メルマガ183号

今回のメルマガは当会発起人であり映画監督の三上智恵さんからの投稿です。離島各地で全島避難計画の説明会が行われていますが、三上さんは与那国での説明会を取材し、その計画が住民の不安をさらに増幅させるもので、全く住民の生活、生命、安全を全く考えていない計画であるということを鋭く指摘しています。
「中国と台湾が武力衝突をする「台湾有事」を煽っているのはアメリカだ。それは自らの覇権維持のために、日本や西側諸国を巻き込んで中国を叩くチャンスを窺っているからで、日本が今のままその戦略に協力するなら、国土である島々や自衛隊員の命も差し出しかねない。」という警鐘を私たちはあらためて共有しなければならないと思います。
三上さんが提起した最後の災害救助隊への再編は、住民も自衛隊員も守るベストの選択肢であり、アジア諸国との共存と友好をはかる最も有効な手段だと思います。ぜひ本稿をお読みください。

「島を捨てる日 ~全島避難計画に揺れる与那国島~」

「集合場所までは徒歩。リュックは一人一つまで。空港と港までは班ごとにバスで移動。ペットを連れている人は基本的に船になります」

9月末の与那国島。島外避難の説明会に参加した祖納集落の住民は、団体旅行の旅程のような表を厳しい表情で見つめる。ミサイルが降るような事態で、徒歩で移動ができるのか。小さな飛行機に多く載せるためとはいえ、荷物がリュック一つとは。こんな「旅行計画」は願い下げだ。でも「武力攻撃予測事態」と認定されたら、速やかに1700人余りの与那国島民を一日で島外に避難させると町の職員は説明する。まずは石垣島まで船と飛行機で。そのあとの行き先は「九州各県」だ。

50代の牧場主の男性が質問した。
「町内旅行みたいですね。おやつはいくらまで持ってっていいんですか?」
誰も笑わなかった。彼は続けた。
「おかしくないですか。自衛隊がいた方が安全だという話で受け容れて、7年たって、さらに安心だからと、今度新たにミサイル部隊も引き受けるんでしょ。なのにどうして,全国で一番危険な島に、真っ先に逃げる島になってしまっているんですか?」

悲しみと苛立ちをぶつけても、町職員も答えに窮する。国は国民保護法に基づいて市町村に避難経路や手段・誘導を定める「避難実施要領」の作成を義務付けている。与那国の場合は、3つの集落を9班に分けて、民間のフェリーと飛行機で脱出する。平常時なら自衛隊も輸送に協力するが、有事では軍民混在の輸送体制は敵の攻撃を受けかねない。頼りは民間輸送だが、海域・空域の安全がどこまで確保されるのか、保証はない。

現在、沖縄県全体が「要避難地域」とされ、そのうち沖縄本島周辺は「屋内避難」だが、宮古・八重山地域は「島外避難」だ。特定の事態は想定していないと書かれているが、台湾有事が念頭にあることは明らかだ。最終的に福岡空港に置く「避難先連絡所」を経由して九州新幹線で各県に向かうらしい。別の案では熊本空港も乗り入れ先(仮定)となっているが、果たして福岡と熊本の県知事は、離島の12万人の避難先であることをご存じだろうか?
公道を戦車が走り、PAC3も常駐、シェルターも掘るという与那国島にいると、その「事態」は突然やってきそうな切迫感があるが、九州の受け入れ準備は間に合うのだろうか?

恐らく、そんな話は初耳だと言われるだろう。大事なことが全然報道されていない。そもそも、なぜ南西諸島が戦場にされるのか。中国と台湾が武力衝突をする「台湾有事」を煽っているのはアメリカだ。それは自らの覇権維持のために、日本や西側諸国を巻き込んで中国を叩くチャンスを窺っているからで、日本が今のままその戦略に協力するなら、国土である島々や自衛隊員の命も差し出しかねない。なのに国民は真実を見ようとせず、煽られるままに「中国が怖い」「武力に守られたい」と不安を募らせるばかり。そうするほどに、島々にはミサイルが積み上がり、島民の当たり前の暮らしが潰されていく。この構図は入り口も出口も間違っているが、そう報道されていない。武力攻撃事態が迫っているとして、家も財産も生活手段も捨てて島を出ねばならないのかと胸が張り裂けそうな人々がいる地域が国内にあること、それがニュースじゃなければ何がニュースなのだろうか?

2回目の説明会では、三原山噴火で伊豆大島の人々が避難した事例がスクリーンに映し出された。自衛隊や消防・海保の連携で1万人が短時間に避難できたこと、基幹施設の安全を確保してから帰島の段取りが進められたことなど、島外避難しても安全に島に戻れるようなイメージが語られた。しかし参加者が欺瞞をつく。「それは災害救助法の下だから、自衛隊さんが全力で動いてくれた。国が生活基盤の復旧もしてくれたでしょう。でも今回は武力攻撃事態法でしょう?自衛隊は作戦で手いっぱい。ミサイルで潰れた家や牧場を国が補償してくれるんですか?法律には書かれてないが、元に戻してくれるなら今約束して欲しい」

住民という立場で参加していた一人の自衛隊員がたまらずに発言した。
「助けないんじゃないか、と言われますが、そんなことはありません。少なくとも我々は町民避難を最優先に考えています!」
この隊員に気持ちに偽りはないだろう。でも私は泣きたい気持ちになった。真っ先に犠牲になる可能性が高い与那国島の部隊の隊員が、それでも住民を守ると言う。玉砕ありきで見捨てられた沖縄守備軍と島民という、沖縄戦の構図がダブる。与那国島の豊かな自然と暮らしを何一つ汚さずに存続させる道はないのか。島の自衛隊員は災害救助隊に生まれ変わって歓迎されて島で暮らす。そんなゴールを目指せないものかと願わずにはいられない。

三上智恵(当会発起人・映画監督・ジャーナリスト)

※本稿は三上さんの了解を得て「ふぇみん」3367号に投稿されたものを転載しています。

ふぇみんホームページはこちらです。⇒https://www.jca.apc.org/femin/

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