メルマガ349号

今回のメルマガは、小西誠さんからの寄稿です。ミサイル基地化、攻撃基地化、戦争態勢の現状、自衛隊内部の問題についてくまなく取り上げ、その重大性について論究した内容です。私たちが戦争を止めるための力をつける上でも重要な情報が満載されています。ぜひお読み下さい。※本稿は小西さんのご承諾を得て、「日本の進路」(2024年8月初出)-「要塞化された琉球弧の島々」に投稿されたものです。

「台湾海峡有事」下南西シフトの現在(上)

新島で長期射程地対艦ミサイル試射

深刻な不祥事多発に陥った自衛隊
日本を覆い尽くすような歴史的大軍拡が急速に始まっている今日、自衛隊の深刻な不祥事が次々に噴出し始めた。これは必然的な「戦争の宿痾」か!
海自・潜水艦隊で起きた川崎重工との金銭癒着は、三菱重工にまで広がりつつある。「特定秘密」不正取扱いは、海自から空自や統幕、内局に拡大。さらに海自隊員の潜水手当の数千万円の不正受給、防衛省内局のパワハラ等も多数が明るみになった。

24年7月12日、防衛省は、海幕長ら218人の処分を行った。だがこの処分は起った事態の一部に過ぎない。最大の問題は、海自・潜水艦隊員多数の十数億円という収賄事件だ(特別監察中)。
この不祥事の原因は明らかだ。22年安保関連3文書策定による防衛費の2倍化という天井知らずの拡大、それに伴う防衛利権をもつ軍需企業の一挙拡大である。日本の戦争態勢が急ピッチで進行する中、必然的に腐敗が生じつつあるのだ。
進行しつつある戦争態勢は、どのようなものか。これは軍拡一般ではない。明らかに、対中国戦争態勢作りであり、そのための琉球列島(第1列島線)のミサイル基地化、攻撃基地化だ。これがここ数年、メディアの報道規制下に本格化しつつある(表紙は24/10、新島での長射程地対艦ミサイル試射)。

要塞化された琉球列島の島々
16年3月基地開設の与那国島は、陸自沿岸監視隊に加え、電子戦隊(23年末約70人)、空自移動警戒隊(22年末約20人)が配備、これに加え陸自地対空ミサイル部隊配備が決定(400人以上へ増強)、与那国空港の拡張も予定されている。また、琉球列島最大級の湿地帯・樽舞湿原には、約1・2キロにも及ぶ軍港建設を発表。この急激に進む島の軍事化に、従来自衛隊配備に賛成してきた住民多数からも反対の声が噴出し始めた。

与那国島での新軍港計画

23年3月開設の地対艦・空ミサイル部隊を軸とする石垣駐屯地では、駐屯地の相当部分が未建設にも拘わらず、駐屯地西の民間用地に米軍との共同演習場を建設する計画が発表。この間、米海兵隊と陸自の共同演習「レゾリュート・ドラゴン」などでも、石垣島は米軍との共同演習の拠点化し始めた。安保関連3文書では、沖縄島の陸自師団昇格、司令部の地下化とともに、石垣駐屯地司令部の地下化が決定、石垣島の南西シフト下の日米軍事拠点化が明確になりつつある。

119年3月開設の宮古島駐屯地では、翌年地対艦・空ミサイル部隊が配備、21年には保良地区にミサイル弾薬庫を増設。また新たに電子戦部隊配備が決定。宮古島と伊良部大橋で繋がる下地島空港は、3千メートル滑走路を有する空港として「特定重要拠点空港」指定が発表されている。

宮古島・保良地区で建設中の3棟目のミサイル弾薬庫

24年3月開設の沖縄島・陸自勝連分屯地には、地対艦ミサイル中隊が配備、琉球列島全体の地対艦ミサイル部隊を指揮する第7ミサイル連隊が新編された。

うるま市での第7地対艦ミサイル連隊新編式

そして、宮古島と同年開設の奄美大島では、北部大熊地区に地対空ミサイル部隊、南部瀬戸内町に地対艦ミサイル部隊等が配備され、さらに陸自電子戦部隊、空自通信基地、移動警戒隊配備も決定。

奄美大島・大熊地区に建設された陸自・地対空ミサイル部隊・警備隊の基地

また、奄美大島北の馬毛島(種子島)は、自衛隊の航空・海上拠点として、23年1月に着工、4年後の完成を目指し、急ピッチで大工事を行われている。馬毛島は、メディアでは米軍のFCLP基地(空母離着陸)として意図的に誤った宣伝がなされているが、主には南西シフトの自衛隊の訓練・機動展開拠点―全自衛隊初の統合基地として建設が進められている。

馬毛島に造成中の自衛隊統合基地

九州・西日本へ広がる軍事化の波
琉球列島のミサイル基地を始め、増強される沖縄島の師団を指揮するのは、陸自西部方面隊だ。従来、九州の部隊は、南西シフトの前線作戦司令部とされてきた。
だが、ここにきて陸自は、九州に長射程ミサイル部隊配備を決定。24年3月、大分・湯布院駐屯地に第8地対艦ミサイル連隊の新編発表(24年度内)。同時に湯布院に第2特科団を急遽、新編した。第2特科団は、文字通り琉球列島―九州の地対艦ミサイル部隊全てを統括し、一元的に指揮する部隊だ。

大分湯布院に配備された第8地対艦ミサイル連隊(長射程ミサイルが25年度内に配備)

唯一、北海道配備の特科団を九州に新編したのは、地対艦ミサイルの長射程化に伴う、作戦の大変化である。つまり、地対艦ミサイルの1千キロ以上の長射程化、さらには数千キロ射程の極超音速ミサイル等の配備態勢づくりだ。湯布院から上海まで約900キロ、台湾まで約1300キロで、極超音速ミサイル等の九州配備によって、まさに九州も対中国戦争の攻撃基地になりつつある。

九州の攻撃基地化に伴い、他方で九州全体の軍事化・兵站化が一挙に進み始めた。安保3文書で決定した弾薬大量備蓄だ。23年11月、陸自大分分屯地では、2棟の大型弾薬庫建設が着工。そして12月、住民説明会を完全に無視し、さらに7棟の追加増設が決定。防衛省は、全国130棟の弾薬庫増設を発表したが、大型弾薬庫増設は、湯布院に配備する第8ミサイル連隊、第2特科団新編と一体化したものだ。

九州では、この他日米共同基地として空自築城基地、同新田原基地の滑走路延長、米軍弾薬庫の増設が進んでいる。新田原基地は、新たにF-35B基地として同機の40機配備が予定され、九州の攻撃基地化が急速に進行している。

さらに九州では昨年から、水陸機動団のオスプレイ基地として佐賀空港での新設工事が始まり、水陸機動団の1個連隊増強(3個連隊に)が始まっている。
 加えて九州では、大分・鹿児島・宮崎空港、博多港・熊本港・高知港・高松港など港湾などの軍民共用が計画されているが、これも南西シフトの一環としての軍事化である。(つづく)

小西誠(軍事ジャーナリスト) 

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