017年締結)、日仏ACSA(2018年締結)、日加ACSA(2019年締結)、日印ACSA(2021年締結)と、続々とである。
ACSAとは、2国間の「物品役務相互提供協定」であり、「補給、輸送、修理若しくは整備、医療、通信、空港若しくは港湾に関する業務、基地に関する業務、宿泊、保管、施設の利用又は訓練に関する業務(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む)」を、相互に提供することである(いわゆる兵站共有が中心)。
これらは、2015年に成立した安保法を踏まえ、それ以前に発効していたACSAも改正され、日本が直接攻撃を受けていなくても、日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」において、自衛隊による他国軍への後方支援で、弾薬提供などが可能となった。このACSAについては、各国との締結後、自衛隊法の改定が行われ、順次同法に明記されている(自衛隊法第百条の6~17)。なお、2021年の日印ACSAの締結―自衛隊法改定については、立憲民主党、日本共産党が反対したことを付記しておきたい。
●激化する対中演習と新冷戦態勢
さて、このような日米、日豪、日印、日英、日仏、日加のACSA締結によって、急ピッチに進行するのが、日本とACSA締結国との共同演習である。
例えば、2021年10月2日から3日にかけて実施された、南シナ海での日・米・英空母を中心とする6カ国軍の共同演習には、米海軍カール・ヴィンソン空母打撃群、ロナルド・レーガン空母打撃群と、英海軍のクィーン・エリザベス空母打撃群、海自の「いずも」「かが」を軸とする17隻の大艦隊が集結・参加した。
海自については、同3日、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」に、米軍海兵隊所属のステルス戦闘機F35Bが発着する訓練を行い、日米の「ライトニング空母」構想の一端を公開したのである。
日米をはじめ、南シナ海での6カ国艦隊の共同演習に対して、10月4日、中国軍機56機が台湾防空識別圏へ進入し、対抗措置をとったが、日本の報道はこの6カ国の挑発的な共同演習については報道せず、中国側の対抗措置だけを「台湾有事」とばかりに報じている。
東シナ海・南シナ海では、このように日米の「航行の自由作戦」という対中国への威嚇行動に、英仏豪加などが参加し、急速な中国包囲体制を構築しようとしている。これに、米軍は、日米豪印(Quad)などの対中の軍事的枠組みに続き、米英豪軍事同盟(AUKUS)の成立を発表した。この中で重要なのは、オーストラリアの対中戦略への徹底した動員(日本と同様の役割)だ。
この急ピッチで始まった対中包囲網、対中対決政策は、かつての太平洋地域へ植民地を保有していた主要な「旧宗主国」全てを動員し、アメリカの対中対決戦略を補完する態勢づくりといえよう。
これが、2017年のアメリカの「国家安全保障戦略(NSS)」で打ち出された「新冷戦」態勢づくりである。
米ソを中心とするかつての「冷戦」は、戦後の世界支配体制、つまり、戦後世界の「東西」による、相互分割支配――「相互対立・相互浸透」と言われる、ある意味では「安定」した体制であったが、米中対立は、アジア太平洋地域をめぐる覇権争いの渦中にある。
この覇権争いの核心は、戦前・戦後アメリカが「膨大な血と汗を流して獲得」してきた、アジア太平洋地域を絶対に護持するというもので、そのために中国を東シナ海の内部に封じ込めるという体制である。
このような新冷戦は、一部には冷戦ではなく「ウォーム・ウオー」(暖かい戦争)と言われている。つまり、東西冷戦体制下の相互分割による「平和」ではなく、戦火が飛び散る「小戦争」だということだ。
しかし、この「ウォーム・ウオー」は、「小戦争」を幾度か繰り返しながら、次第に中規模戦争、大規模戦争に広がっていくだろう。これは、次第にアジア太平洋地域を巻き込む、通常型の大戦に、らせん的に広がるのである。
この米中対峙の戦争の渦中に乗り出し、南西シフトによる琉球列島のミサイル要塞化――対中攻撃拠点づくりに乗り出す、日本政府・自衛隊の愚かさ、そして暴挙を厳しく批判しなければならない。
●琉球列島の「非武装地域宣言」
このように現在、琉球列島――東・南シナ海は、「台湾有事」事態を始め、厳しい、重大な戦争の危機が生じつつある。もちろん、この琉球列島に生じている危機は、中距離ミサイル配備問題で明らかになったように、九州から日本本土全体の危機へと直結していく。
私たちは、この危機を打開するためには、今、何が必要なのか?
結論から言えば、全ての反戦平和勢力、平和を望む全ての民衆が、日本と中国の軍拡競争の即時停止――軍縮交渉に直ちに入るべきことを、アジア―世界世論に訴え、日本と中国の政府に要求することだ。
現在のアジア太平洋地域の軍拡競争は、1920~30年代の軍拡競争に類似しているが、しかし、この軍拡を阻み、軍縮へと導いた貴重な経験を、私たちは持っている。
第1次世界大戦直後、アジア太平洋地域は、激しい軍拡競争へと突き進み始めていた。だが、この時代の中で、なんと日本政府の提案によって、1921年、ワシントン海軍軍縮条約による「島嶼要塞化の禁止」条約が締結された。
決定的に重要なのは、この条約では米英日は、軍艦の保有数を制限した軍縮条約を締結(主力艦の対英米比6割、いわゆる5・5・3への制限)したが、この中にアジア太平洋地域の「要塞化禁止条項」が、取り決められたことである。
条約は、太平洋の各国の本土、および本土にごく近接した島嶼以外の領土について、現在存在する以上の「軍事施設の要塞化」が禁止された。日本に対しては、千島諸島・小笠原諸島・奄美大島・琉球列島・台湾・澎湖諸島、サイパン・テニアンなどの南洋諸島の要塞化を禁止した。
米軍に対しては、フィリピン・グアム・サモア・アリューシャン諸島の要塞化を禁止した(1923年8月17日公布の四カ国条約。正式には「太平洋方面ニ於ケル島嶼タル屬地及島嶼タル領地ニ關スル四國條約」。条約の締結により日英同盟は廃棄)。
だが、1930年代に至り、戦争の危機が深まってくるにしたがい、日本は、日本統治下のサイパンのアスリート飛行場(現サイパン国際空港)を始めとして、秘密裡の軍事基地建設を進めていく。
こうして日本は、1934年12月、ワシントン海軍軍縮条約の破棄を決定し、米軍に通告、1936年、ロンドン軍縮会議からの脱退も通告した。軍縮条約は実行力を失い、第2次世界大戦に雪崩をうって突入していくのである(1944年には、沖縄・与那国・石垣島・宮古島などの先島で、基地建設が始まる)。
このような、アジア太平洋戦争の時代の軍縮の努力は、いかなる意義を持つのか? これは私たちに、歴史の教訓をリアルに残しているのではないのか。
現在、日本において、アジア太平洋で激しく広がっている軍拡競争を、軍縮に導く動きや努力は、どのようになされているのか。南西シフト下の琉球列島への自衛隊配備を、ただただ傍観したり、見過ごしているだけではないのか?
例えば、SNSなどには、「日中の経済相互依存関係の中で、戦争など起きるわけがない」、「核戦争の時代に島嶼占領・奪還はあり得ない」、あるいは、「大国・中国を敵にして地対艦・空ミサイル配備など空論だ」という、政治的・軍事的現実を見ようともしない、無責任な主張が溢れている。こういう無責任な言動や傍観から、私たちは脱するべきだ。
これは、琉球列島において、政府・自衛隊が進めようとしているこのミサイル部隊配備=「島嶼防衛戦」「台湾有事」事態に対し、世界に向かってそれを拒む「非武装地域宣言」を行い、一切の軍隊の配備・駐留を阻むことだ(現在の「戦力」の凍結から始まる)。
この宣言は、ハーグ陸戦条約第25条に定められた「無防守都市」であることを、紛争当事者に対して宣言することであり、国際的にも認められたものだ。この宣言によって、琉球列島などへの攻撃は国際法違反となるのである。かつて、フィリピンのマニラを始め、この宣言を行った都市は、歴史的にも数多くあり、ここでは活きた歴史的教訓が残されている。
そして、周知のように、戦前の先島―沖縄は、国際法上の「無防備地域」であった。1944年3月、沖縄本島、先島諸島への日本軍上陸までは、軍隊・基地は全く置かれていなかったのである。
私たちは、このような歴史に学び、先島―南西諸島の無防備地域宣言を、確固としてアジアと日本―世界に発信しなければならない。
私たちは、戦争国家・米国の後追いをいつまでも続けておく必要はない。日中平和友好条約の原点に立ちかえるべきである。日本は、1978年、中国との間で、日中平和友好条約を締結し、相互に「武力による威嚇および覇権を確立」することを禁止するという歴史的確認を行った。この歴史的約束を今こそ、しっかりと確認し、相互の軍拡の停止――軍縮と平和外交を押し進めるべき時である。
小西誠(軍事ジャーナリスト 当会オブザーバー)