今回のメルマガは2月22日の「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」結成集会へむけて、高井弘之さんから寄せていただきました。今私たちが直面している課題、考えなくてはいけないポイントをを整理いただきました。ぜひお読みいただき、2月22日の集会にご参加ください。リモート参加については本稿の最後にQRコードを案内しておりますのでごらんください。
※本稿は高井さんのご承諾を得て『わだつみのこえ』No.161(2024・12・23/日本戦没学生記念会・編集発行、アテネ出版社)から転載したものです。
日米の「対中国戦争態勢」とは何か
―東アジアでの戦争を止め、平和と共生の東アジアを!―
第一章 日米による「中国への戦争態勢」―敷設される「戦争への導火線」―
琉球弧の「中国攻撃拠点化」
琉球弧では数年前から、奄美・宮古・石垣・沖縄に中国軍を攻撃するための日本軍(自衛隊)ミサイル基地が造られ、ミサイル部隊と弾薬が配備されて来た。
また、米日にNATO主要国を加えた合同軍事演習が中国の近くで、中国に圧力を加える形で、頻繁に行われている。これらの国々は、1840年代から1940年代の100年の間に中国への侵略を行って来た帝国主義列強と呼ばれた諸国である。
「対中国」日米共同戦争計画
そして、中国軍を攻撃する「日米共同作戦計画」が両国間で策定・承認され、それに基づく実際の戦闘訓練も行われている。この「戦争作戦」は、琉球弧の約40の島々に臨時攻撃拠点を築き、そこから、ロケット砲やミサイルなどで中国艦船を攻撃して中国艦隊を無力化し、中国沿海地域での軍事行動の「自由」を獲得しようとする企てである。
この「作戦」遂行時、日米軍は、拠点とした島からの攻撃後、素早く別の島へと移って同じことを繰り返す。島々から中国軍を攻撃すれば、当然、それらの島々は中国軍から反撃される。米日の軍隊はその反撃を避けるために、別の島へと移動する。しかしそこには、ずっとそこで暮らしている住民が残される。つまり、この『計画』は、奄美・沖縄の人々の命の犠牲を「当然の前提」として作られた、住民の命を全く無視した冷酷なものである。
九州・西日本へと拡大される戦争態勢の構築
数年前から沖縄・奄美を中心に構築されて来た戦争態勢の構築は、いま、九州を中心に西日本に拡大している。大分市の陸上自衛隊分屯地には長射程ミサイル用の大型弾薬庫が9棟も建設される予定で、すでに工事が始められている。そして、そこからすぐ近くの湯布院・陸自駐屯地には、新たに対艦ミサイル連隊が配備される予定だ(2024年度末まで)。さらに、宮崎県・えびの市の陸自駐屯地や鹿児島県の鹿屋航空基地及びさつま町にも弾薬庫の建設が計画されている。そして、熊本の陸自・健軍駐屯地にはすでに対艦ミサイル連隊が配備されている。
宮崎の新田原空自基地には、空母に搭載でき、また離島などの小さな滑走路でも使用可能な、F-35B戦闘機(短距離離陸・垂直着陸)が配備される予定(2024年度)で、基地の大規模な拡張計画もある。また、民間空港の佐賀空港にはオスプレイを配備予定だ(2025年)。そのため、格納庫や弾薬庫を備えた陸自駐屯地を空港西側の土地に建設予定で、すでに工事が進められている。
そして、海自呉基地には、沖縄・宮古・八重山の島々に部隊や軍事物資を輸送するための共同の部隊(「自衛隊海上輸送群」)が輸送用船舶を伴って編成される予定であり(2025年3月/陸自が主体)、呉基地の隣接地に兵器の整備・生産機能も持つ大規模な総合的軍事拠点を建設する計画も浮上している。また、京都の祝園にも広大なスペースの大規模弾薬庫の建設計画が進行している。
民間空港・港湾・船舶・公道の軍事利用
自衛隊統合演習や日米共同軍事演習では、各地の民間空港・港湾のほか、私たちが日常生活で使っている一般道路やさまざまな公共施設も使われ、部隊の輸送に民間船舶も使用されるようになっている。自衛隊が各地の空港・港湾を平時から軍事利用できるようにするための施設整備も開始された。地方空港・港湾の軍事拠点化である。いまこの列島は、まさに「対中戦争マシーン」にされようとしているのである。
自衛隊司令部の地下化
政府・防衛省は、自衛隊司令部の「地下化」も進めている。23年度には、陸自・那覇駐屯地、空自・築城基地(福岡県)など沖縄・九州6か所の施設、24年度には新たに全国5か所の施設の「地下化」が予算化された。
政府は、日本への武力攻撃を抑止するため、つまり、戦争を起こさせないための軍備だなどとして軍拡を進めて来た。しかし実際は、中国と戦争になる――戦争することを想定し、そのとき、自らの軍事施設・司令部のみを「地下化」によって守る準備を始めている。地上にいる住民の犠牲は眼中になく、地下司令部に居る自衛隊幹部、つまり自らの生存は保障しようとしているのである。
かつての沖縄戦で、日本軍司令部や天皇・政府中枢が生存するための地下壕「松代大本営」完成の目途が立つまで、国家・軍中枢に「時間稼ぎ」(降伏を認めない)をさせられ、多くの沖縄の人々が犠牲を強いられた。その冷酷な「日本国家の姿勢」は、いまなお、健在のようである。
「中国の防衛ライン」を突破しようとする米日の軍事戦略
「米中対立」と言われるが、その軍事対峙線は、米国の近くでも、太平洋の真ん中でもなく、それは、中国のすぐそばの、第1列島線と呼ばれる「中国の防衛ライン」とされているところである(下の地図参照)。この「防衛ライン」を「打ち崩す」能力をつけようと米陸軍が大変革を行っていることを今年(2024年)の始めにNHKが報じた。
中国の戦略は、米軍がこの「防衛ライン=第1列島線」に接近することを拒否し(「接近拒否」)、その「ライン」と中国大陸の間の領域に入って来ることを拒否する(「領域拒否」)ものだと見なす米軍は、いま、それを突き崩すための「陸軍大変革」を行っている。
その「変革」の柱である「MDTF」(多領域作戦部隊)を率いるマイケル・ローズ大佐は、「アメリカ陸軍は、ここ数十年で最大の変革に着手し、われわれはその一翼を担っている。『接近阻止・領域拒否』戦略に対抗するように設計されているのだ」「組織改編を進め練度を高めることで、中国の『接近阻止・領域拒否』を打ち崩すことができると強調」している(NHK国際ニュースナビ「世界最強・米軍が急ぐ陸軍変革 中国人民解放軍の戦略 A2AD=接近阻止/領域拒否にアメリカはどう対抗しているのか」/2024年1月30日)。
つまりアメリカは、中国の「防衛ライン」たる第一列島線を突破して、中国沿海部での軍事行動の自由を獲得して中国を海上から封鎖できる能力を獲得しようとしているのである。「第一列島線」上に連なる奄美・沖縄の自衛隊ミサイル基地群も、「日米共同作戦計画」も、頻繁に行われる日米共同軍事演習も、このような極めて攻勢的な対中軍事戦略の中にある。(つづく)
高井弘之(「ノーモア沖縄戦・えひめの会」運営委員)