メルマガ33号

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今回のメルマガは「ウクライナ戦争の本質ー米国の覇権守る代理戦争」と題した当会発起人の与那覇恵子さんの琉球新報に寄稿した原稿(2022年6月18日)を掲載します。現在のウクライナ戦争を「悪のロシアのウクライナ侵攻」とすることが次に「悪の中国を台湾侵攻」と見る向きに警鐘をならします。ウクライナ戦争の本質を衝く必読の原稿です。ぜひお読みください。

「ウクライナ戦争の本質ー米国の覇権守る代理戦争」

本紙5月28日(金口木舌)が、ロシアのウクライナ侵攻後のロシア語やロシア人まで排斥する風潮に疑問を呈した。政調会長がロシア語表記を問題視した例に見るように霞が関は「ロシアが悪」で統一され、米英を「鬼畜」と憎んだ戦前にも似る。ウクライナ戦争の本質が見えていないか、あえて見ようとしない人が多数である状況を表わす。
 日本で、ウクライナ戦争が「覇権を守る米国のウクライナを利用した対露代理戦争」との本質を伝えるメディアはほぼ皆無だ。その本質が見えないなら、次に「米国の日本を利用した対中代理戦争」があり、次のウクライナは沖縄になるという危機も見えてこない。米軍と自衛隊が対中戦争の攻撃拠点(戦場)は沖縄と名指しし、住民を守るのは自衛隊でなく自治体の責任と自衛隊幹部が述べた。が、日本政府は沈黙し米国追随のみだ。沖縄を戦場に想定した対中戦争の米軍共同訓練を続ける日本にとって沖縄は今も捨て石に過ぎないと、復帰50年の年に思い知らされて悲しい。
沖縄の戦場化を防ぐにはウクライナ戦争の本質を掴む必要がある。物事の本質を掴むキーワードは利権と歴史だ。ウクライナ戦争で利を得る国は、人的、経済的損害を受け続けるウクライナやロシアではない。ロシアを弱体化し武器売却で経済が潤う、ロシアと欧州の関係悪化が利となる米国だ。米国は大戦後にナチスドイツは罰したが、ウクライナのネオナチは温存し関係を結んできた。2004年ヤヌコビッチ親露大統領が失脚したオレンジ革命の背後の国務省ウクライナ担当ヌーランドなどネオコンの暗躍は知られている。自由・民主主義を掲げる革命の結末が単なる親米政権誕生となる例は多い。突然のロシア侵攻と言うが、その前にロシア語を話す親露住民への8年ものウクライナ軍の攻撃、虐殺の事実がある。
ウクライナ戦争を「悪のロシアのウクライナ侵攻」とする人達は、次に「悪の中国の台湾侵攻」があると中国を敵視し沖縄には米軍や自衛隊の防衛が必要と主張する。自衛隊発言や沖縄戦の教訓を無視、沖縄を攻撃拠点(戦場)とすることに賛成し沖縄の危機を招いている。
駐日ロシア大使は「停戦交渉がまとまってくると誰かがウクライナのスカートの裾を踏む」と述べた。ジャパンハンドラー、ジョセフ・ナイ(台湾で米軍がきっかけを作り自衛隊を引き入れ日中戦争にし、両国が疲弊した頃に米国が仲介し利を得る戦略を提案)もバイデン政権で戻ってきた。スカートの裾を踏む誰かに隷属する国の下にある沖縄が案じられる。

与那覇恵子(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 発起人)

今週のピックアップ

今2022慰霊月間 策動される戦争に抗して 2週連続講演会の第2回、「南西諸島有事を勃発させないために」が6月26日(日)午後1時から那覇市の教育福祉会館で開催されます。ぜひご参加ください。詳細はチラシをご覧ください。

「メルマガ33号」への2件のフィードバック

  1. かつてベトナム戦争(ベトナム側からすればベトナム解放戦争)の時に、この戦争はアメリカとソ連との代理戦争だと論ずる人たちがいた。

    彼らの論理からすれば、ソ連が直接手を出すと、アメリカとの全面戦争になり、さらには世界戦争となるので、それを回避するためにベトコンや北ベトナム軍をソ連の手先として使ってアメリカと戦わせている。となるわけだ。

    この代理戦争論で問題となるのは、アメリカとソ連の対立構造で総てを片付けてしまうことで、ベトナムとベトナムの人々のことがかき消されてしまうことにある。

    ベトナムの人々が帝国主義国による植民地化を拒否し、民族の自立(自決)と解放のために主体的に戦っていることが見落とされてしまうのだ。そればかりか日々戦争の恐怖におののきながらも、侵略者に怒り、抵抗する民衆のことも見えてこない。

    それはつまり、ベトナム人の自己決定権(民族自決権)を結果として否定することにもなりかねない。

    ロシアとウクライナの戦争に関しても、この悪名高い代理戦争論がまかり通っている。アメリカを中心とするNATOがロシアの弱体化を謀って、ロシアをウクライナでの戦争に引き込みウクライナに戦わせている。アメリカを中心とするNATOは自ら戦わず武器だけ送り込み、ウクライナの空間と人的資源を利用し消耗させている、という論理だ。

    一応それらしい理屈になっていて、これを受け入れる人も少なからずいるかもしれない。しかし、この論理は、代理戦争という図式を当てはめようとして、現実の核心的な問題点を見落としてしまっている。

    2月24日ロシアのウクライナ侵攻で始まったこの戦争(ロシアは特殊作戦と主張)は、ロシア側の当初の見込みとして2、3日で片がつくと踏んでいたことが、数多くの情報から判断できる。一方欧米側も短期間でロシアがウクライナを打ち負かすと予想していたようである。(注1)

    ところが予想を超えたウクライナ軍の激しい不退転の抵抗でロシアが目指した短期決戦は頓挫してしまい、この戦争は既に5ヶ月目に至っていて長期戦、消耗戦となっている。

    だから、いま言論の場で飛び交っている「ロシアをウクライナでの戦争に引き込みウクライナに戦わせて、ロシアを弱体化させる」というような主張は結果解釈論でありこじ付けでしかない。開戦後たった2日しかもたないウクライナ軍に米軍が代理戦争を担わせようとした意図があったとはとうてい思われない。

    同様の理由で開戦当初アメリカが「武器売却で経済が潤」うことなど想定しようがない。これからも続く長期戦、消耗戦のなかでアメリカの軍事産業が潤うことはあるだろう。

    しかし、同様にロシアの軍事産業が潤うことも見ておかなければならない。アメリカの武器輸出額は世界一位だが、ロシアはこれに次ぐ2位の座を占めている。国の経済力からすればロシアのほうが武器輸出の国内経済に占める割合は大きい。

    ここで、押さえておかなければならないのは軍需産業は潤うことがあっても、国が潤うことには直結しないということだ。

    アメリカを例とれば、長期化したベトナム戦争、アフガン戦争などで経済的に疲弊して、アメリカの地位低下に繋がったことは常識だ。もし国力が向上するなら米軍はベトナムからもアフガンからも撤退する必要はなかったことになる。今アメリカ議会の一部保守派の議員がウクライナの軍事援助に反対しているのは国力低下を恐れてのことだろう。

    ソ連にしても10年続いたアフガン戦争で軍事支出の増大などにより国力が低下して、それも一因となって崩壊している。武器をどんどん消耗・生産して国は潤うのだったら、ソ連は再建できたはずだ。

    余りにも当然なことだが、この戦争はロシアがウクライナに仕掛けたものだ。ロシア・プーチンの戦争の意図、目的を理解しなければならない。

    これについてポーランド文学者加藤有子さんは次のように書いている。(注2)

    「イェール大学教授の歴史家ティモシー・スナイダーは、ロシア侵攻の背景にあるプーチンの思想の植民地主義的性格を繰り返し指摘している。この指摘は今回の侵攻の文化的側面を考えるうえで本質を突いている。プーチンの思想は、独立国家としてのウクライナという概念を根本から否定し、領土のみならず、ウクライナの言語、文化、歴史もすべてコントロール下におき、それを丸ごとロシアとしてロシアに吸収するものである。2021年7月に発表されたプーチンの論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」(注3)は、表題のとおり、ウクライナとロシアの歴史的同一性を主張する。現代ウクライナはソ連時代の人工的産物であると断じ、ロシア、ベラルーシ、ウクライナは古東スラブ語という共通語を持ち、正教会という共通の文化的伝統に立つがゆえにもともと一つの統合体であると主張した。

     いわば、ウクライナという国家も人も言語も文化も存在しないものとして否定し、歴史から抹消するプロジェクトである。この観点から事態をとらえて初めて、ウクライナの人々の怒りと恐怖を彼らの視点から捉えることが可能となる。・・・ロシアの侵略戦争がもたらす文化的危機は物理的破壊にとどまらない。その文化的危機の本質とは、これまでの個人の人生の基盤を成す言語、文化、国の否定であり、それらが大国のものに同一化されようとすることにある。それは市民ひとりひとりの人生の否定とアイデンティティのはく奪に等しい。」

    ウクライナとロシアとの関係史を少し紐解けば、近代以降でも19世紀から続く言語、出版、文化活動への抑圧、政治的サークルへの弾圧があり、それに抗するかたちで、第一次世界大戦・ロシア革命時の独立運動、第二次大戦時の独立運動を知ることができる。(注4)

    また、1932年・33年のホロドモールといわれるウクライナでの大飢餓で300万人以上のウクライナ人(主に農民)が死んだ。スターリンによる強制的な集団化や穀物調達のために起こった人為的飢餓であり、自然上の必然性はなかったといわれる。政府は5カ年計画で工業化を優先し、その原資を得るためにウクライナから穀物を調達し外国へ輸出することで外貨を稼いだ。

    大飢餓が起こっていることは隠蔽して飢餓の間もこの政策を続けた(飢餓輸出)。ウクライナはこれをジェノサイドとしている。

    農民はパンがなく、ねずみ、木の皮、葉まで食べた。あげくは人肉食を犯すものまで出て、多数の人が罪に問われた。村全体が死に絶えるところもあって、そういう所にはロシア人が移住してきた。

    1939年ドイツ軍がウクライナに攻め入ったときに、退却するソ連軍は焦土作戦を敢行しキーウの街を破壊し、焼き払った。(注5)

    このような歴史を振り返ればウクライナの人々がロシアのくび木から逃れようとしてきたことが分かるだろう。

    ロシアとウクライナの歴史的関係はプーチンが喧伝するように「ロシア人とウクライナ人は一つの民族、つまり不可分の一体」などではなく、大国-小国、抑圧民族-被抑圧民族、支配国家-従属国家、征服者-隷属者、帝国-植民地のといえよう。

    こうした関係を見るならば、今回のロシア・プーチンによるウクライナ侵攻が帝国主義的な民族抑圧の植民地化を目的とする戦争であることは明らかだ。ウクライナ人にとってはウクライナ民族としてのアイデンティティを守るために帝国主義的支配から自らを解放する不屈の抵抗による戦い。これがこの戦争の核心なのだ。

    それをあたかも高みから見下すように「代理戦争」と言い放ち、アメリカとロシアの両軍事大国のことしか意識が回らず、苦闘するウクライナの人々の思いと存在をかき消してしまう。

    「ウクライナの人々の怒りと恐怖を彼らの視点から捉えることが」できず「普通のウクライナ市民がなぜ抵抗し続けるのか、抵抗するしかないかが見え」(注2)ない。

    「代理戦争」云々と述べるのは軍事大国、帝国主義の視点からこの戦争を見ているからに他ならない。それはつまり戦争する側の論理、殺す側の論理に取り込まれている。それと共にウクライナの人々の自己決定権・民族自決権を蔑ろにする見方でもある。

    日々「怒りと恐怖」のなかで生き延びようとし、抵抗するウクライナの人々の視点、殺される側の論理に私たち日本人が立つことなどできるわけがないが、そこに少しでも接近することができればと思う。

    私は「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」というのは、殺される側の視点、殺される側の論理に立って沖縄を再び戦場にしない、悲劇を再びもたらさないという信念のもと設立されたと思いっている。また、会は沖縄と沖縄の人々の「自己決定権」を打ちたて、それを拡張していくものだと思い、尊敬の念を持って私も賛同者の片端に置いてもらっているつもりだ。

    それが、ここで間逆のことが語られているように感じ、戸惑うばかりである。

    鯨津憲司@大分県

    追記「ウクライナのネオナチ」に関しては現在のウクライナにおける政治情勢において余りにも過大評価であり、ロシア政府・プーチンのプロパガンダを無批判に受け入れているように思えるが、それについて書くとこの文章と同じくらいの長さになりそうなので、ここで止めておきます。

    (注1)【ワシントン時事】米紙ワシントン・ポスト(電子版)は5日、米軍や情報機関の分析として、ロシアがウクライナに侵攻した場合、首都キエフは2日以内に制圧される。
            2022年02月06日12時28分 jiji.com     https://www.jiji.com/jc/article?k=2022020600243&g=int

    (注2)『現代思想6月臨時増刊号 ウクライナから問う』 「ウクライナ文化危機の本質」89-90p

    (注3)出典はロシア大統領府のホームページ ロシア語と英語のページがあり
    http://en.kremlin.ru/events/president/transcripts/67828

    (注4)第一次世界大戦・ロシア革命時にウクライナ独立派は、ソビエト革命政権、反革命白軍、ポーランド軍、ドイツ傀儡政権と戦った。第二次世界大戦時にはロシア軍、ドイツ軍と戦った。孤立無援ともいえる戦いの中で、ユダヤ人やポーランド人を虐殺した負の歴史をもつ。ただし、これからウクライナの現政権がネオナチというのは短絡である。

    (注5)https://www.meijigakuin.ac.jp/about/mg_plus/1380

    (注6)第二次世界大戦でウクライナは独ソ戦の主戦場となったが。ソ連全体ではは2000万から3000万人が戦死・戦病死したとされているが、そのうちウクライナでは800万人が死んだといわれている。当時のウクライナの人口を4000万人とすれば5人に1人が亡くなったことになる。

  2. 貴会の賛同人になりわずかばかりのカンパを送金した後、3号ほどメルマガが届き、拡散に努力してきましたが、その後
    バッタリとメルマガが届かなくなり、どうしたのだろうかと思っていました。勝手に拡散していたのが悪かったのかなとも
    考えたりしています。今回何か月ぶりかでメルマガを拝見し、健在なのを知って、一安心しました。
    できることならまた、メルマガの送信をお願いします。

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