今回のメルマガは宮城恵美子さんからの寄稿です。高市政権発足後、安保三文書改訂の前倒し、防衛費増額、経済安保法改定への動きなど、戦争準備の態勢づくりが加速化しています。その中でも国家情報局の創設検討は、特定秘密保護法から共謀罪にいたる情報統制、監視社会づくりの総決算ともいえる重大な動きといえます。本稿では国家情報局創設の背景とその問題、危険性について宮城さんが整理をし、警鐘をならしています。ぜひお読みください。※本稿は宮城さんのご承諾を得て2025年11月7日に掲載された琉球新報の論壇を転載したものです。
民主主義とは相いれないー「新しい戦前」国家情報局検討
本紙10月25日のトップ記事には度肝を抜かれた。「政府、国家情報局検討 市民への監視社会強化恐れも」と見出しにあった。おっしゃる通りの市民監視社会の到来を公に推進という。進軍ラッパが鳴ったのである。既に、政府には内閣情報調査室(内調)のほか、警察庁の公安部門や公安調調査庁の情報組織がある。「一元的に情報を集約する機能」を強めて「(内調を格上げした)国家情報局に集める」。
高市首相はスパイ防止法制定と国家情報局設置が持論で、2021年に出版した著書で、日本には米中央情報局(CIA)や英国MI6のような組織がないと指摘していたという。安倍政権時代に特定秘密の保護に関する法律や「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を成立させた政府は、水面下でCIAのような情報機関の設置を検討していたという。
本紙28日付社説が述べるように「新しい戦前」体制の完成にまた一歩近づいているのではなかろうか。
「国家情報局」とは、一般的に国家の安全保障や対外・対内の諜報活動を担う中央機関のことを指す。これは警察や防衛省とは異なり、より広範かつ秘密裏に情報を収集・分析・操作する役割を持つ政府機関である。主な活動は、テロ対策、サイバー攻撃への対応、外国勢力のスパイ活動の監視と活動範囲は広く、時に国民のプライバシーにも踏み込むことがあると推察される。
情報機関が設置されると政府は情報収集による統治を志向する傾向が強まるであろう。つまり、国民や外国の動きを事前に把握し、必要であれば未然に対処するという考え方から、国家はいつも、「何が起きそうか」に基づいて行動するようになると思われる。一見すると、国民を守るための仕組みに見えるが、国民を常に監視し、制御する体制とも言える。特に、国家情報局に強い権限が集中すれば、政府は情報の一極集中によって、民主的なプロセスを飛び越えて政策決定を行うようになる恐れがある。
また、このような政府では情報の公開が極端に制限され、「何が本当か」を市民が知ることは難しくなる可能性がある。つまり、真実情報も偽情報も政府が一元管理して国民を恣意的にコントロールできる方向に道を開くであろう。そして、報道の自由が制限されたり、都合の悪い情報が隠蔽されたりすることで、国民は正確な判断材料を得ることができなくなってしまう。要するに、「国家情報局」がある政府は、透明性よりも「機密性」、説明責任よりも「統制」、自由よりも「秩序」を優先する傾向が強まり、民主主義とは相容れない社会に向かう危険性がある。国家情報局の設置を認めないように声を上げよう。
宮城えみこ (当会発起人・独立言論フォーラム理事)