メルマガ287号

今回のメルマガは羽場久美子さんからの寄稿です。羽場さんは「沖縄を平和のハブに!」共同代表で、国際関係学研究の立場から国内外に発信を続けられています。太平洋戦争の敗戦がほぼ決まった中で、政府首脳から上奏された停戦案は、昭和天皇の却下によって、その後も戦争が続行されました。その結果、国民の犠牲がさらに増えていったことは、現在のウクライナ、ガザで繰り返されていると指摘します。今後、毎年8月15日に考えておくべきテーマが詰まったこの論稿をぜひお読みください。

国民の犠牲 終戦遅れ拡大
終戦記念日に思う  沖縄戦、広島・長崎の原爆投下、遅過ぎた敗戦宣言から79年目の夏。

「過ちは繰り返しませぬから」という悲痛な平和の誓いを無視し、今や防衛費43兆円、日米2+2による盾から矛と核抑止、統合司令部の設置、ミサイル・地下司令部に加え(人工知能)AI兵器の導入による戦争準備が着々と進んでいる。
 日本が米軍の戦争戦略に乗り東アジアで中国・北朝鮮・ロシアを敵として戦争準備を進めることは、国民の利益にかなう行為だろうか。
 ミサイル・地下司令部を沖縄から北海道まで全土に配備し、沖縄県民を九州に12万人疎開させる計画まで、県民の願いも聞かず進みつつある。 戦争に火が付けば、第2次大戦末期の沖縄戦・広島・長崎の原爆の悲劇が、再び沖縄そして日本全国に展開される。絶対に避けねばならない。 私は広島被爆2世として、現在進行する日米同盟による戦争準備、米軍はグアムに退き自衛隊を沖縄に配備し、反対する沖縄県民の前で基地とミサイル・司令部を拡大する危険な戦争行為を止め、平和を守ることはミッションと考えている。
 日本は第2次大戦で、8倍の戦闘能力を持つアメリカに真珠湾攻撃を仕掛け、敗戦した。
 いま日本は、5倍のGDP、11倍の人口、7倍の軍事力を持つ中国にむけミサイルを配備し、勝てる見通しもない戦争に突入しようとしている。
 歴史にも現実にも何も学んでいない。
 80年前の戦争末期、停戦の遅延の結果、何が起こったか?
 1945年2月、停戦を求める「近衛上奏文」が昭和天皇に建言された。天皇と軍部はこれを却下した。終戦の半年前だ。以後戦争は急速に残虐の度合いを増し国民の犠牲は極度に拡大した。
 3月末、米軍が沖縄に上陸、沖縄戦が始まる。神風特攻隊が編成され、終戦を目前にして10代20代の若者が米軍艦への突撃と爆死を余儀なくされた。もしこの時停戦が実現されていれば起こらなかった残虐な国民の犠牲の数々。10代20代の若者の尊い命に死を強い、沖縄戦でも凄惨(せいさん)な犠牲が続いた。4月には東郷外相がソ連と停戦交渉するも再び破綻。もし停戦が実現していれば神風特攻隊も沖縄戦の犠牲も日本全土への絨毯(じゅうたん)爆撃も広島・長崎の原爆による何十万人の死者と被爆もなかった。軍部の停戦の遅れゆえに国民の多大な犠牲が最後の半年に集中した。
 同じことがウクライナ、ガザで繰り返されている。国連の8割153カ国が停戦を決議する中、拒否権を行使し武器を送り続ける米英。子どもを殺害し続けるイスラエル。
 広島サミットでは、原爆資料館にバイデンは核のボタンを入れたアタッシェケースを持ったまま入った。今年広島での核廃絶宣言の日にガザで3万9千人超の民間人を殺害し国際刑事裁判所(ICC)からジェノサイド認定を受けたイスラエル代表が呼ばれた。長崎ではイスラエルを呼ばなかったため、米英など、G7とEUが大使の出席を取り消した。原爆と平和祈念の意味を踏みにじる行為だ。
 停戦によりガザ市民の命の犠牲は止まるにもかかわらず、武器を送り民間の犠牲を拡大しているのは誰か。原爆を落としたのは誰か。その国に日本は核抑止と司令部統合を行いつつ核廃絶を訴えている。あり得ない矛盾だ。
 韓国の軍事研究者から、新しい情報が届いた。東アジアでのアメリカの戦争戦略は、台湾・沖縄・中国の戦争と、北朝鮮・韓国・日本の2面同時作戦で行われる計画があると。これが実行されれば、朝鮮半島と中国台湾海峡の2面戦線の中、日本は双方の戦いに翻弄(ほんろう)される。まさに日本列島が最前線として、沖縄から北海道まで戦場となる。絶対に許してはならない計画だ。
 戦争は始まったら止められない。ウクライナ、ガザに続く東アジアの報道のおかしさを認識し、東アジアでは二度と戦争しない、アジアの国々と結び、地域の経済発展と核廃絶を進めることを表明していかねば、日本が危うい。
 戦後80年を前に東アジアでの新たな戦争の犠牲を防ぐため、今市民が立ち上がる必要がある。(沖縄タイムス 2024年8月15日掲載)

 羽場久美子(青山学院大学名誉教授、沖縄を平和のハブに!共同代表)

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