メルマガ376号

今回のメルマガは、内田雅俊さんからの寄稿です。現在南西諸島のみならず、日本全体の軍事強化が止まらない中、元自衛隊幹部から有事になれば何万人も戦死者が出るとして、靖國神社を国の追悼施設にするよう求める声がでています。この靖國神社に現在どのような動きが出ているのか、私たちがどう向き合っていくべきなのか、歴史的経緯をふまえ、そのヒントを本稿で示してくれています。ぜひお読みください。

台湾有事へ靖國復権画策 敗戦から80年

「最高の名誉に」
 「台湾有事」が喧伝され、南西諸島の軍事要塞化が急ピッチで進められている。そして自衛隊員の死者が出ることを前提として、靖國の再稼働が画策されている。靖國神社崇敬奉賛会総代を務める火箱芳文元陸上幕僚長は、2025年6月16日毎日新聞のインタビューで、「国を守るという同じ任務持つ旧軍と自衛隊は連続性がある」、「旧軍人は靖國に祀られる名誉があったが、今は何もない。自衛隊はただの便利屋ではない。有事になれば何万人も犠牲者が出る。国家の追悼施設として靖國に祀られることが最高の名誉になるのではないか」等々語っている。「台湾有事」により、自衛隊員に戦死者が出た場合、それは、事故死とは明確に異なるから、防衛省内にあるメモリアルゾーンでの追悼では不十分であるというのだ。
 将軍たちは去ったが、参謀は残った-、自衛隊の創設には旧軍の佐官級参謀クラス幹部の関与があったのは歴史的事実だが、日本国憲法下での自衛隊では旧軍との連続性を語ることはタブーであった。そのタブーが元幹部自衛官らによって公然と破られ、そして、現在もなお、近・現代に於ける日本の戦争を全て正しい戦争であったとする、世界に通用せず、又歴代の日本政府の公式見解にも反する「聖戦史観」(大東亜戦争史観・植民地解放史観)に拠って立つ靖國神社への合祀が公然と語られる。戦死が避けられず、兵士の再生産を不可欠とする軍隊には靖國という物語〈こんな立派な/おやしろに/神とまつられ/もったいなさよ〉(九段の母)を欠かすことが出来ないのであろう。対米従属と大東亜戦争史観を見事なまでに調和させる元幹部自衛官らの思考に驚く。

国家承認も提起
 沖縄・九州管轄とする陸上自衛隊西部方面元総監小川清史元陸将は、2023年10月1日の「安全保障を考える」(公益財団法人 安全保障懇話会)のシリーズの論考、「武力攻撃対応と国民保護 - 島嶼部を含むわが国に対する侵攻への対応」で以下のように述べる。「もし台湾が武力攻撃を受ければ、日本はどうするのか。日本は台湾をただちに「国」として扱い、公的な連携体制を構築すべきではないか」、しかし<(武力攻撃)事態対処法第2条4「存立危機事態はわが国と密接な関係にある「他国」に対する武力攻撃が発生」と国を対象にしている。また自衛隊法第84条の3在外邦人等の保護措置は「当該『外国』の領域を対象とし、当該外国との権限ある当局との間の連携及び協力を確保することとしている。わが国が台湾を「国家」と承認するか、しない場合は他国「等」と法律改正が必要である>と記す。
 続けて「日本は、台湾から最も近い国であり、台湾と日本の南西地域は武力攻撃を受ければ同一の戦域となる。日本が傍観者のままでいられることはありえない」と書いた上で、脚注において、台湾を中国の一部と認めた「日中共同声明」及び「日中平和条約」からの離脱を検討することも必要になるとまで説く。
1972年9月29日、前文で「戦争状態の終結と日中国交正常化という両国国民の願望の実現は、両国関係の歴史に新たな一頁を開くことになろう」、「両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致するところであり、また、アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである」と謳った日中共同声明は日中間の基礎をなすものであり、その後の日中平和友好条約、日中共同宣言、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明でも
繰り返し確認されている。戦争状態の終結を謳った日中共同声明が反故にされれば、再び戦争状態に戻ることを意味する。日中友好という大義のために、当時の中国指導部が民衆の不満を押し切って決断した戦争賠償請求の放棄も再考されることになる。日中共同声明からの離脱も検討せよという元陸将は、「離脱」が何を意味するか分
かっているのだろうか。
 抗日戦争の勝利(実際に最もよく戦ったのは国民党だが)と国共内戦の勝利を政権の正統性の根拠とする中国共産党にすれば台湾独立は絶対に認められないことであることも理解しておかなくてはならない。

中国の反発必至
 中国を「境外敵対勢力」と呼ぶなど、対決姿勢を強めている台湾の頼政権にも問題がないわけではない。台湾では政府が製作費を支援した「台湾有事」をテーマとしドラマが公開され、中国が批判している(2025年8月10日毎日新聞)。
 同3月22日付朝日新聞に拠れば、本年3月、岩崎茂元統合幕僚長が政策提言役として台湾行政院政務顧問に就任し、中国が「台湾問題は内政問題であり、干渉は許されない」と日本政府に抗議したという。自衛隊のトップを務めた者が、日中共同声明で「中華人民共和国領土の不可分の一部である」ことを認めた台湾の地に設けられている台湾行政院の政務顧問に就任することはあり得ないことであり、中国が反発するのは当然だ。
 6月10日、台北政経学院基金会、平和安全センター、中華戦略及び兵棋研究会等台湾の民間団体の共催による「台湾海峡防衛机上演習」が行われ、台湾側関係者の他に、ブレア元米太平洋軍司令官、マレン元米統合参謀本部議長らと共に、岩崎茂元統合幕僚長、武居智久元海上幕僚長らが出席したという(2025年6月13日、台湾メディア「風傳媒」)。
 中国に対する挑発以外の何物でもない。制服を脱いだからといって、何をしてもよいというわけではない。

先人たちの尽力
 敗戦後の日本は、専守防衛を国是とし、集団的自衛権は行使しない、自衛隊の海外派兵はしない、武器輸出はしない、敵基地攻撃能力は持たない、としてきた。2014年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定以降、「しない」が「する」に、「持たない」が「持つ」に変えられた。「台湾有事」の喧伝によってだ。このような背景には覇権主義的な中国の動きもある。両国の軍拡派は互いに
不信をぶつけ合う合うことによって軍拡を進めようようとする敵対的相互依存関係にある。
 日中関係は日中共同声明をはじめとする4つの基本文書を「平和資源」として活用すべきだ。周恩来総理は、日中国交正常化を果たし、帰国する田中首相に、「言必信行必果」(約束したことは守らなければならない。行ったことは結果を出さなくてはならない)という言葉を贈った。田中首相は、即座に、「信は万事の」と返した。「飲水思源」、日中国交正常化に賭けた先人たちの尽力に思いをはせよう。

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