今回のメルマガは西岡信之さんからの寄稿です。西岡さんが「最近、この国は本気で戦争をするつもりだと感じることが多くなった」と冒頭で所感を述べられている通り、日米統合演習キーン・ソード25が終わったあと、慄然とすることが新聞をざわつかせています。宮古島での住民アンケート、那覇基地の一時退避壕建設などのニュースは看過することができない戦争を前提とした動きに他なりません。ぜひお読みください。
「台湾有事」に突き進む政府・防衛省・自衛隊
― 戦争準備より平和外交こそ
◎「台湾有事」あなたならどうする?と宮古島で住民アンケート
最近、この国は本気で戦争をするつもりだと感じることが多くなった。
11月14日、沖縄県宮古島の中心部にある野原区320世帯にアンケートが郵便で届いた。野原区には、5年前に駐屯した陸上自衛隊と航空自衛隊基地がある。戦前から日本軍のレーダー基地があり、戦後米軍のレーダー基地に移管され、復帰後は航空自衛隊のレーダー基地となり、現在の南西諸島の軍事要塞化の口火を切った地域だ。空自野原基地のすぐ近くには、日本軍「慰安婦」の追悼施設「アリランの碑-女たちへ」が建立されている。
アンケートは、早稲田大学政治経済学術院多胡淳研究室から送付され、文部科学省・日本学術振興会科学研究費・基礎研究A-タウンプラスと封筒には表記されている。国が出資した科研費の事業だ。名称は、「国際問題に関する学術調査へのご協力のお願い」と記されているが、中身は驚愕するものだ。
簡単に言うと、「台湾有事」のさまざまな展開を想定して、あなたはどうする?どう考える?という設問がA4判2面に並んでいる。性別、年齢層から支持政党名を書かせ、宗教・政治団体などの組織に対する考えを4択で選ばせる。次に架空の国際情勢としながらも2025年X月に中国の習近平主席が武力による台湾統一を命じて、台湾軍との戦闘が始まり、在日米軍が台湾支援で軍事行動を開始した。日本政府は、この事態に対して、台湾支援のために武力行使をするかどうかを判断することになった。そして、質問。あなたは、強く反対、反対、どちらかというと反対、どちらかというと賛成、賛成、強く賛成の6つから選択させる。想定するシナリオが続き、中国政府から次のようなメッセージが日本政府に届く。「台湾有事は内政問題、もし日本が内政干渉し、武力行使を行うならば中国は東京を攻撃する」と。そして設問、あなたは日本の武力行使に賛成か反対かの6つの選択。さらにあなたは、この事態に不安を感じるか感じないかの6つの選択。宮古島の自衛隊基地を強化すべきかどうかの6つの選択などがこの後も続く。
問題は、なぜ「台湾有事」を想定した具体的なアンケートを宮古島の野原区に配布したのか。科研費・基盤研究Aは、3~5年間の事業で2000万円から5000万円までの費用が国から支出されている。政府は、「台湾有事」について戦闘に巻き込まれる当該の住民はどう考えているのか、どういう行動をとるのかを真剣に知りたいと感じているのだろう。このアンケートによって、野原区の住民にとって、数年以内に「台湾有事」が起きる可能性が高いと感じないわけには行かない。戦争の危機を回避するどころか、すでに戦争を開始した場合の住民意識の世論調査を行うというとんでもないことが平然と行われている。許されない事態だ。
11月19日、沖縄タイムス社がこの問題を取り上げ、多胡淳教授に取材し「危機感をあおってしまったことは深く反省している」と語ったという。また政府の関与も否定したという。真相は不明だが、他にも自衛隊施設が所在する2地区含めて2千世帯を対象にした調査は、来年1月まで行うと言うから中止にする気はないみたいだ。
◎信じられない「台湾有事」想定した住民避難訓練、那覇空自基地に「退避壕」
9月25日には、石垣市と竹富町の住民が九州各県に避難するための手順を確認する「実地確認」が内閣官房、沖縄県、石垣市、竹富町の4者で実施された。石垣市内の運動公園屋内練習場で全避難者のデータを管理する「住民避難登録センター」で受付をすまし、1人1個10キロまでの手荷物、航空座席登録、新石垣空港で保安検査から搭乗までの所要時間を確認する作業を190人の住民役が実践した。
11月21日には、那覇空港と共有する航空自衛隊基地那覇基地内にミサイル攻撃に対処するため隊員らが避難するための退避壕が2カ所設置されていることがわかった。
間違いなく政府・防衛省・自衛隊は、「台湾有事」を想定した戦争を本気で準備している。戦争準備より平和外交に徹することが求められる。
西岡信之(元沖縄国際大学 平和学担当非常勤講師)※本稿は西岡さんのご承諾を得て、平和と生活をむすぶ会の会報「むすぶ」11月に掲載された内容に西岡さんが加筆修正したものを配信しました。