「琉球新報」2021年12月25日
<社説>台湾有事日米共同作戦 「軍の暴走」は認められない
軍隊のいた島々が戦場になり住民の4分の1が命を落とした沖縄戦。その悲劇が再び繰り返されるのだろうか。
自衛隊と米軍が、台湾有事を想定して南西諸島に米軍の軍事拠点を設ける日米の新たな共同作戦計画の原案を策定したことが明らかになった。年明けに開催が見込まれる日米安全保障協議委員会(2プラス2)で正式な計画への作業開始を合意する見通しという。南西諸島を戦場にする計画など、断じて認めることはできない。
住民はもとより国会も国民も無視して戦争準備を進めるこの事態は、「軍部暴走」の再来と言うべきではないか。自衛隊に対するシビリアン・コントロール(文民統制)を機能不全にさせる暴挙である。
米海兵隊は、小規模の部隊を敵ミサイルの射程圏内にある複数の離島に展開して攻撃拠点を確保し、味方艦艇の行動を支援する「遠征前方基地作戦(EABO)」を採用し、訓練を続けている。中国の高性能ミサイルに対抗するため従来の、敵の眼前に大規模部隊を強襲上陸させるという考え方を見直したのである。
自衛隊はEABOに基づく共同作戦を将来のものと考えていたが、台湾有事への危機感を募らせた米軍が今回、策定へと押し切ったようだ。
台湾有事が起きれば米軍が台湾軍を支援するため、米軍基地が集中する沖縄が巻き込まれる可能性は元々指摘されてきた。しかし、自国が攻撃されなくても戦争に参加する集団的自衛権を、安全保障関連法に基づき行使し自衛隊が後方支援などを行えば、必然的に自衛隊基地も攻撃対象となる。さらに、共同作戦計画が策定されるとなれば、戦場化は目の前に迫った危機と言わざるを得ない。
米軍の拠点を新たに設けるには土地使用や国民保護の法整備が必要になるが、離島での住民保護は不可能だ。自衛隊制服組幹部は「申し訳ないが、自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と吐露した。第32軍司令部の神直道航空参謀は戦後、「軍隊は敵のせん滅が役目。住民を守ることは作戦に入っていなかった。住民は大事だが作戦にとっては足かせになる。純粋に軍事的立場からは住民を守るゆとりはない」と述べている。「軍隊は住民を守らない」が沖縄戦の教訓だ。
「南西諸島を絶対に戦場にさせない県民の会」(仮称)の準備会が24日、発足した。住民の生命、財産を守るため日米共同作戦計画を阻止する、幅広い全国的な運動となることを期待する。沖縄県政にとっても、自衛隊も一体となって沖縄を戦場にしようとする計画を阻止することは、喫緊の重大課題になる。
そもそも他国の戦争への介入は明らかな憲法違反であり、自国を戦場にする愚を犯してはならない。日本政府は、有事を起こさせない真剣な外交に全力を傾注すべきだ。