ブックレット『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』の発刊後、多くの皆さまからご注文をいただき、増刷が決定しました。注文のご連絡をいただきましたが、在庫の確保が間に合わず、少しお時間をいただくことになります。申し訳ございません。
二度と沖縄戦を繰り返さず、島々を戦場にしないため、そして日本全体を戦場にしないために、このブックレットをお読みいただき、広げていだたくことをお勧めいたします。詳しくはこちらをクリックしてください。(https://nomore-okinawasen.org/3226/)
今回のメルマガは当会オブザーバーの小西誠さんの寄稿です。小西さんには11月12日のノーモア沖縄戦の基調講演をお願いしております。小西さんの緻密な取材と分析で、今自衛隊がどのような形で動くのかを明らかにしていただいています。私達が普段得られることがない情報を通じて、戻ることができないくらいの軍事強化が進んでいることを詳らかにしています、ぜひご覧ください。
⑦自衛隊の南西シフトの作戦プラン、部隊編成の実態
●自衛隊の南西シフトの運用
ところで、A2/AD戦略下の、第1列島線に配備する自衛隊の南西シフト態勢、特に地対艦・地対空ミサイル部隊の戦略・運用とは、どのようなものなのか。この自衛隊の南西シフトの作戦・運用全容について、少し説明しよう。
自衛隊の南西シフト態勢は、端的に言うと、琉球列島の一連の島々に沿って、対艦・対空ミサイル網を張り巡らし、琉球列島のいくつかの海峡、とりわけ、宮古海峡などのチョーク・ポイント(海上水路の要衝)を封鎖・制圧する作戦であり、軍事的には、通峡阻止作戦(海峡通過の阻止・封鎖)である。これはまた、自衛隊版によるA2/AD戦略であり、現在までは「拒否的抑止」とも言われていた。
もちろん、このためには、後述する米軍の「海洋プレッシャー戦略」と同様に、海空の制海・制空権(海上・航空優勢)を確保し、この対艦・対空ミサイル網と海上戦闘――水上戦・潜水艦戦・機雷戦および航空戦闘によって「地域的制海・制空権」を確保する、ということを制服組は主張している。
ここにおいては、琉球列島に張り巡らされた地対艦・地対空ミサイル部隊による「地域的制海・制空権」の確保が、従来の戦略と大きく異なることである。
防衛白書は、「島嶼戦争」のイメージ図を公開しているが、陸海空の総合・統合戦力、特に対水上戦、対潜戦が強調され、「島嶼防衛」戦が策定されていることが分かる。
さて、このような琉球列島にそった防御網を根幹にして、自衛隊の「三段階作戦」が行われる。三段階作戦とは、述べてきた琉球列島の島々への「事前配備」を基幹にして、「機動運用部隊の緊急かつ急速な機動展開」、「水陸機動団による奪回」の三段階である。
この作戦構想は、既述の改定陸自教範『野外令』によって、初めて策定されたものであり、同時に「奪回」のための「着上陸作戦」=上陸作戦も策定されている(従来の北方シフトでは「着上陸対処」「対着上陸作戦」のみ)。
●南西シフトの三段階作戦
これを自衛隊の「統合機動防衛力」構想から見ると、琉球列島への「先遣部隊」(=事前配備部隊)の「即応展開」→「即応機動連隊」の琉球列島への「1次展開」→「機動師団・旅団」の、琉球列島への「2次展開」→「増援部隊」の、琉球列島への「3次展開」という構想になる。
この「2次展開」の「機動師団・旅団」については、すでに3個機動師団、1個機甲師団、4個機動旅団の即応部隊の指定が行われており、順次編成が行われつつある。
具体的には、陸自は、九州・熊本の第8師団、山形県の第6師団、北海道の第2師団を「機動師団」に(第7師団を「機動機甲師団」)指定し、善通寺の第14旅団を筆頭に、群馬の第12旅団、北海道の第5旅団、同第11旅団を「機動旅団」に指定している。
これら機動師団・機動旅団隷下で、すでに第15即応機動連隊(善通寺)が編成され、第42(西部方面隊)、第10(北部方面隊)、第22(東北方面隊)の「即応機動連隊」が、2019年度までに順次編成された。また、2022年度には第3即応機動連隊(北部方面隊)、同年には第6即応機動連隊(北部方面隊)が順次編成される予定だ。
特徴的なのは、即応機動連隊には、最新式の16式機動戦闘車(105ミリ砲搭載の装輪装甲車)25両が配備される(隊本部・第1機動戦闘車中隊・第2機動戦闘車中隊他)。これらが、従来の普通科連隊とは、大きく異なる。これは重装備部隊であり、旅団なみの戦闘力を持つ部隊編成であるということだ(普通科連隊に「戦車」が配備!)。
16式機動戦闘車は、従来の戦車と異なりキャタピラ走行ではなく、車輪を装備した車両で時速100キロの路面走行が可能であり、「島嶼戦争」での島々での戦闘のために開発された車両である。
●南西シフト態勢下の統合機動防衛力
南西シフトを正式に策定した2010年の「防衛計画の大綱」のキーワードは「動的防衛力」の構築だ。だが、この大綱改定からわずか3年しかたたない2013年、またまた防衛省・自衛隊は、大綱の改定を行うことになった。本来、「防衛計画の大綱」は、10年先を見通した防衛力構想であり、計画だ。何と驚くべきズサンな、無計画だが、この理由が自衛隊の南西シフト態勢の、本格的編成にあったことは明らかだ。
つまり、米軍のエアーシー・バトルに併せ、それと一体化した日米の対中戦略の実動態勢づくりである。
そして、2013年新大綱のキーワードは、「統合機動防衛力」であり、陸海空自衛隊の「統合運用」である。つまり、前大綱の「動的防衛力」に替わり打ち出された構想だ。
この違いを自衛隊は、動的防衛力は「運用を重視した防衛力」だが、統合機動防衛力は、「統合運用の考え方をより徹底」し、「海上優勢・航空優勢の確保や機動展開能力」を重点的に整備するとしている(この「機動展開能力」の中で、後述する「薩南諸島機動展開拠点化」が位置づけられた!)。
これを具体的には、「即応性・持続性・強靱性」などを重視しつつ、「多様な活動状況に臨機に即応し、機動的に行い得る実効的防衛力を構築する」という。ここでは、非常に抽象的に説明しているが、要するに南西シフト態勢下に即応する軍事力を、陸海空の統合的に整備・運用する、その中では特に重点的に強化されているのが南西諸島への「機動展開能力」ということだ。
●10万人を動員した機動展開演習「陸演」
この2013年新大綱による「統合機動防衛力」の策定以来、この機動展開訓練は、度々行われているが、2021年9月から約1カ月半に及ぶ、「陸上自衛隊演習」(陸演)は、陸自においては30年ぶりという「機動展開演習」を中心とする演習だ。しかも、この大演習では、当初陸自14万人、つまり、陸自の全ての兵力・人員を動員する演習として報じられた(実際は10万人の動員)。
陸幕発表によれば、「陸演」は、以下のように行われた。
① 陸自の全部隊を対象として、実動演習を軸に大規模演習。
② 作戦の準備段階に焦点を当てて5つの訓練を実施し、運用の実効性向上と抑止力・対処力を強化する。
③ 海自・空自および米軍の輸送支援を受け、民間の各種輸送力を活用、全国規模での機動展開や補給品等の輸送を実施する。
その演習部隊の編成は、陸幕長を統裁官にして、「陸上総隊、各方面隊、各防衛大臣直轄部隊及び機関、支援部隊」であり、「海上自衛隊、航空自衛隊、在日米陸軍」を含むとされている。また、訓練内容は5つの訓練、「①出動準備訓練、②機動展開等訓練、③出動整備訓練、④兵站・衛生訓練、⑤システム通信訓練」であるとしている。
まさしく、この5つの重点的訓練が今回の「陸演」の最大の目的であるが、これをもう少し具体的に見ると、よりこれらの訓練内容が分かる。
① 駐屯地・分屯地ごとに防衛出動のための準備を行う「出動準備訓練」
② 各種輸送手段を活用し、3個師・旅団を同時期に機動展開させる「機動展開等訓練」
③ 予備自衛官を招集し部隊を編成する「出動整備訓練」
④ 補給品の輸送や、患者の後送を行う「兵站・衛生訓練」
⑤ 並びに、作戦地域一帯のシステム通信を拡充する「システム通信訓練」
つまり、この「陸演」の内容の核心は、「南西有事事態」を想定した、陸自全部隊・全国各部隊(予備自衛官を含む)の「出動準備訓練」であり、「機動展開訓練」である、ということだ。特に、「機動展開訓練」については、北部方面隊などの3個師団・旅団の人員約1万2千名、車両約3900両を、同時期に九州の演習場に機動展開するという大規模なものであった(南西有事の戦争準備)。
この陸演に続き、2021年11月中旬から下旬にかけて「自衛隊統合演習」が行われた。これは、沖縄・先島―琉球列島の島々を初めて使用する大演習であった。演習規模は、自衛隊約3万人(車両1900両+艦艇10隻+航空機140機)、そして、米軍約5800人も初めて参加する統合演習である。
ここでは、①水陸両用作戦、②統合対艦攻撃訓練、③統合後方補給訓練、④基地警備、⑤統合電子戦などの項目が演練されたが、統合対艦攻撃訓練では、宮古島の地対艦ミサイル部隊が主力を担い、統合後方補給訓練では、初めて沖縄島、与那国島・石垣島・宮古島での市街地演習=生地訓練が行われた。特に、那覇・中城港では、装甲車80台が陸揚げされ(PFI船舶「はくおう」)、沖縄の市街地をこの軍用車両が走り回ったのだ。
かつて陸自は、北方シフト下で、「転地演習」を盛んに行ってきた。これは、80年代の「対ソ戦略」下の演習として、九州や本土各地から北海道に部隊を機動展開する、という内容であった。今、陸自は、南西シフト下の「常続的陸自展開訓練構想」(CPEC)として、北海道・本土の部隊を九州・沖縄に動員する演習を強化している。ただ問題は、広大な北海道はいざ知らず、戦闘地域とされる沖縄――先島など、この大部隊が展開する余地は全くないということだ。
小西誠(軍事ジャーナリスト、ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)