メルマガ54号

今回のメルマガは、弁護士の内田雅敏さんの琉球新報での寄稿を転載します。今年は日中国交正常化50年の区切りの年です。本稿では正常化当時と現在の日中の指導者を比較し、あらためて共同声明にこめられた前文の精神に立ち返ることが大切であると強調されています。南西諸島軍事強化に邁進し、軍事緊張を高めている日本政府に私達がどう向き合うかを考える上で必読の内容です。後半は今週の南西諸島軍事強化トピック、発起人の新垣邦雄さんの解説です。日々刻々と動く状況を整理する上でとても分かりやすい内容です。こちらもお読みください。

 また、これまでのメルマガについてはホームページでバックナンバーを掲載していますので、ご覧ください。また沖縄「戦前新聞」と題して、南西諸島軍事強化関連のニュースを掲載しています。あわせてご覧ください。https://nomore-okinawasen.org/

日中国交正常化50年 ー 日中友好に尽力した先人たちに思いを馳せよう ー

8月16日、スリランカ南部のハンバントタ港に中国軍系の観測船が入港した。ハンバントタ港は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の一環で建設されたが、巨額の融資が返済できなくなったスリランカは債務の一部免除と引き換えに中国に港の運営権を99年間貸与した。
周辺国からは中国の「一帯一路」政策に潜められた「債務の罠」として警戒されてもいる。
 「99年間の貸与」には既視感がある。1915年、日本が第1次世界大戦による欧州のドサクサに乗じ、ドイツが中国の山東省に有していた権益を奪い、改めて中国に99年間の貸与等を求めた「対華21ヶ条要求」だ。戦前の対中国政策の過ちの始まりとして、今日保守の側も含め共通の認識となっている。この延長上に31年、満州事変、37年、日華事変から日中戦争、41年、対米英戦争があった。
「対華21ヶ条要求」時の首相は、明治の自由民権運動の流れを汲む大隈重信、外相は後の護憲三派内閣の首班となった加藤高明。明治の自由民権運動も大正デモクラシ―も外に向けては帝国主義であった。
 ハンバントタ港運営権の中国への99年間の貸与、〈中国よ、おまえもか‼〉という思いを禁じ得ない。歴史は繰り返す、プレーヤーを代えて。
 今年は、1972年9月29日、田中角栄首相と周恩来総理による日中共同声明から50年。同声明は「日中両国は、一衣帯水の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する。両国国民は、両国間にこれまで存在していた不正常な状態に終止符を打つことを切望している。戦争状態の終結と日中国交の正常化という両国国民の願望の実現は、両国関係の歴史に新たな一頁を開くこととなろう」(前文)とエールを交換し、「日本側は、過去において、日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し深く反省」(同)し、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国領土の不可分の一部であることを重ねて表明し」(3項)と、台湾を含めて「一つの中国」論を主張し、日本国政府は中国政府のこの見解を尊重するとした(同)。更に、互いに覇権国家とならないことを誓いあった(7項)。尖閣諸島の帰属についても棚上げとする合意がなされた。 この基本姿勢は、その後の日中平和友好条約(78年)、日中共同宣言(98年)、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年)でも繰り返し確認された。78年の平和友好条約締結当時、激しい「中ソ」対立があった。当時の中国側の責任者鄧小平は、反覇権条項は、ソ連(当時)を念頭におくものであるとして渋る日本側を、「反覇権条項は将来、中国が覇権国家にならないためにも必要なのだ」とまで言って説得した。すでに74年、鄧小平は、国連総会において演説し、「中国は覇権国家とはならない。もし中国が覇権国家となったならば、世界の人民は、中国人民と共にその覇権国家を打倒すべきである」と啖呵を切っていた。
「一つの中国」、反覇権条項は、日中共同声明に先立った72年2月、ニクソン米大統領との間での「上海コミュニケ」でも確認された。
 今、内には香港における人権弾圧、ウイグル族問題、外には南シナ海における覇権主義的行動、「一帯一路」構想による途上国支援に潜む「債務の罠」等々、そしてウクライナに侵攻するロシアに対する国際的批判に同調せず、プーチン大統領にエールを送る中国習近平独裁体制を見るとき、習近平主席は周恩来総理ら50年前の中国の指導者らとは違うのではないかという疑問を払拭できない悩ましさがある。
 50年前とは比較にならない中国経済、軍事力の圧倒的な増大、米中対立の激化、喧伝される「台湾有事」等々、中国を取り巻く環境の変化もある。ペロシ米下院議長の訪台など米国の軍産複合体を背景とした米国の「挑発」もある。それにしても、習近平独裁政権は「上から目線」だ。国交正常化前のその昔、北京で「米帝国主義は日中両国人民共通の敵」とぶち上げた日本の政治家がいた。習近平独裁政権がそうならないことを願う。
 日本側も同様だ。米中対立に割って入るのではなく、米国の言うがまま武器爆買いをし、米国による「台湾有事」の喧伝に唱和し、南西諸島にミサイル網を巡らせ中国に対峙しようとしている。これを「好機」とする中国の軍拡派。「敵対的相互依存関係」だ。
 50年前、日中国交正常化のために北京に赴いた田中首相、大平外務大臣らには戦争体験者として中国に対する申し訳のなさとリスペクトがあった。周恩来もレセプションで、新潟出身の田中首相には「佐渡おけさ」、香川出身の大平外相には「金毘羅船々」の演奏で応えた。故安倍元首相ら戦争を知らない世代の政治家たちにはこのような気持ちが理解できない。
 周恩来に会った田中首相は、「私は、長い民間交流のレールに乗って、今日ようやくここに来ることが出来ました」と語りかけたという。
いま大切なことは、日中両国の指導者・民衆が、日中友好に向けた先人たちの尽力に思いを馳せ、「両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致するところであり、またアジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである」という日中共同声明前文結びの精神に立ち返ることだ。

内田雅敏(弁護士)

今週の南西諸島軍事強化トピック
(2022年8月29~9月4日)

◇長射程ミサイル量産へ 防衛省、県内配備も想定(沖縄タイムス 2022.9.1)
◇「極超音速兵器」に対処 浜田防衛相「反撃能力も選択肢」(琉球新報 2022.8.30)
◇反撃念頭 ミサイル量産 防衛費 過去最大5兆5947億円(沖縄タイムス 2022.9.1)
◇防衛省 最大の5.6兆円(沖縄タイムス 2022.9.1)
◇社説 南西諸島で実戦想定 戦争準備やめ平和構築を(琉球新報 2022.8.30)
◇閣僚に聞く 浜田靖一防衛相 防衛装備輸出は推進不可欠(琉球新報 2022.8.30)
◇対戦車訓練公開 熊本 陸自と米陸軍(沖縄タイムス 2022.8.29)
◇日米が共同て対戦車弾訓練「ジャペリン」射撃も(琉球新報 2022.8.29)

 台湾有事を想定する南西諸島の軍備強化が加速する。防衛省は「過去最大の5.6兆円」を概算要求。中国にも届く「長射程ミサイル量産」、中国のミサイル兵器の高度化に対抗し、浜田防衛相は「反撃能力も選択肢」とし、防衛省は迎撃不能な極超音速ミサイルの開発に踏み込む。産経新聞(9月1日)は「長射程ミサイル1500発以上整備」と報じた。南西諸島がミサイル列島化し、中国とのミサイル戦争に陥る懸念が高まるばかりだ。
 軍備の強化とともに日米訓練も激化している。8月28日、熊本の共同訓練では米陸軍が対戦車ミサイル「ジャベリン」、陸自も同種の武器で実射訓練を実施した。「ジャベリン」は米軍が供与しウクライナの戦場映像で目にする。31日は奄美で陸自、米陸軍が共同訓練を行い、ウクライナにも供与する高機動ロケット砲システム「ハイマース」が米本土から初めて持ち込まれた。両訓練は「離島防衛」を名目に対戦車の地上戦、奄美では、宮古、石垣、沖縄本島うるま市に配備される陸自12式地対艦ミサイルも連動し「離島へ侵攻する敵艦を阻止する対艦戦闘」(産経新聞)の訓練を繰り広げた。まさに実戦さながらだ。
 南西諸島の島々の「離島防衛」、奪われた島を奪い返す「離島奪還」を名目に日米が実戦訓練を重ねている。「防衛、抑止」と称する軍備増強は、射程1000キロ超の中国本土攻撃能力の保有を伴って中国のミサイル強化を呼び込むことにならないか。
 琉球新報社説(8月30日)は「抑止力が戦争準備と同義になっているのではないか。抑止力と引き替えに南西諸島は標的となり、戦場になる危険を背負わされるのか」と強く批判した。同社説は浜田防衛相が「台湾有事の際に沖縄県民の島外への避難が必要になった場合、自衛隊の航空機や船舶で輸送する」としたとする発言を取り上げ、「県民は避難や救助が必要になる事態を望まない。政府は平和構築にこそ取り組むべきだ」と主張した。
 敵味方のミサイルが飛び交う戦場下で、住民の安全な避難をなし得るはずがない。そもそも小さな島にミサイルを配備すること自体、非人道的だ。ウクライナのように地続きで他国に逃げる術はない。南西諸島の「日米共同作戦計画」報道(共同通信)で自衛隊幹部は「自衛隊は米軍支援を最優先する。住民を避難させる余裕はまったくない」と吐露していた。日米の南西諸島「共同作戦」は住民の犠牲を前提とする非人道作戦にほかならない。
「自衛隊の航空機や船舶で輸送」の甘言にだまされるわけにはいかない。

◇災害訓練不実施 市民団体が要請 宮古 米軍参加で知事に(沖縄タイムス 2022.9.4)
 専門家は「有事下で離島住民の避難は不可能」と指摘している。住民全員の避難のため宮古島市で必要な航空機数を381機と試算、石垣市は一日45機運航しても「9.67」日を要するとの報道があった。400機近くの飛行機が必要で、10日もかかるというのだ。有事となれば空港が真っ先にやられるという指摘もある。有事下の避難は非現実的だ。
 「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」は在日米軍が参加する災害訓練を実施しないよう求める文書を玉城デニー知事に郵送した。玉城知事が神奈川県知事との会談で前向きな姿勢を示したとされる報道を受け、抗議表明を込めた「災害訓練不実施要請」である。
 代表らは「自衛隊だけでなく米軍まで参加する『災害対応訓練』は実質『軍事訓練』であり、東アジアの状況を鑑みると『戦争訓練』と化すことは明白」と悲痛な叫び声を上げた。宮古島には陸自ミサイル基地が建設されミサイル弾薬も強行搬入された。ミサイル戦争に恐怖を募らせる住民の止むにやまれぬ思いが伝わる。
 ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会も先に、玉城知事に宛てた同様の文書を県副知事に出した。(⇒ 映像がご覧になれます https://nomore-okinawasen.org/2500/)不可能な避難訓練の中止、ミサイル基地建設に反対するよう強く求めたが、明確な反対表明を引き出せていない。県、市町村には行政としての立場もあろう。しかし「住民の命を守る」ことが県知事、行政の最大の責務だ。知事には毅然とした対応を求め続けたい。

8月29日(月)https://nomore-okinawasen.org/2584/
◆対戦車訓練公開 熊本 陸自と米陸軍(沖縄タイムス 2022.8.29)
◆日米が共同て対戦車弾訓練「ジャペリン」射撃も(琉球新報 2022.8.29)
◆米軍艦、台湾海峡通過 ペロシ議長の訪問後初(沖縄タイムス2022.8.29)

8月30日(火)https://nomore-okinawasen.org/2596/
◆「極超音速兵器」に対処 浜田防衛相「反撃能力も選択肢」(琉球新報 2022.8.30)
◆極超音速兵器の対処 浜田防衛相  辺野古移設は推進(沖縄タイムス 2022.8.30)
◆国境の先島 危機感 自衛隊配備進む石垣と宮古 米中緊迫 政治に諦め 有事回避願い続ける(沖縄タイムス 2022.8.30)
◆社説 南西諸島で実戦想定 戦争準備やめ平和構築を(琉球新報 2022.8.30)
◆閣僚に聞く 浜田靖一防衛相 防衛装備輸出は推進不可欠(琉球新報 2022.8.30)

8月31日(水)https://nomore-okinawasen.org/2614/
◆台湾に武器 議会要請 米政権計画 1500億円規模(琉球新報 2022.8.31)

9月1日(木)https://nomore-okinawasen.org/2620/
◆長射程ミサイル量産へ 防衛省、県内配備も想定(沖縄タイムス 2022.9.1)
◆反撃念頭 ミサイル量産 防衛費 過去最大5兆5947億円(沖縄タイムス 2022.9.1)
◆防衛省 最大の5.6兆円(沖縄タイムス 2022.9.1)
◆自衛隊にも配備 那覇は使用継続 原因部品使用せず(琉球新報 2022.9.1)
◆自主性奪い、国防押し付け(琉球新報 2022.9.1)

9月2日(金)https://nomore-okinawasen.org/2638/
◆識者 防衛費の大幅増支持 政府公表「反撃能力」保有も多数(沖縄タイムス 2022.9.2)
◆政府寄り人選で密室議論(沖縄タイムス 2022.9.2)
◆社説 防衛省概算要求 軍拡競争の懸念広がる(沖縄タイムス 2022.9.2)

9月3日(土)https://nomore-okinawasen.org/2643/
◆ミサイル想定 訓練へ 国と共同 那覇と与那国(沖縄タイムス 2022.9.3)
◆予算不明示項目「説明の形作る」 防衛相が言及(琉球新報 2022.9.3)
◆防衛力強化 首相が意欲 米司令官と会談(琉球新報 2022.9.3)

9月4日(日)https://nomore-okinawasen.org/2652/
◆災害訓練不実施 市民団体が要請 宮古 米軍参加で知事に(沖縄タイムス 2022.9.4)
◆台湾にミサイル売却へ 米国務省承認、中国反発(琉球新報 2022.9.4)
◆統一地方選2022 29市町村議選 立候補予定者アンケート(琉球新報 2022.9.4)

文責:新垣邦雄(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会発起人)

「メルマガ54号」への1件の返信

  1. こんにちは、メルマガ54号拝見しました。

     弁護士 内田雅敏さんの文で、一部誤解されているところがありましたのでコメント致しました。
    『 今、内には香港における人権弾圧、ウイグル族問題…』
    この部分の、香港問題やウイグル問題は西側諸国がでっち上げた中国の内政を揺るがそうとする勢力CIAが仕掛けたものです。

    まず香港問題は、雨傘運動の若者たちが平和的デモだけでは無かったこと。

    街を破壊し、雨傘運動に反対する人達を集団リンチ、同じ市民に対しライターオイルを被せ火を放ち大変な暴挙を働きました。拳銃、爆発物も沢山押収されました。
     その武器を支援したのは誰だったのでしょうか。
     そして、このような行為を制圧するため政府は警官隊を出したました。
    日本メディアはこの制圧した箇所だけを切り抜いて報道していたのです。

    日本で同じ事がおこったなら、警察は同じ事をするのではないでしょうか。

    第一回
    https://youtu.be/Iu6v6olplkE

    第二回
    https://youtu.be/1cfWPog8SRw

    そしてウイグル問題

    https://youtu.be/_TEMmik7GBI

    こちらもウイグル自治区で、テロが多発、民間人が巻き添えになり中国政府が取締をしました。
    香港問題と同じ図式です。

    日本や西側諸国が流布するチベット、香港、ウイグル問題の前に実情を知っていただきたいです。

    日中は引っ越しのできない隣国であり、互いの総合理解なしには日中友好はありえない。
    友好を願い、二度と他国と戦争しない日本を願います

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