メルマガ122号

 今回は「南西諸島軍事強化トピック」です。当会発起人の新垣邦雄さんに解説していただいています。ぜひお読みください。

南西諸島軍事強化トピック(4月17日~4月23日)

◇先島にPAC3展開 北朝鮮衛星で破壊準備命令(琉球新報 2023.4,23)
◇沖縄へ迎撃ミサイル展開 PAC3与那国では初 北朝鮮衛星に破壊準備命令(沖縄タイムス 2023.4.23)

PAC3は「基地を守る装備」
 浜田防衛相は4月22日、北朝鮮の「軍事偵察衛星」発射計画に対し「破壊措置準備命令」を発令した。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を「石垣、宮古、与那国に展開」するという。台湾有事への対処だけでなく、北朝鮮の動向への対処を名目とする沖縄南西諸島の「ミサイル要塞化」がさらに加速しかねない。琉球新報、沖縄タイムスは1面トップ、社会面や政治行政面にも記事を大きく掲載、本土各紙の扱いは中面で小さい。

 沖縄国際大学の前泊博盛教授は「戦争になれば軍隊のある場所が標的になるというのが沖縄戦の教訓だ。自衛隊を先島に配備して標的化し、その標的を守るために迎撃用ミサイルを置く。本末転倒だ」(琉球新報)と批判した。「PAC3は、国民や住民を守るためでなく、基地を守るための装備に過ぎないのではないか」と指摘する。筆者も同じ疑念を抱く。

 パトリオット3(PAC3)ミサイルはいかなる代物か。米軍需企業レイセオン社が開発した地対空ミサイルであり、「海自イージス艦の迎撃ミサイルが撃ち漏らした場合に、配置位置から数十キロメートル程度の範囲で迎撃」(ウィキペデイア)などとある。
 それを宮古、石垣、与那国に緊急配置するという。島々への自衛隊ミサイル部隊配備と連動するものではないか。防衛相は「日本領域に落下が予想される場合に迎撃」と「国民を守る」対抗措置を強調するが、前泊教授は「基地を守るための装備」と看破する。

攻撃と防御は一体
 「攻撃と防御は一体」と言われる。復帰前の沖縄には対中国のメースB地対地核ミサイル・メースB基地が勝連(うるま市)、読谷、恩納、金武の4カ所に配置され、それぞれ核ミサイル8発の発射口を備え、照準を「北京、上海、武漢、重慶など大工業都市」に向けられていた(『沖縄と核』NHKドキュメント放送の著作版)。敵国を攻撃する地対地核ミサイルの周辺にはナイキ・ハーキュリーズ地対空核ミサイルが配備されていた(同)。敵国への核攻撃ミサイル基地は必然的に敵ミサイルや戦闘機の標的になるため、一網打尽に迎撃する「地対空核ミサイル」が配備されていたのだ。
 沖縄、先島の陸自ミサイル基地には中国に届く千キロ、2千キロ、3千キロの長射程ミサイル配備が確実視されている。「台湾防衛」だけでなく、北朝鮮有事にも備える「攻撃基地」防衛のための「迎撃ミサイル」ではないのか。あるいは北朝鮮ミサイル対処を名目とする「台湾有事」対処のミサイル軍備強化の疑念を拭えない。中国、北朝鮮は「防御」を突破する「攻撃力」を高めることだろう。沖縄が有事下で標的となる危険性がさらに高まることは間違いない。

石垣市長は「受け入れ」
 玉城デニー知事は「唐突」と反発し、国に説明を求めるため「情報精査」を表明した(タイムス)。一方、防衛省からメールでPAC3配備の連絡を受けた石垣市の中山義隆市長は即座に「受け入れる」と表明した(新報)。「市民の安全が最優先」というが、国から詳しい説明も聞かぬままの「受け入れ表明」は無責任だ。同市長は「防衛は国の専管」と公言、責任を国に預けて長射程ミサイルの配備を容認、有事下の「全島民、観光客避難」、逃げきれない市民のための「2千人」程度の「シェルター設置」で事足れりとする発言を繰り返している。「ミサイル基地は標的になる」と訴える市民の不安に答えるべきだ。

 軍事ジャーナリスト小西誠氏は先島へのPAC3展開が「各種の長射程ミサイル配備に加え、PAC3の先島常駐配備への布石」となる可能性を指摘する。特に地対空ミサイル配備と18ヘクタールに及ぶ大規模な基地建設計画に対する賛否で揺れる与那国島を「北朝鮮脅威論で煽り、地対空ミサイルの必要性を強調する」狙いを見て取る。

 そもそも沖縄の島々に多国を脅かす軍隊がなければミサイルの標的となる理由はない。自衛隊、米軍の軍備強化が沖縄の戦場化を招く。脅威論に煽られず、島々の「ミサイル要塞化」に歯止めをかけることでしか「戦争のない平和な沖縄」は守れない。

◇那覇軍港移設 日米が合意 浦添沖合「現有機能を維持」(沖縄タイムス 2023.4.21)
◇軍港計画日米合意 浦添西海岸埋め立て 反対署名3万超す(琉球新報 2023.4.21)
◇移設で機能強化も あいまい「現有維持」(琉球新報 2023.4.21)
◇宝の海 埋めないで 浦添市民ら反対相次ぐ(琉球新報 2023.4.21)
◇社説 軍港移設で日米合意 基地押し付けの象徴だ(沖縄タイムス 2023.4.21)

「宝の海」埋める軍港浦添移設
 県都那覇市の正面に居座る米軍那覇軍港の浦添市地先への移設に日米合同委員会が合意した。那覇近郊で唯一、手付かずの自然が残る浦添西海岸の「宝の海」が、新たな軍港建設で破壊されようとしている。米軍普天間飛行場の移設先としてジュゴンが棲む名護市大浦湾に新基地建設が進むかたわらで、浦添市のサンゴと熱帯魚の海も新軍港建設で埋め立てられるというのだ。市民は「奇跡の海を埋めないで」と悲痛な声を上げ、反対する市民の頭越しの移設合意に「誰が誰と合意したのか」と不条理を憤っている。

沖縄の島全体が米軍基地
 戦後米軍占領下で米軍は嘉手納基地、普天間基地、那覇軍港を建設し、県民の意思、日本政府の施政の及ばない米軍統治下で「自由使用」した。沖縄返還交渉をまとめた米国政府文書を紹介・解説する『ケーススタディー沖縄返還 検証米秘密指定報告書』(岩波書店)で、返還交渉にあたった米高官モートン・ハルぺリン氏は「沖縄に米軍基地がある、のではなく沖縄全体が基地の島、というのが米軍部の見解だった。自由に使えて、どのような軍事作戦でも展開できる沖縄の島全体を、一つの米軍基地、と考えていた」と証言した。ハルぺリン氏はまた「返還交渉で米側が最も重視したのは米軍基地の完全なる自由使用だった」と証言している。
 沖縄返還の日米交渉の焦点は「核戦力維持」と「基地自由使用(自由出撃)」であったとされる。「核再持ち込み密約」と「基地自由使用」の日米合意で米軍の意図は満たされた。台湾有事、朝鮮有事で「沖縄全体で一つの米軍基地」が自由使用される。のみならず「極東」から米軍が意図する世界中に日米安保体制は領域を広げ、米軍が望むところどこへでも自衛隊が付き従う日米軍事一体化が完成形となった。

「移設条件付き」の首輪
 米軍占領下に作られた那覇軍港は沖縄復帰時の最重要の「返還要求」米軍施設であり、復帰後も湾岸戦争時などを除いて遊休化した那覇軍港は「返還要求」の最重要テーマだった。復帰後1974年に那覇軍港は「県内移設条件付き」返還に日米が合意した。沖縄が要求する米軍施設返還に「県内移設条件付き」の首輪がはめられ、普天間も那覇軍港も沖縄から出ていくことはない。沖縄県は県内移設条件のない「無条件返還」を要求し続け、那覇市長選挙、移設先に上がる浦添市長選挙でも重要な争点となったが、2000年代に入り浦添市長が「移設容認」に転じ、那覇市長、県知事も右へならえで移設容認となったのが今に至る経緯である。

 県知事、浦添、那覇市長が「移設容認」しているから県民が受け入れる筋合いではない。タイムス社説は「基地押し付けの象徴」と見出しに打った。タイムス社説はこう書く。「SACO合意(沖縄軍事負担軽減の日米合意)のネックは『県内移設』の条件である。こうした(移設条件付き)返還が続けば、沖縄は未来永劫、基地と隣り合わせに暮らさねばならなくなる。この事態を放置していいはずがない」。浦添移設新軍港は恒久米軍施設と化す。戦後100年を超えて、米軍基地の「県内たらい回し」を許すわけにはいかない。

「移設反対」県民意思問え
 筆者は県知事、那覇、浦添市長が移設容認であっても県民投票、少なくとも市民、県民アンケートで「浦添移設」是非の県民意思を問うべきだと新聞論壇等で主張してきた。沖縄は未来永劫、米軍基地と暮らし続けねばならないのか。浦添移設軍港も辺野古新基地も「台湾有事」の日米軍事戦略に組み込まれ、沖縄を戦場化するリニューアル巨大軍事基地となるのは目に見えている。県民が生き残るために新基地建設は拒否するしかない。

 前掲の『ケーススタディー沖縄返還』でハルぺリン氏は、「米国が最も重視したもの」について正しくは「沖縄だけでなく、日本本土も含む、すべての米軍基地の自由使用」だったと証言している。中国や北朝鮮から米国を守る自衛隊PAC3は沖縄だけでなく日本本土にも配備されている。沖縄が反対したオスプレイは今や本土の空を飛んでいる。米国防総省総省シンクタンクは台湾有事シミュレーションで嘉手納だけでなく岩国、三沢、横田の使用も見込んでいる。日本全体が米軍の自由使用基地と化している。日本が生き残るためにどうすべきかを本土の人々も考えるべきだ。

新垣邦雄(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 発起人)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

以下の注意事項をご確認の上、良識あるコメントにご協力ください

  • コメントをいただいてから掲載まで、お時間をいただくことがございます。
  • 各コメントに対して当会より個別の返信はおこないません。回答を必要とする当会へのお問合せは、お問合せフォームにてお受けいたします。
  • 当会の目的や参加者の交流促進に寄与しないと当会が判断したコメントは、掲載を見送らせていただく場合がございます。
  • 投稿コメントの公開を希望しない場合は、コメントの記入欄にその旨ご記載ください。また、お名前のみ公開を希望しない場合、お名前欄にペンネームをご記入ください。

*