今回のメルマガは2月22日の「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」結成集会へむけての高井弘之さんの続編です。今私たちがとらわれている国際秩序、先入観からいかに脱却し、新たな平和共存の道を探るのかについて言及していただきました。お読みいただき、2月22日の集会にご参加ください。リモート参加については本稿の最後にQRコードを案内しておりますのでごらんください。※前回の配信からQRコードが読み取れないなどの問い合わせをいただきました。パソコンでご参加の方は以下のhttpで始まる以下のリンクをクリックしていただくと参加できます。スマホでご参加の方は本稿の後に案内していますチラシのQRコードを読み取ってください。
日米の「対中国戦争態勢」とは何か
―東アジアでの戦争を止め、平和と共生の東アジアを!―
(前回からの続き)
第二章 「戦争態勢構築」は、誰のための何のためのものか
では、なぜ、「対中国戦争態勢」がつくられているのだろうか。それは誰のための何のためのものだろうか。まずはアメリカの「対中姿勢・戦略」の転換を見ていきたい。
アメリカの対中姿勢の転換
1949年の中華人民共和国成立以降、その存在に対する封じ込め政策をとっていたアメリカは、それを転換させつつ、79年に到って国交正常化を行う。それ以降、対立側面を孕みつつも、アメリカを中心とする世界秩序に中国を包摂していくという、(そういう意味においては、)いわば「共存政策」をとっていた(「関与政策」と呼ばれる)。
しかし、中国の経済・科学・軍事の予想を超えた発展―台頭を前に、2010年代に入って、中国との対決路線へと徐々に舵を切り始めたアメリカは、10年代半ばころからそれを加速させ、以降、さらに強化して現在に至っている。台頭する中国に追いつかれ、世界における自らの支配的地位を奪われるのではないかとの不安感・危機意識が高まったアメリカ政府・支配層は、中国を押さえつけるための軍事的・経済的・外交的包囲網―「封じ込め」体制の構築に走っている。
2017年に発表した『国家安全保障戦略報告』において、アメリカ政府は中国とロシアを名指しで批判し、第一の「戦略競争―敵視」対象とした。
その後の『インド太平洋戦略報告』(2019年6月発表)では、やはり、中国を激しく批判し、戦闘力の高い戦力をインド太平洋地域に配備し、(敵に対する)決定的な攻撃力をもつ態勢整備に向けて投資していくとしている。そして、そのビジョン達成のために、アメリカと同盟国による「統合軍」の編成や台湾の軍事力強化などを行っていくとした。
「世界一極支配体制」維持への米の欲望―世界への「専制」―
上の2017年の『報告』では、「中国は、インド・太平洋地域で米国にとって代わろうとしており、・・・地域を自分の好みに合うよう再秩序化している」とし、「ロシアは、大国の立場を回復させ、ロシアの国境の近くで影響を及ぼすことができる領域を確立しようとしている」と記している。そして、「支配力を得るためには、米国の軍事的強さは、これまでも、これからも不可欠な要素である/米国は、勝ち続けなければならない」とした。
つまり、米国は、世界レベルの覇権の維持のみでなく、「インド・太平洋地域」「ロシアの国境の近くの領域」などの各地域においても、自らの影響力を凌駕する国が登場することを許せず、それを阻止する強固な意志と欲望を持っていることを、この『報告』は示している。
ちなみに、米国のこのような姿勢は、すでに、冷戦終結後の1990年代初めから示されていた。1992年に作成された国防総省の文書には、次のように記されていたのである。
ソ連崩壊後の国際社会において、アメリカに対抗できる能力をもつ大国が出現することを許さない。西欧、東欧、中近東、旧ソ連圏、東アジア、南西アジアの諸地域において、アメリカ以外の国がこれらの地域の覇権を握る事態を阻止する。(アメリカ国防総省戦略文書『1994年~1999年のための国防プラン・ガイダンス』/1992年2月28日)
「戦後の国際秩序」とは何か
続いて、「日米―西側」が対中包囲網を構築しようとする理由・動機を、岸田首相(当時)の米議会での演説内容から考えてみたい。彼は今年(2024年)4月の訪米時、米議会で演説し、次のように語った。
米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくりました。・・・米国
が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています。
ここにいう「国際秩序」とはどのような秩序だろうか。実は、本・教科書などで第二次世界大戦終了までの世界を描くとき当たり前のように使われていた、欧米日諸国に対する帝国主義とか列強という呼び名は、大戦終了後の世界を描くときにはまず使われない。では、それまでの帝国主義国は、突然、帝国主義国ではなくなり、それら帝国主義列強がつくり出していた世界の支配―被支配構造は、突然、消滅したのだろうか。そうではない。戦後から60年代にかけ、植民地支配されていた国々の独立が続いたが、その後も、多くの国が、経済的・政治的・軍事的に欧米列強に従属せざるを得ないような状況が継続した。
ただ、帝国主義列強は「先進国」と呼ばれるようになり、侵略・植民地支配されていた国々は、「後進国」とか「発展途上国」と呼ばれた。そして、その両者の間の支配―収奪関係がもたらす格差問題などは「南北問題」と呼ばれたのである。岸田が言う、米国が形づくった「戦後の国際秩序」とは、このような、「西側中心国―帝国主義国による世界支配秩序」のことだ。
「国際秩序への新たな挑戦」とは何か
では、その「国際秩序」が「新たな挑戦に直面している」状況とは何を指しているのだろうか。あるいは、どのような国ぐにが、米国が維持して来た「国際秩序に挑戦」していると岸田は考えているのだろうか。この時、岸田は、全体としてのグローバルサウスと、個別に、中国・朝鮮などの名を挙げた。つまり、米日らが優位に立つ国際秩序に「挑戦」していると彼が見なしている国は、かつて、日欧米が侵略・植民地支配した国々である。侵略・植民地支配によって徹底的に収奪され、多くの人々が殺戮されたけれども、その中から這い上がり、いま、経済発展を遂げ、国際社会での存在感や発言力が増している国々だ。
世界史の大転換期としての現在
岸田は、このような現在の状況を「歴史の転換点」とし、「人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいる」とまで語った。たしかに、いま世界は「近代500年の歴史」の大転換期にある。この500年間の世界は、西欧によるその外部への侵略―支配によって形成されて来たものだ。特に1800年代半ばから1900年代にかけて世界各地を侵略し植民地支配を行った英仏独伊露米日などの国々は帝国主義列強と呼ばれた。これら諸国による世界支配の構造は、その覇者をイギリスからアメリカに交代させながら第二次世界大戦後も基本的に変わらなかった。
しかし現在、この構造がその根本から大きく転換している。第二次世界大戦後も世界経済を支配して来た帝国主義諸国―「先進国」はその経済的地位を大きく落とし、中国・インド・インドネシア・ブラジルなどに追い抜かれつつある。
日米欧など西側諸国の利益と支配のための「国際秩序」を批判し、公正・平等・平和な国際秩序を求めるグローバルサウスの国々がとても増えて来ている。米国を筆頭とする「西側中心国」の支持・支援のもと行われているイスラエルによるガザへの攻撃・虐殺を止めるために精力的に動いているのも、中国を含むグローバルサウスの国々である。
「西側中心秩序」の維持を追求する米日欧
西側「先進国」はいまなお帝国主義国であって、そこから脱した位置・姿勢に在るわけではない。「人道・人権・民主」などの美名を掲げながら今世紀に行われたアフガニスタン・イラク・リビアに対する戦争は、実際は、自らが優位に立つ「秩序」に従わない国・政権を潰すためのものだった。それは、一方的な先制攻撃や大量殺戮など国際法や人権に明白に反するもので、そこには、彼らが言う「法の支配」も「リベラルな国際秩序」への姿勢も全く存在していなかった。
岸田ら西側首脳が発する中国などを指しての、「国際秩序に挑戦している」「一方的な現状変更は許さない」という言葉の意味も、自分たち西側が中心であるこれまでの国際秩序に挑戦し、その「現状」を変更することは許さない、ということだ。世界を自らの利益と欲望に合わせて秩序化して来た帝国主義諸国は、その「秩序」を維持するためにいま必死なのである。
日本の「世界への軍事力行使宣言」
以上のような歴史的大転換期の現在、つまり、岸田の言う「米国が築いてきた国際秩序が新たな挑戦に直面している」いま、日本が何をしようとしているかを、彼は次のように語り、宣言した。
「自由と民主主義」という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできています。/日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています/日本は長い年月をかけて変わってきました。/日本は国家安全保障戦略を改定しました/2022年、日本は27年度までに防衛予算を国内総生産(GDP)の2%に達するよう相当な増額を行い、反撃能力を保有し、サイバーセキュリティーを向上させることを発表しました。/日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです。日米関係がこれほど緊密で、ビジョンとアプローチがこれほど一致したことはかつてありません。
つまり、西側中心の「秩序」の維持が困難になっているいま、日本は軍事力を出して、米国と共にその「秩序」維持の「任務に従事」するというのである。これは、世界への軍事力行使宣言と言える。
現在、着々と進められている日米欧による「中国包囲網の構築」は、以上のような人類史の大転換期において、台頭する中国を弱体化して、自らの没落を防ぎ、自らが優位に立つ「国際秩序」を維持して、世界を支配し続けようとする「西側・帝国主義諸国の目的・欲望」のために行われているものである。
このような、「民主」や「人権」などとは全く関係がない、傲慢で薄汚れた「私利」「私欲」のために、いま、東アジアに生きる私たち市民・民衆の命が、平和が、蹂躙されようとしている。
第三章 東アジアでの戦争を止めるために ―〈平和と共生の東アジア〉に向けて―
中国脅威論によって推進される大軍拡
政府は、「中国への攻撃・戦争態勢」の構築を、南西諸島防衛や中国への抑止力を名目として進め、それを多くの国民が支持しているようだ。支持の理由は、中国が攻撃して来ると思っているからだろう。つまり、現在の大軍拡―戦争準備は、「中国脅威論」を理由・前提として推進されている。
中国に「脅威」を与える日米NATO
しかし、相手に「脅威」を与える軍事演習は、中国軍が米国の近くで行っているのではなく、日米NATOが中国のすぐ近くで行っている。米中対立が言われるが、その軍事対峙線も、太平洋の真ん中ではなく、中国のすぐ近くである。たしかに、いま中国は大きな軍事力を持っているが、米国のようにそれを実際に使って、他国の富や資源を収奪したり、自らに従わない国を攻撃したりしているわけではない。多分にアメリカに対する防衛的なものである。
武力行使に反対し続ける中国
また、日米の政府やメディアによって、中国は好戦的・攻撃的であるかのようなイメージが作り出されているが、上述のイラク・リビア・パレスチナはじめ、米・西側が引き起こした「戦争」のたびに、中国は一貫して、武力行使に反対し、平和的解決を主張している。
対立状況になっている米国に対しても、中国政府は「相互尊重・平和共存・協力とウィンウィンの関係」の三原則を堅持することを呼びかけ続け、「この地球は中米両国を受け入れることができる。それぞれの成功は互いのチャンスだ。」(米中首脳会談における習近平主席の言葉/2023年11月16日)とまで話しかけている。
一党統治の安定の前提となる国内のさらなる経済発展のためにも「平和な国際環境」が必要だというのが、「改革・開放」後の中国統治層の一貫した認識―「現実的」姿勢である。
そして、実際、いま中国軍が日本を攻撃する態勢に在るわけでなく、その素振りさえ見せていないというのが、現在の現実である。
主観的「中国脅威論」に対する客観的・冷静な視座を!
中国は、日本が行ったような、多くのアジアの人びとの殺戮の上に立って、いま、アジアの大国となっているのではない。また、かつての大国日本のように、東アジアの地域・国々を武力によって、その占領支配下に置いているのでもない。
私たちは歴史と現実を冷静に客観的に見つめることによって、主観的・独善的「中国脅威論」を克服・解体して、「中国への戦争態勢」推進を阻止し、〈平和と共生の東アジア〉をこそ構築しなければならない。
「欧米と共にアジアを侵略する日本」からの大転換を!
近代日本国家は150年前の成立以来、独自に、あるいは欧米列強と共に、東アジアを軍事的・経済的に侵略して、膨大な数の人びとを殺戮―支配し、その平和を奪って来た。欧米と共に東アジアの国ぐに・人びとに対してそのようにしたのは、東アジアで日本だけである。
現在進行している対中戦争態勢の構築は、欧米と共に同じアジアの国々を侵略するという近代日本国家が歩んで来た軌道の上にあるものだ。したがって、いまこそ私たちは近代日本150年の歴史を総括し、日本国家のアジアへの姿勢を転換させなければならない。
中国包囲網から脱して、東アジアの平和の実現を!
ところで、地図を見れば一目瞭然であるように、中国に対する軍事封鎖態勢の構築と戦争は、琉球弧と日本列島を使わなければ為し得ない。米国は、はるか遠くからの遠征軍だけで中国に勝利できるという展望を持っていない。70数年前の朝鮮戦争も、そして、朝鮮よりはるかに遠いベトナムへの侵略戦争さえ、日本を大規模な出撃拠点・後方拠点として、米国は、初めて為し得たものである。
つまり、日本が「中国への戦争態勢」から抜ければ、アメリカは中国と戦争ができない、しない。したがって、日本政府をさえそのように変えれば、東アジアでの戦争を防ぐことができる。
日本を「中国包囲網」から抜けさせ、今度こそ、東アジアでの戦争を阻止し平和を実現する側の国へと変えなければならない。そうして、国家による戦争を、私たち市民・民衆の力で必ず止め、ここ東アジアの平和を実現したい。
※私が所属する「ノーモア沖縄戦 えひめの会」では、中国脅威論を克服して戦争を止めるために、『本当に「中国は攻撃して来る」のだろうか――「中国脅威論」を理由に進む日米の戦争態勢――』と題するリーフレットを発行し、【戦争をさせない! 中国への戦争準備をストップ! リーフレット100万部配布プロジェクト】を行っています。ぜひ、連帯・ご協力ください。
高井弘之(「ノーモア沖縄戦・えひめの会」運営委員)


