今回のメルマガは与那覇恵子さんからの寄稿です。現在軍事強化が進む与那国を訪問し、現在何が起きているのか、今後進められてようとしていることはどのようなことかについて、克明に報告していただきました。なかなか知りえない情報が盛りだくさんです。ぜひお読みいただき、拡散してください。
与那国を訪問して(1)
50年も前のことになるが、訪れた友人の生まれ島の美しさと人々の温かさに感動したと高校生だった妹は目を輝かせて私に語った。その与那国島への初めての旅が私にとって苦しいものになってしまった現実が悲しかった。南西諸島の軍事化が強行されるなか、現状視察を通して与那国で何ができるかを模索する与那国訪問のメンバー、山城博治さん、比嘉盛人さん、仲松典子さん、に私も加えていただいたことに感謝申し上げたい。11・23沖縄県平和大集会でのスピーチが好評だった若きアーティスト桑江優稀乃さんが訪問先の八重山から三味線片手に私たちに加わり、一気にメンバーの平均年齢を下げてくれたことにも感謝したい。(笑)
猪股哲さんの豊富な知識と情報満載の案内でまわった2日間の旅で、まず印象に残ったのは、島(久部良地区)に広がる2016年開所の自衛隊陸軍駐屯地(約25ヘクタール)の延々と続く白い宿舎とインビ岳(比川地区)の中に高々とそびえ立つ5基のレーダー塔である。車から降りて基地にカメラを向けると、地鎮祭に参加していた工事関係者らしき服装の男性が警戒心と敵意をあらわにした視線を向けた。基地への賛否で住民が分断されているという状況が垣間見えた瞬間だった。基地や関連事業で利益を得る人達は得てして基地容認になってしまい、その人達に気を使って基地反対の人達も口を閉ざす傾向となる一方、基地被害や反戦の思いから反対の声をあげ続ける人達もいる、そのような住民間の分断の問題は米軍基地だらけの沖縄島が抱えてきた長年の問題でもある。地鎮祭を見て思い出したのは、地対空誘導弾部隊設置計画が2023年に予算化され、沿岸監視部隊主体であった駐屯地がさらに拡張されることになっていることだった。かつて悠々と走り回っていただろう牧場の中に広大な基地施設が建設され、その周辺に追いやられて細々と草を食む与那国馬の姿は与那国の住民の姿と重なった。レーダー監視塔では、緑の木々を見下ろしてそびえ立つ頑強な鉄塔から放たれる強烈な電波による周辺の環境や動植物や人体への負の影響が懸念された。三上智恵さんのドキュメンタリーに眼球がぶら下がった与那国馬が登場する。塔との因果関係は不明だというが、塔の建設前には見られなかった現象とも聞く。目には見えない強力な電波の不気味さに恐怖を感じ、鉄塔の下に長居はしたくない気分で早々に車に戻った。
さらに今後の重要課題として懸念されていることに、南部カタブル浜の西側、国の鳥獣保護区に指定されている樽舞湿原を埋め立てて建設される比川湾港の問題がある。目の前に広がる青々とした草原のはるか向こうまでの湿原1.5平方キロメートルを浚渫して建設する長さ1200メートル、最小幅200メートル、深さ10メートルとされる軍港は巨大だ。住民説明会では「商業利用を想定していると言うが受け入れる宿泊施設も無いのに」との声が挙がった(4/29沖縄タイムス)ことから、糸数健一町長は軍港があたかも普通の湾港であるかのような説明をしているようだ。「国防、安全保障のことだから国家の専権事項である」として軍港建設を認めながらのこの説明は、住民だましの不誠実な行為と言える。樽舞湿原は10万種以上の水性物が生きる、琉球弧に残る最大規模の天然ダムと言われている。基地としての機能不全が指摘され、企業の利権目的の無意味な自然環境破壊だと批判される辺野古新基地建設同様か、それ以上の自然環境破壊である。美しい黑蝶が舞い鳥の鳴き声が聞こえる目の前の緑の風景は、コンクリートで固めた灰色の巨大軍港に変貌する。自然環境保護や持続可能な開発を謳いながら、軍事利用のために無秩序に自然を破壊していくこの国の欺瞞や愚かさは絶望的なまでだ。祖納部落で眼下のなんた浜を見ながら、猪股氏は安保三文書での24の空港と11の湾港整備になんた浜の港も含まれているのではと懸念し、「美しかったなんた浜も自民党政権下の利権がらみの相次ぐ防波堤設置で消滅してしまった」と、全国で実施された防波堤工事による日本の自然破壊という負の影響にも言及した。
与那覇恵子(当会発起人)